第24話 三人で一部屋
カイさんの計らいで彼らが泊まる宿屋で部屋を取ってもらえることになった僕たちは、夜に落ちあうことを約束してから一度別行動をすることにした。
明日はティアとネイアの二人と観光することに決まっているので、メレッタさんに一度顔を出すように言われていたこともあり、ついでに軍資金を調達がてらプーテルの冒険者ギルドへと向かう。
やはりと言うべきか、ロージのギルドとはけた違いの大きさで、二階建ての石とレンガを組み合わせて作られた建物はとても立派だった。
スウィングドアを潜り中に入ると、たくさんの冒険者たちが受付に並んだり酒場でグラスを酌み交わしたりしている姿が目に入る。
ただ、やっぱり二人の恰好は目立つようで誰かが「すげえ……」と言ったのを皮切りに、一瞬で視線を集めてしまった。
「うーん……。早めに切り上げたほうが良さそうだね」
居心地の悪さを感じた僕が、そそくさと受け付けへと並ぼうとしたとき、受け付けの外れでちょいちょいと手招きしている女性が目に入る。
周囲を見渡してから、もしかして僕たちですか? と自分のことを指さすと、コクコクと頷くのでそちらへと向かった。
「あなた、もしかしてシズク君じゃない?」
「ええ、そうですが……」
「やっぱり! メレッタからの報告通りね。赤いドレスと黒いメイド服を着た美女を二人連れた可愛い男の子が行くはずだから、よろしくって報告が来てたのよ」
「ああ……」
明日は二人に新しい洋服を買おう。
そう心に決めていると、受け付けの横に併設された階段を上り二回へと案内された。
女性がコンコンと扉をノックすると、中から低い声で「入れ」と許可があり、中へと通される。
「ん? ああ、報告の三人組か。すぐ済むから、座って待っててくれ」
デスクの前に置かれた、ローテーブルを挟んで対面に二組設置してあるソファ。その片方を指さしながら、男性がそう言った。
僕たちは言われた通りソファに腰かけながら、出された紅茶を飲みながら時間を潰す。
男性は細身にパリッとしたグレーのスーツを着こなし、左目に片眼鏡をつけている。
焦げ茶色の前髪がM字のように左右に別れ、キリッとした知的な目元はとても仕事ができそうな雰囲気を醸し出していた。
しばらくすると男性が立ち上がり、僕たちの前に設置されたソファへと腰掛ける。
「待たせてしまい、すまないね。私はフェウス、ここのギルドマスターをしている。それで、君たちが報告にあったカマーセたちを撃退した上ダンジョン内でオークキングを討伐したという、シズクとティア、そしてネイアで間違いないか?」
「カマーセというのが彼女たちに暴行しようとした男のことなら、間違いないですね」
「ふむ。メレッタから聞いているかもしれないが、彼らのスポンサーにはメッサ様がついていてね。すでに当ギルドにも、カマーセたちが捕まったという情報を聞きつけたメッサ様が怒鳴り込んできている。君たちのことはまだバレていないようだが、血眼になって探しているようだから時間の問題だろう。くれぐれも気を付けなさい」
「……はぁ、わかりました」
「ま、君たちなら問題ないだろうけどね。なんせ個人でB級、パーティならA級だったカマーセたちを苦も無く一蹴したそうじゃないか」
「……え?」
B級といえば、上から数えたほうが早いくらいの等級じゃないか。
酒に酔っていたとはいえ、そんなに強くなさそうだった――などと考えていたら、筒抜けだったのかフェウスさんは腹を抱えて笑い出し、ティアとネイアがやれやれと肩を竦めている。
「さすが、オークキングをソロで討伐するだけの事はあるな。あいつらなど相手にもならなかったか。一応、プーテル周辺では1,2を争う冒険者だったんだけどな」
それからフェウスさんは、メッサ様の特徴など様々な情報を教えてくれたばかりか、ギルド宿舎で匿うこともできるなど僕たちの身を守るための提案もしてくれた。
ただ、カイさんの護衛などもあり丁重にお断りさせてもらうと、必要になればいつでも尋ねて来いと優しい言葉をかけてくれる。
素材の買取の話にもなったので、山の中でため込んでいた分全てとオークキングの肉以外の素材を全て売り払い、金貨300枚――3000万コルを受け取った。
サンダーバードについては騒ぎになるからやめた方が良いと二人に口酸っぱく言われていたので提出せず、ワイバーン5頭はカイさんが買い取りたいとのことで、支払いは後日まとめてだけど死体自体はすでに全部渡してある。
ふぅ、これでまた倉庫(マジックボックス)に余裕ができた。
「A級パーティの捕縛協力、ならびにプーテル第一ダンジョン制覇とイレギュラー出現のオークキング討伐。そして、今回の素材販売による貢献度を考慮し、シズクをC級に。ティアとネイアの二人をD級へと昇級させることにした。シズクに関してはA級、二人もB級にしてもいいくらいの内容なんだが、B級以上への昇級にはギルドマスター五人以上による推薦か、王都での試験が必須なんだ。力及ばずですまないな。まだ足りないとは思うが、私の方からも本部へ推薦状を送っておくよ」
「ありがとうございます」
フェウスさんにお辞儀をしてから、ギルドを後にした僕たちはカイさんと落ち合うべく宿屋へと向かう。
ただ、ここで予想もしていなかった大きな……大きな問題に直面することになった。
どうして、どうして僕たちが三人で一部屋なんですかっ?!
え?! 恋人同士、久しぶりにゆっくりと過ごしてくれ?!
まさかあの時否定しなかったことで、こんなことになるなんて……!!
なんとか部屋を分けてもらおうと、こっそり受け付けに行くもすでに満室で空きはないそうだ。
それならばとカイさんかジェンさん、ウォルスさんたちの部屋の床で良いから貸してくださいとお願いしてみたものの、なぜかみんな顔を青ざめさせて無言のままブンブンと首を横に振るばかり。
僕は最後まで、カイさんたちがお願いを聞き入れてくれない理由が背後で邪魔しないでくださいと恐ろしい笑みを浮かべている二人なのだと気づけないのだった―――。
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