第七章 審議の果て
第二十七話 三重の管理
この三種の役所の資料は年に四回すり合わせが行われる為、原則的には同一であるとされる。同一であることを前提に、毎年暮れ月に
その一点においてのみ救われた、と文輝は内心で思う。
だが、それ以外の点では危機的な状況であることは否定出来ない。戸籍の管理は三重だ。少なくともあと二つ、戸籍簿の写しはある。写しはあるが最後に帳簿の整合性を保ったのはもうふた月以上前の話になる。その間の出生と死亡の届けは戸籍班にしかない。
加えて、戸籍班の書庫の立地条件が悪い。
西白国では冬が近づくにつれ偏東風が吹く。今も、正殿の外で吹いているこの風は当然、戸籍班にも東から吹き付けているだろう。戸籍班の書庫は
「戸部戸籍班の書庫が火災、というのは冗談にしても性質が悪うござりまするな」
「
左官府全体を把握する権利を持っているのは
「大仙、
「大変遺憾ながら」
「そなたがおりながら何という失態であるか。状況を詳しく報告せよ」
「ですが、大夫」
それを今、大仙の口から報告するとなると彼は文輝の推測も棕若の指摘も肯定することになる。そうしてもいいのか、大仙が躊躇っている。それだけでも十分に推論は事実に近づいているが、未だ確定ではない。迷っている大仙の隣で、
「大仙殿、認めてしまおう。もう誰の手柄で動乱を鎮めるかという段階は過ぎた。そうですな、大夫?」
進慶のその発言に一瞬だけ、正殿の中に静寂が満ちる。大きな溜め息がその帳を切って開いた。大夫が今、衰弱しきっているのが伝わる。ようやく表情らしい表情を映して彼は棕若に向き直った。
「左尚書令殿はどこまで事態を把握しておられるのでありまするか」
「この動乱が主上のご出自に関わっている、というところまでかな」
「……つまり、全部お見通しであらるると」
「君たちが『どうしたいか』までは流石にわからないね」
言葉遊びが続く。右官の造反者が誰か、という問題よりも大きな問題が聞こえた気がして文輝は勢い、立ち上がりそうになる。その隣でごとりと大きな音が鳴った。晶矢が文輝に先んじて立ち上がっている。音源は彼女が座っていた
「大夫、ご説明いただきたく存じます。一体、この
私たちは一体何に巻き込まれているのです。晶矢も問おうとしているその内容を思うと文輝は息が詰まりそうだった。
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