第二十八話 三つ目の事件
「それは
感情論は後に回せ、と一刀両断された。
代わりに
「
「何だ、
「事件は二つ目で終わりでしょうか?」
晶矢の言葉には何らかの確信が含まれている。それを鋭く見抜いた大仙は不機嫌を露わにして舌打ちをした。
「察しのいい子どもは好かん」
「
「
晶矢の返答の通り、
こうなってくると郭安州に何か特別な事由があると考えるのが自然だ、と彼女は言っている。
文輝がその答えを推察するより早く、
「
進慶の言葉に文輝は目を剥く。上官の存在そのものが偽りである、と言われて驚かないものがいれば、それはもう並大抵の神経ではない。
軍部において上官の存在は絶対だ。その、絶対的指針を根本から否定されるのは武官にとってこのうえない自己否定につながる。
動揺を抑えながら、文輝は進慶の言葉と向き合った。
「
罪だ、と言おうとして
でも、だが、いや。何度も否定の言葉を胸中で繰り返す。
文輝の困惑を受け取って進慶は切なげに眉を顰めた。
「典礼部の腐敗が昨今急に始まったものではなかったのだとしたらどうだ」
結論は
だから文輝はこれ以上そこに拘泥することを許されていないことを知った。
それほど長く、国家の中枢に関わる官吏がそれと知られぬように国を欺き続けてきたのだとしたら、この先に待つ未来は多くの選択肢を持たない。
「進慶殿はこの国がもう終焉を迎える、と仰りたいのでしょうか」
「言葉を飾らないのであればそういうことになる」
「国主様はそれを
もしそうなのだとしたら、文輝たち官吏は国主の意を汲むべきだ。国が
文輝の不躾な問いに進慶はそっと瞼を伏せ、小さな声で返す。彼はもう国主の出した結論を受け入れている証左だ。
「国主様はご自身が試されている、と感じておられるのだろうよ」
大仙の話が真実なら、国主は
「どなたに、でしょうか」
複雑な胸中が表情に出ていたのだろう。進慶は苦笑を崩さずに答えをくれた。多分、これが彼のくれる最後の問いだという直感がある。
「質問ばかりだな、小戴。でも敢えて答えよう。『陛下』にだろうな」
「まさか」
「さぁ。それを信じるかどうかはお前の自由だ」
進慶の言っている「陛下」というのは
その、神話の世界に生きている「陛下」に試されている、と国主が思っている。純血の白氏ではない。ただそれだけの理由で彼はもう三十年も疑念と戦ってきた。当代の国主が――
「劉子賢はそれを利用しようとしている」
束の間、呆然とした
文輝たち官吏もまた「陛下」に試されている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます