第二十三話 薬科倉
その中の一つ、一番訊いてみたかったことを選び、文輝はゆっくりと椀に視線を落とした。
「
彼女は
「まさか、お前、右官府全部の配置を覚えてるとかそういう――」
「
文輝の長兄は今、別の任で
いずれ、の定義が「
それを態々謝罪する方が彼女の心象を悪くするということにも気づいたから釈明を控え、新たな質問を口にした。
「工部で何の取り決めがあったんだ」
晶矢の頭の中に
そう考えるのが妥当だ、と自分で答えに見当をつける。
晶矢は「おまえにしては割とまともな切り返しだな」と言って薄く笑った。
「首夏、
知っている。薬科倉という種々の薬物を管理する施設が工部――ひいては中城だけに限らず、
「俺が知ってるのは兵部の薬科倉だから工部のはどうなってるか詳しくは知らねぇけど」
「概ね一緒だ。薬科倉には危険度に応じて段階的に分けられた薬物が保管されている。その点に兵部も工部も左右も関係ない」
「そういや、お前言ってたな。薬科倉の場所を尋ねたのに当地に現れなかった
晶矢が
「そこまで覚えているのに結論が見えないか。おまえは相変わらず『
「文句なら修科で聞いてやる。だから、さっさと説明しろよ」
「その台詞は修科の入学試験に受かってから聞こうか」
「抜かせ。俺が入学試験に落ちる筈がないだろ」
可もなく不可もない。その点だけに関しては文輝は自信を持っている。
修科の入学資格は中科の成績と筆記、実技の試験結果で決まる。九品の子息として生まれた文輝には必要最低限の知性と持って生まれた天性の戦闘能力が備わっている。今更入学試験に怖じる理由はどこにもなかった。
その自信に裏打ちされた確信で文輝が言葉を返すと晶矢は大きな溜め息を吐く。
顔中で呆れていると表現しているのに、それでも彼女は説明を拒まなかった。
「薬科倉に関する
「『またその名と環、
「覚えているのなら最初から思い出せ」
晶矢が冒頭の三行を諳んじたのがきっかけとなり、思い出したのだと反駁するのは格好がつかなかった。文輝の記憶力とは大体にしてこうだ。今朝も
自らの不徳を顧みて、反省と今後の対策を考えるのも必要だろうが今はそのときではない。
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