主人公文輝は生まれも育ちも申し分ない貴族。本人も当たり前のように国の中枢を担う官吏を目指し、研鑽を積んでいたがある日事件に巻き込まれ、自分の信じていたもの、正しいと貫いてきたものが揺らぎはじめます。
その場での発言や立ち居振る舞いすべてに重い意味がつきまとい、個としての自分の存在は常に曖昧。地位や名誉、ノブレスオブリージュ、与えられた義務と自らに課した務め。名家の自分、武官見習いとしての自分を時に俯瞰し、時に疑いもなく信じて行動した結果、後悔や絶望を味わいながらそれでも前に進んでいく様子が初々しくとてつもなく生真面目で危うくて、見ているこちらがはらはらしました。同時に胸を打たれます。
それぞれの発言の裏に潜む真の意味を問答によって得ようと腹を探り合い、表情や仕草で推し量る。王宮という閉ざされた空間で起こる静かだけれど水面下では熾烈な攻防の一部始終を肌で感じられる作品です。
また不思議な伝書鳥を使ったり、「まじない」を使える人がいたりと素敵なファンタジー要素もあります。そして『陛下』の概念が面白かったです。
個人的にはあのあと彼女がどうなったのかとても気になります。(腕……!?)
東の彼の謎なども。
とても良いものを読ませていただきました。
ありがとうございました。