第15話 素材を売却したら
1時間足らずで出発の準備を終えた僕たちは、善は急げと言わんばかりに早速根城をあとにして下山していた。
また戻ってくる可能性もあるので、洞窟の奥に山積みにしてあった素材だけをアイテムボックスにしまいこみ、中を荒らされないように入り口を岩で塞いである。
たとえ冒険者などがあの山に足を踏み入れても、まず気づかれることはないだろう。
二時間かからずに山を脱したあとは、ひとまず一番近い町へと向かうことにした。
僕はもちろん、ティアとネイアも人間界のお金はもっていないそうなので、目下の課題は金策なのだ。
ティアいわく、溜まっていた素材を売ることさえできれば、当分お金には困らないだろうということだった。ウェルカでも僕の指名手配書が出回っているかも調べなければならないので、一石二鳥という訳。
「おう、みねぇ顔だな。綺麗どころを二人も連れて、坊主だけで大丈夫か? こう言っちゃなんだが、ここは治安が良いとは言えないぜ?」
町の入り口に立っていた冒険者風の若い男性が、ティアとネイアの二人を見た後僕を見て、困り顔でそう告げた。
「大丈夫だと思います。そう長く滞在する予定はないので。僕たちは魔物の素材を買い取ってほしくて寄ったのですが、どこに行けばいいんでしょうか?」
「それなら冒険者ギルドだな。素材屋もあるが、新規相手だとぼったくるからやめたほうが良い」
「わかりました。ご丁寧にありがとうございます」
ぺこりと頭を下げてから町に入ると、教えてもらった冒険者ギルドへと向かい歩いていく。
この町はロージというらしく、なんでも近くに魔物が跋扈する危険な山があるそうで、その関係もあり冒険者が多いのだそうだ。
初めて見る人間の町を興味深そうに観察する二人を、遠目から観察する男たち。
うん、さっそく注目を集めているね。見た感じ女性の数が少ないし、やっぱり目立つのかな。
一応警戒しながら進んでいたんだけど、幸いなことにギルドへ到着するまで絡まれることはなかった。
「すみません、素材の買取をお願いしたいんですが」
開けっ放しになっていた扉をくぐり中へと入った僕たちは、受け付けでそう声をかけるも反応がない。
「む? まだ営業しておらんのかの??」
「どうでしょう? 一応中に人はいるようですが」
二人が話していると、女性の声に反応したのか受け付けの中で寝ていたスキンヘッドの中年男性が飛び起きて慌ててやってきた。
「女の声?! ってなんだよ、男連れかよ。期待させやがって。あー、ようこそ冒険者ギルドへ。俺は職員のヘスキンだ。で、なんだって??」
「はぁ……。素材の買取をしてもらえると聞いたんですが」
「ああ、できるぜ。冒険者カードを出しな」
「持ってません」
「そっちの二人は?」
二人が首を振ると、どうしたもんかと考え込むヘスキンさん。
「別に登録しなくても買取はできるが、その場合は3割引きになっちまう。特に面倒な手続きもいらないし、登録してっちまうか?」
「登録には何か必要なものがありますか?」
「いや、お前らなら特にねぇな。本来は何かしらの魔物を討伐してきてもらうんだが、素材を持ってきてんだろ? それで十分証明になる。別に自分で倒してこなきゃならねぇ決まりもねぇしよ」
「なら、お願いします」
言葉通り本当に面倒な手続きは必要なく、名前と得意な戦闘スタイルを記入し、ギルドカードと呼ばれるプレート型の魔道具へ魔力を少量流し込むだけで済んでしまった。これで魔力情報がカードへと登録され、持ち主を識別できるのだそうだ。
それならばと、ティアとネイアの二人も冒険者登録をしたいと言い出し、あっさりと登録できてしまうのだから驚きだ。
こんなに緩くて良いのだろうか? と不安になっていると、ヘスキンさんは面白そうに笑う。
「管理があめぇって思ったんだろ? いんだよ、冒険者は職業柄入れ替わりが激しいからな。細かく精査したところで、無駄になることのほうが多いんだ。その代わり、身分証明にも使いたいならそれなりに手続きが必要だぜ。どうする?」
「いえ、今のところ必要ないので大丈夫です。それで、買取をお願いしても良いですか?」
「ああ、かまわねぇぜ。あっちのテーブルに置いてくれるか?」
アイテムボックスは悪目立ちするとのことだったので、二人との事前の打ち合わせ通りリュックから取り出しているフリをしてテーブルに並べていく。
これなら、リュックがマジックバッグなのだろうと勘違いしてくれるのだそうだ。
ないとは思うが安く買いたたかれない保証もないので、念には念を押して全体の三分の一ほどだけにしてある。
それでも多かったらしくて、ヘスキンさんの顔がピクピクと引きつっていた。
「おいおい、すげぇ量だな……。ってちょっと待て! これ、もしかしてオークジェネラルの牙か?! こっちはキラーボアの毛皮?! おい、
ひどく動揺した様子の男が声を荒げたせいで、併設された酒場で飲んでいた冒険者たちがぞろぞろと集まって来てしまった。
目立ちたくなかったのに、困ったな。
僕が良い顔をしていないことに気づいたのか、すまんと手を合わせて軽く頭を下げるヘスキンさん。
少し時間がかかるとのことで、ギルド内で冒険者についての本などを読んで時間を潰していると、たった今ギルドへ入って来た男の人が僕の顔を見て『あーーーっ!!』と大きな声を上げながらドタドタと走り寄ってくる。
「なぁ! もしかしてお前、2ヶ月くらい前にネムラ山に入らなかったか?!」
「ネムラ山かどうかはわかりませんが、ちょうどそれくらいにあっちのほうにある山には入りましたよ?」
僕が指さした方角を見て、男の人はやっぱりそうだよな!!! と嬉しそうに声をあげると急いで酒場のほうへ駆けていった。
一体なんだったんだろう……??
僕は二人と目を見合わせ、首を傾げるのだった―――。
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