第三十三話 散開
知っているがゆえに断言出来る。
「
「根拠を聞こう」
「
「では残るのは四つ、ということだね」
文輝の発言でまた一つ朱色が増えた。残ったのは四つだ。その事実が地図を取り囲んだ全員の目に光を灯す。四つなら総当たりが出来る。もう陽は落ちかかっているから、
そして。
「
「
そして華軍の顔がわかる文輝がいた方が探索の効率がいい、とも大夫が言う。
「左官府はどうされるのです」
言外に華軍の顔がわかるのものが他にいるのか、と問えば
「
だから
「大仙殿は
「それは俺が請け負おう」
「
城門の守衛である進慶は諸官の判別に長けている。進慶にわからない顔が文輝にわかる筈もないし、それ以上文輝の主張を押し通すのは無理だと判じた。溜め息を一つ吐いて、文輝は大夫と向き合う。指図を受け入れたことを示す為に深く頷けば隣の
「では畏れながら大夫。
中城、と一言にいえど駆け回る面積は膨大だ。通信士を伴わず中城に繰り出せば情報不足でたちまち判断に迷うだろう。晶矢の提案はもっともで、大夫は二つ返事で頷く。
「
副官に命じ、通信士を呼ぼうとする大夫の横面に晶矢の追撃が放たれた。
「いえ、大夫の通信士をお借りしたく存じます」
「理由をお聞きしまする」
「
御史台の緊急様式に則り、手際よく鳥を飛ばすのを文輝たちはその目でしかと見た。彼を伴う以上に心強い存在を準備させればまたときを失する。そのことを晶矢がすらすらと説明すれば大夫は困惑を顔に浮かべた。
「
「御史台の通信士はお一人ではございますまい。その采配も大夫の手腕の見せ所かと」
「
今日二度目の困窮に辿り着いた大夫は救いを求めて棕若へ声をかける。しかしそれはこのうえない微笑みで打ち消された。食えない
「勿論だとも。けれど、大夫。僕は大仙と共に陶華軍を探そうと思っているよ」
「貴官に武芸の心得はない、と存じ上げておりまするが?」
「それでも、左官府を巡るのなら僕の顔があった方が余程有利ではないのかな?」
ひらひらと大夫の手を躱してしまう棕若を見ながら、文輝は思う。やはりこの老翁を敵に回すのは死んでもごめんだ。その感想も事態が収拾しなければ何の価値もない。その為には今はいっときでも惜しい。一同の心中を代弁して進慶が進言する。
「大夫、ときがございません。私も
「
一際大きな溜め息を漏らした大夫が各々の主張を全面的に認めると宣言する。
そして文輝たちには大夫付の通信士が、進慶には御史台の名うての通信士が割り当てられ、棕若は自らの通信士を伴う為に一旦左尚書へ戻ると宣言した。
「よいですか、方々。四半刻ごとに私に鳥で報告をお願いしまする。どなたかでも鳥の報告が途切れれば私の権限で全員を呼び戻しまするがよろしいな? くれぐれも無茶だけはなさらぬよう十分ご注意いただきたい」
最後に、鳥の報告には速達の効果がある紫の紙を使うように、という指示が出て大夫の副官が三組に束を持たせる。それを受け取り、一同は御史台の
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