第二十話 偽造された環
そして、
「大変申し上げにくいのですが、
「それは
「その点に関しては否定いたしますまい。ただ」
「ただ?」
「
晶矢の発言に
環の偽造は重大な罪だ。何人たりとも、たとえ
環の偽造が真実ならば、一つ目の関を越える際にも白環を使えばいい、と晶矢たちも最初は考えた。
「偽造が行われたのが真実であれば、そこから先の可能性は二つございます。緑環が
そこまで言われて何故
そして。
「
「その質問へ一概に返答することは困難だね。でもはぐらかしていても何の解決にもならないのもまた明白。貴官が申し述べた十五名は左尚書の人事録に名が残っている」
では、と晶矢が意気込む。それを棕若は眼差しで制して「話は最後まで聞いてほしいものだね」と続けた。
「右官府の訴状にある十五名は確かに存在している。これは嘘偽りのない事実だ。けれど、左尚書の記録ではそのものたちは数年、或いは十数年以上前にそれぞれ別の地方府へ配属になっている。左尚書が彼らに上京を命じた記録も、転属を命じた記録も存在しない、という事実もまた覆しようがない」
だから、今、その十五名が
その主張が正しいのだとすると郭安州から上ってきた緑環すら偽造の可能性がある。となるといよいよ左官府、右官府の手に余る事態であることは間違いない。
左尚書の控室で待っている間、晶矢はこの結末を予見していたのだろうか。このあまりにも重大な事件を知って、それでもなお文輝の雑談に応じていたのだろうか。
答えは晶矢自身しか知らないが、それでも文輝にも一つの事実が見えた。
晶矢も棕若もお互いの主張を矛盾なく解決する手段として御史台を選んだ。
内府典礼部への白環の来歴確認。そこに至る為だけに晶矢は棕若と軋轢があるように振る舞い、そして御史大夫を巻き込んだ。それを理解した瞬間、文輝は今までに味わったことのないほどの緊迫感を覚える。
「つまり、貴官らは私を典礼部での手順を省く手段としてお使いになった、ということでありまするな」
その声は感嘆にも諦観にも聞こえる。呆れの要素が一番大きかったが、それでも大夫は自らに求められていることと、今彼が何をすべきかは正しく理解しているようだった。
確認の形で問われた言葉に棕若と晶矢が真顔で返す。
「そうだね、大変不遜ながらそうさせてもらったよ。初めからこちらの主張だけを伝えたのなら君はきっと鳥を飛ばすことすらしてくれなかった、と僕は思っているのだけれど?」
「環の偽造は重罪でありまするぞ」
「ですからこちらへ参りました」
「郭安州の関で提示された環の詳細をいただけまするか」
「是、こちらに」
晶矢の懐から新しい桃色の紙が現れる。表書きの筆跡を見るにどうやら晶矢本人の手によるものらしい、と文輝は判断した。
その桃色を受け取ることなく、大夫は更に言葉を続ける。次は棕若の番だった。
「左尚書令殿。貴殿の主張する『本来の』環の記録――も当然お持ちでおられまするな?」
「勿論。これがその写しだよ」
こちらは若草色の紙で、左尚書の書記官がしたためたのだろう。文輝の知っている棕若の筆跡ではなかった。
二つの書状が既に用意されている現状を受け入れた大夫が、ただの傍聴者で終わろうとしている文輝に一つの役割を与える。
「
「は、是!」
その声に文輝は起立し、桃色と若草色を回収して上座の大夫のところまで運んだ。用を終え、元の
内府の復号は典雅だということを思い出して、少し期待したが通信士は略式復号を行い、
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