第16話 サンダーバード
ヘスキンさんに査定を依頼してから、三十分ほどが経過した。
まだもう少しかかるみたいだけど、僕は冒険者制度についての本を読み終わってしまった。
要約すると、冒険者にはF~Sまで七段階の等級が存在し、Sに近づくほど依頼の危険度は上がるものの、その分報酬も良くなっていくというものらしい。
D級までは月に一度の活動義務が課せられており、依頼を一回達成か10万コル以上の買取をしてもらわないと、登録情報が失効して除名処分となってしまうそうだ。
逆にC級以上になると活動義務が無くなるばかりか、買取金額・依頼指名料が10%アップする上に、ギルドからの直接依頼も受けられるようになるとか。
あとは、依頼中に起こった不慮の事故には一切対応しないとかが重要なところかな。
あ、それと冒険者同士の死闘も禁止されていたっけ。
頭の中で本の内容を復習していると、ヘスキンさんが僕たちを呼びに来た。
「待たせたな。査定が終了したから、受け付けのほうに来てくれ」
受付に移動したあと、ヘスキンさんが買い取り金額の内訳を読み上げてくれる。
どうやらティアたちの言っていたように、本当にただのオークや山猪じゃなくて上位の魔物だったらしくて、金額がとんでもないことになっていた。
「――という訳で、合計金貨7枚――70万コルになった。ギルド預金に預けることもできるし、そのまま持ち帰ることもできるがどうする?」
あー、確か預金は本人が死亡した場合はギルドに回収されちゃうんだっけ。
「持ち帰ります。それと、ここから一番近い大きな街っていうとどこですか?」
「はいよ。それなら、ここから北西の方に進んで行くとプーテルっていう街があるぜ。途中にダンジョンもあるから、腕試しにももってこいだ」
「なるほど……。ありがとうございます」
「おう、十分気を付けてな。それから、お前らは登録したばっかだがさっきの素材のことを考慮して、早くもFからEへと昇級だ。おめでとさん!」
それを聞いていた他の冒険者たちが、オーと感心した声を上げながら拍手をしてくれた。
ギルドを出る際、先ほど僕に声をかけてきた男性が再び駆け寄って来る。
「お前のお陰で、一度は負けたと思ってたのに一発逆転、大勝ちできたぜ! 本当にありがとよ! これは少ないがお礼だ、連れの女にでもなんか買ってやんな!」
そう言うや否や、銀貨を5枚手渡してきた。
訳がわからず、でも詳しく聞くことも怖かったので、どういたしましてとだけ言って素直に受け取っておいた。
あっという間だったけど、この町にもう用はないし出発することにしよう。軍資金もある程度潤ったしね。
ティアとネイアもすでに興味は次の場所へと移っているようで、どこかウキウキとしている。
「ほら、早くせぬと日が暮れてしまうのじゃ! 急ぐぞ、シズクっ!」
「さ、シズク様。お嬢様は先に行きたいようなので、私たちはゆっくりと二人で行きましょうか」
「ネイアーーーっ!! 抜け駆けは許さんと言ったはずじゃ!」
女性陣が手を組みあって格闘しているが、ほっておこう。
この二人に馴染んできている自分が、ちょっと怖い……。
◇
ロージを出発した僕たちは、野営をしつつ一路北西のほうへと進み続けた。
野営は地魔法で岩の家を建てれば良いし、食事は
最初こそティアとネイアの二人はどこかおかしい……とブツブツ言っていたが、三日もすれば順応してしまった。
そうして進むこと2週間ほど。平野を抜け小高い丘を越えると、一面に青い草木が生い茂る平原へとたどり着いた。
見渡す限りの豊かな緑に、僕たち三人は思わず深呼吸して綺麗な空気を身体へと取り込む。
「味なんてないはずなのに、空気が美味しく感じるよ」
「わかるのじゃ。爽やかな感じがするというか、不思議じゃよな」
「気持ちが安らぎますし、やっぱり緑って良いですよね」
そんなことを話していると、辺りが突然薄暗くなった。
いや、少し離れたところは普通に明るい。ということは……まさか影?!
「上だっ!!」
僕の声に一斉に顔を上げた二人は、上空から迫る大きな物体に気づき目を見開く。
「なんじゃアレはーーーーっ?!」
「なんか降ってきますよ?!」
最初は黒い点のようなものだったのが、近づいて来るについれて徐々に輪郭がハッキリしていく。どうやら、凄く大きな鳥らしい。
狙いは僕たちのようで、こちらを見つめたまま凄い早さで急降下してくるので間違いないだろう。
「威嚇で構わないから、あいつに向けて魔法を放って!!」
「む?! わかったのじゃ! 『闇刃』!」
「『風刃』!」
二人の魔法は羽をかするにとどまるが、十分だ。
攻撃されたことで怒り狂った鳥はさらに速度を増し、キェェエエエエと大声を上げながら突っ込んでくる。
「横に飛んでっ!!」
ギリギリまで引き付けてから地魔法で分厚い壁を作り出すと、ティアたちと共に横へと大きく飛び退く。空中で身体を反転させながら鳥の方へ手をかざし、上空に逃げられないように風魔法で下向きの強風も発生させておいた。
大きな鳥は狙い通り急上昇して回避することも、かといって速度が出すぎていて急停止することもできず、ドカーンと大きな音を立てて壁へと追突。嘴が鋭かったためか、勢い余って頭部だけ壁を貫通し、まるで断頭台に固定されているような状態だ。
なんとか抜け出そうと羽をばたつかせて暴れてるけど、あれだけ綺麗にハマってしまうとどうにもならないだろう。
「ふぅ、びっくりしたね……」
全長4~5mはあろうかという巨体。猛禽類のような厳つい頭部は白い羽毛で覆われ、身体は黄色い羽毛で、尾羽は白と黄色の縦ストライプ模様になっている。
身体中がバチバチと雷電を発してるし、なんだか怖い鳥だね。なんて思っていると。
「さ、サンダーバードっ?! なんでこんなところに?!」
「これは魔界に住む魔鳥ですよ! シズク様、人間界にもサンダーバードがいるんですか?!」
「うーん……? 確かに、本には魔界に住む魔鳥って書いてあったね。でも、ここにいるってことはサンダーバードじゃないんじゃない? ほら、なんか似たようなただの大きな鳥とか」
「「こんなに大きくて雷電を纏った鳥がそうそういるわけないのじゃ!(でしょう!)」」
二人に声を揃えて怒られてしまった……。
サンダーバードはとても恐ろしい魔物で、街1つくらいなら容易く壊滅させるほどの力を持つって書いてあったんだよ? 初級の地魔法と風魔法程度でどうにかできるわけないじゃん。
納得のいかない僕は、思わず顔を顰めるのだった―――。
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