第十八話 言葉遊び
非常事態だということをようやく
これは紛れもない有事だ。
だが、いやだからこそ、というべきだろう。
文輝の胸中には一つの疑問が浮かび上がった。
「敢えてお聞きしたいのですが、
それでも、一つだけはっきりしていることがある。
有事は文輝の理解を待ってはくれない。
それを肯定するように棕若は静かに首を横に振った。
「ない、と僕は思っているよ」
「わたしもその見解に同意する」
「ならば――」
先を急ぐべきではないのか。そう反駁しようとした文輝の言葉は棕若の微苦笑で遮られる。
棕若が不意に真剣な眼差しで射る。文輝は棕若の持つ雰囲気がぴりと引き締まったのを感じた。
「気を悪くしないでほしい。僕は君を試そうとした。そのことについては深く詫びよう。ただ」
「ただ?」
「
有事の重みを自らの目で確かに見る。その経験を与える為に文輝は同伴された。だから、遊びの気分はここで置いて行けと言われているのだ。
遅ればせながらそれを理解した文輝は背筋を正して棕若に応える。
晶矢の望みは棕若を論破することではないのだろう。その過程を経るかもしれない。それでも、その先には
「状況はわたしと孫翁の陳述を聞けばおまえにも伝わるだろう。納得が出来たなら先へ進むぞ、
晶矢が促し、三人は再び回廊を歩きはじめる。
彼女のその覚悟と胆力はどこから来るのだ、と感心すると同時に家格の差と立場の差を感じた。世間は九品を一括りにするが、二人の間にはこれほどまでに距離がある。
ほんの少しだけ無力感を覚え、そしてそれは感傷にすぎないと自嘲してかき消した。
鏡面の石畳はまだ続いている。
門兵の案内で辿り着いた回廊の果てには白木造りの
言葉もなく、その光景を受け入れる。最上段に座っていた男が「大夫がお話を伺うそうです。中へ」と案内を引き継いだ。促された三人は揃って正殿の中へ踏み入る。室内は薄暗く、大夫が上座に座っていた。向かって左手に大夫付の
「おかけになられよ」
文輝たちが中に入ったことを確かめた大夫が上座で発言する。
棕若はその高圧的な態度に臆することも不快を顕わにすることもなく、用意された三脚の
「『国家存亡の危機』を懸念して来られたとお聞きしておりまする。まずはその主張をお聞きいたしまするが、よろしいか」
大夫の問いに「
「
晶矢を
大夫は顔色一つ変えずに晶矢の訴えを聞いている。副官の片方は書記官を兼ねているのだろう。訴えが記録として残されていく。棕若がそれをどんな表情で見ているのかはわからなかったが、彼の背中には確固たる信念が宿っているように見えた。
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