第22話 カモフラージュ
執事服の老人が男性たちの状態を確認していき、意識は未だ戻らないものの全員の容体が落ち着いたと言ってくれたことで、ようやく僕はほっと胸を撫でおろした。
「本当に……本当にありがとうっ! 君たちがいなかったら、
「いえ……。皆さんが諦めず、最善を尽くした結果だと思います。僕一人では、どうにもできませんでした」
「君は――いや。なら今は、ぼくが勝手に君たちに感謝し、ぼくが勝手にお礼を言っていると思っていてくれ。それで、なのだが。非常に厚かましいお願いだとは理解しているが、どうかぼくからの依頼を引き受けてもらえないだろうか」
「依頼……ですか?」
「ああ。ぼくらはウェルカ帝国の中心である帝都イシラバスへ向かっている途中なんだけれど、この先のプーテルで一度休息をとる予定でいたんだ。ただ、今はこんな状況だからね。彼らが回復するまでの間はここから動けないし、動けるようになったとしても護衛を任せるのは酷と言うものだろう。そこで、君たちに護衛依頼を頼めないだろうか。期間は今からプーテル、もしくはイシラバス到着まで。報酬はプーテルまでなら300万コル、イシラバスまでなら500万コルでどうかな。もちろん、それとは別に今回助けてもらったお礼などもさせてもらう」
「……少し彼女たちと相談させてもらっても良いですか?」
もちろんだ、と頷いてくれた青年に一度頭を下げてから、ティアとネイアと共に少し離れた場所へと移動した。
「妾はシズクの意見に従うのじゃ。こういうのは
「主……?! 僕が?!」
「そうですよ? 私たちはシズク様の愛の下僕ですから。いつ夜伽を頼まれるのだろうと、毎晩ソワソワしています」
「いや、頼まないからね?! 絶対人前でそんなこと言っちゃダメだよ?!」
「フフ、照れるシズクも愛いのう……。食べてしまいたいのじゃ……」
ゾクゾクッと身体を震わせながら、自分の唇をぺろりと舐めるティア。
その姿があまりに妖艶で刺激的過ぎて、僕は思わず目をそらした。
「お嬢様、シズク様が困ってらっしゃいますよ。お気持ちは十二分にわかりますが、
何やらネイアが説得してくれたことで普段のティアに戻ったけど、なぜか僕はゾクリと背筋に冷たいものが流れるのを感じた。
あれ、今日はそれほど寒くないんだけどな……。
二人に依頼を受ける意志を伝えると、いくつかの注意事項を説明された僕は、聞き終えると青年の元へと戻った。
「この出会いも何かの縁なのでしょう。その依頼、受けようと思います。ただ、2つ条件があります」
「む、本当かっ?! ありがたい! それで、条件とは?」
「1つ、イシラバスまで護衛するかどうかはプーテルについてから決めさせてください。2つ、護衛中に知り得た僕たちの情報を、不用意に他言しないでください」
「現状の難関はプーテルへの到着だから、その程度の条件なら全然問題ない! ぜひ宜しく頼むよ! あ、紹介が遅れたね。ぼくはカイ、あっちは執事のジェンだ。彼らは起きてから、自分たちで紹介させるよ」
「ご丁寧にありがとうございます。僕はシズク、二人はティアとネイアと言います。では、最初の仕事としてしばらくゆっくりできる野営拠点を設営しちゃいますね」
「う、うん……?」
カイさんは何を言ってるの? って顔をしてるけど、二人と事前に打ち合わせているから問題ない。
僕はある程度の広さがある平坦な場所を選ぶと、ティアとネイアと共に屈みこんで地面に手をつき、地魔法で横に広い岩の平屋を生成した。
といっても、本当に家の形をしているだけの岩だから、内装もへったくれもないんだけど。
平屋の中央に玄関を設け、左右をかんぬきつきの扉をつけた壁で仕切ることで、僕たちとカイさんたちの二世帯住宅のような感じにしてある。
完全に分けても良かったんだけど、いざっていうときに室内で合流できるようにしたほうが安心かなって。
二人が一緒に屈みこんだのは、三人で魔法を使っているように見せかければカモフラージュになる、とのアドバイスをもらったからだ。これ以上僕のことを変な目で見る人を増やしたくなかったから、その案を即採用したのは内緒だよ。
「ひとまずこれで、突然の襲撃に怯える必要はないと思います。雨風もしのげますし、動けるようになるまではこちらを使ってください」
「あ、ありがとう……?」
カイさんはびっくりしたような顔をしているけど、二人のアドバイスのお陰で変な目は向けてこない。やったね!
次に、ティアとネイアにカイさんたちの護衛を任せた僕は、討伐したワイバーンたちを回収していく。せっかく作った各属性のマジックボックスもほとんどいっぱいになってしまったので、こっそりと『氷』属性の『アイスボックス』も作っておいた。
戻りがけに木を何本か伐採し、ベッドの材料を回収することも忘れない。
偽装マジックバックの容量を疑われないために、何往復もしたけどね。
「ティア、ネイアも手伝ってくれる?」
共同で作りますよとアピールをしてから、家の中で全員分のベッドを組み立てていく。
残念なことにシーツなどを作る材料はないので、ベッドに例のぷよぷよした塊を敷くだけの簡素なものだけど。
それでも床の上に寝かせて置くよりはマシだろうと思ったんだけど、ここでカイさんとジェンさんからついに変なものを見る目を向けられてしまった。
「さ、三人の野営はいつもこうなのかい……?」
「見張りは必要とはいえ、安心して眠れる家にベッド……。とんでもないですじゃ……」
ティアとネイアも今までの僕の気分を味わったのか、僕のほうを申し訳なさそうにちらりと見た。
ベッドを9つ完成し終えると、まずは眠ったままの護衛の人たちを僕とカイさんとジェンさんの三人で慎重にベッドへと移していく。
全員を運び終えたあとは、ついにカイさんとジェンさんもベッドのお試しだ。
「細かい調整もできますので、何か気になる部分があれば言ってくださいね」
「な、なんだいこれは?!」
「こんな心地よいベッド、長いこと生きて来ましたが初めてですじゃ!!」
カイさんたちもティアたち同様一瞬で虜になってしまったようで、心行くまでベッドを堪能している。
そうしないうちに落ち着くだろう。
と、思っていたんだけど……。
五分近く経過しても二人は何度も寝返りをうってみたり、弾力を楽しむように深く身体を沈めこんだりと、落ち着く気配がない。
依頼主だからと遠慮していた僕も、さすがに二人をベッドから引っぺがしにかかるのだった―――。
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