第5話 和解成立?
メイド服の女性を拘束している土塊を動かし、二人を横並びにしたあと僕は二人の目の前に立った。
「さて。話し合いに応じるつもりはありますか?」
「あるわけないでしょう! さっさと奴隷商に売りつけるなりしたらどうですか! それが狙いなのでしょう?! ですが、私たちは必ず復讐しにいきますから、覚えておいてください!」
うーん、過激だなぁ。
まぁでも話し合いができないなら仕方ない。今後も命を狙われ続けてもたまったものじゃないし、一方的な理由で僕を殺そうとするんだから、自分が殺される覚悟もあるのだろう。
自らの手で殺す気はないけど、ここに放置しておけばいずれ魔物に喰われるか餓死するはずだ。
話し合いを諦めた僕は、踵を返すと根城にしていた洞窟のほうへ向けて歩き出す。
「ま、待つのじゃ! いや、待ってくださいなのじゃ。お願いします、どうか話し合いをさせてほしいのじゃ」
ちらりと振り返れば、覚悟を決めた顔をしている女性の姿が目に入る。
メイド服の女性は驚いた様子をしているが、真剣なお嬢様の顔を見て黙り込んでしまった。
「良かった。といっても、僕からする提案は1つだけです。お互いにここでは出会わなかったことにして、今後関わらない。それだけです」
「……何が目的ですか?」
信じられないといった様子でこちらを睨むメイド服の女性。
「言ったでしょう? 僕はここでひっそりと暮らしたいだけなんです。お二人が
「……どういうことなのじゃ?」
特に隠すようなことでもないので、今まであったことをかいつまんで説明した。
最初こそ興味深そうに聞いていた二人も、後半になるにつれてどんどんと顔をひきつらせていく。
「……ということでして。王の怒りに触れてしまったので、この首には賞金がかけられているようなんです。あ、もちろんお金ほしさに僕を狙うつもりなら、今度は容赦しませんよ?」
「ま、待つのじゃ! というか何を言っておるんじゃ?! お主、さっきテレポートを使ったと言っておったじゃろう?!」
「言いましたよ? 初級なので、移動距離は短いし気持ち悪くなるしで使い勝手悪いですけど」
「テレポート……。なるほど、それでさっき突然後ろに……。え? 一人でテレポート?! 話から察するに複数回?!」
僕の言葉を聞いて、再び目を見開き固まる二人。どうしたんだろう?
「……すまんが、この拘束を解いてくれんかの? さすがにそろそろ疲れてきたのじゃ」
「いやですよ。そう言って僕を殺そうとするんでしょう?」
「いや、もうせんよ。というか、妾たちにお主は殺せん」
「……?」
僕が不思議そうに首を傾げると、大きなため息をつく女性。
「実力が違いすぎると言っておるのじゃ。たとえ妾とネイア二人がかりであったとしても、お主には勝てん。お主の両親も王もバカよのぉ」
「……まったくもってその通りですね。なぜ誰も彼の異常性に気づかなかったのでしょうか?」
「おそらく、型にはまった初歩的なことしかさせておらんかったのじゃろう。例えば、中身も確認することなく初級は使い物にならんと断じ、ひたすら中級以上の魔法を使用させようとしていた、とかな」
「ああ……」
なぜか二人で会話して納得している。僕は完全に置いてけぼりだ。
「それで、どうかの? 正直に話すが、妾たちは人間の協力者がおらん。どちらにせよ、リスクを覚悟で誰かしらと交流をもたねばならぬと思っておった。すでに秘密を知られてしまっているお主なら、こちらにとっても都合が良い。どうじゃ? 妾の処女くらいしか捧げられるものはないが、それで手を打ってくれんかの?」
「何を言っているんですかっ?! お嬢様にそんなことをさせる訳にはいきません! 私が彼に抱かれます!」
「ふざけるでない! 妾が先に出会ったのじゃ、妾に決まっておろう!」
こちらの意見を度外視した二人のやり取りに、頭が痛くなってきた気がする。
最悪この場から逃げるだけならどうとでもなるし、もういいか。そう思い、僕は拘束を解除した。
「僕はどちらも抱く気はありませんし、そんな交換条件ならお断りさせて頂きます。では」
再び踵を返して洞窟へ戻ろうとするも、左右の腕をそれぞれ二人につかまれてしまう。
「ふふふ、まずはお主の根城に案内してほしいのじゃ。ここでは落ち着かんしのう」
「そうですね。お腹も空きましたし、食事にしましょうか」
「……僕に拒否権は?」
あきれ顔でそう告げると、うるうると瞳を潤ませる二人。
「このような危険な場所に、
「私たちは夜眠る場所もありません。どうか匿っては頂けませんか?」
うーん。
女性の涙ってずるいよなぁ。
「……はぁ。わかりましたよ、僕の負けです。ただし、本当に命だけは狙わないでくださいね」
「ああ、もちろんなのじゃ!
「ええ!
何か意味ありげに聞こえるけど、勘違いだと信じよう。うん。
もし何かするようなら、今度は土じゃなくて岩で拘束してやろうと心に決め、洞窟へと帰路をとった。
途中、偶然にもオークに出会えたのでいつものように『氷剣』で首をはねて仕留める。
ぱぱっと処理を済ませてアイテムボックスへとしまう姿を見た二人は、またしても目を見開き固まっていた―――。
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