第十四話 武官諸志
部屋の一番奥に
晶矢の隣まで一歩半。その距離を詰めた。
肩にとまる尾羽に
そして。
「『
文輝の口上が終わると桃色の小鳥は糸のように解け、そして一通の同じ色の文の形を成した。
その文を開くより早く、文輝の隣で晶矢が口を開いた。
「『
「俺にもお前にも必要だっただろ?」
「よりにもよってこの場面で『武官諸志』とは実に恐れ入る」
呆れたような感心したような、或いはそのどちらでもないような口調で晶矢が微苦笑を浮かべた。淡々とした物言いに彼女が本質を取り戻したのが見て取れる。
「武官諸志」というのは所謂「
文輝が読み上げたのは「武官諸志」の前文にあたり、武官見習いは
その当たり前の知識と前提が先ほどまで彼女の中から抜け落ちていた。
武官は特別な存在ではない。文武官そのどちらもが国を支える柱であり、自らの感情の好悪でどちらかを否定するようなことがあってはならない。
晶矢は多分今、やっとそれを思い出した。
武官がなすべきことは文官を責めることでも捕縛することでもない。武官が護るべき「国」の一部には文官までが含まれている。
華軍の飛ばした伝頼鳥を開封する手順が晶矢の中に響く。文輝もまた初志を思い出した。
だから、もう華軍の文の中身に怯えることはない。
文輝の隣で晶矢の
晶矢はその眼光の鋭さのままに棕若に応える。
「
勢いが戻った晶矢の態度に、棕若は少しつまらなそうな顔をしたがそれでも彼女の返答を拒みはしなかった。
「聞こう」
文輝の両側が棕若の回答にどよめく。否定の言葉が幾つも飛び交ったが、
「僕が『聞こう』と言っているのが聞こえないのかな」
それともこの場に僕以上の権限を持つ方がおられるというのなら僕は礼を失したことを詫びよう。どうかな、おられるのなら早く名乗っていただきたいものだね。
棕若はたったそれだけの言葉で彼の両側に控える高官たちから事実上、発言権を剥奪し、そして再び晶矢と相対した。
「
「では」
と前置いて晶矢ははっきりと言葉を紡ぎ始める。
「私たちが護るべきはお互いの立場や府庁の面子ではありますまい。『国』を護るのが我々の本懐であれば、このような駆け引きで
「なるほど、一理ある。それで? 君は僕に何を求めるのかな?」
晶矢は改めて問われたその「本質」に対する答えを見つけていた。九品でも
「つきましては、左尚書令殿にお願い申し上げます。私どもと共に
その希望が言外に含むのは互いに痛い腹を探り合うのをやめにしようというこの世の中で最も難しい類の提案だ。内府は右官府にも左官府にも属さない中立の機関だ。その中でも御史台と言えば監査の役目を負っている。右官府にも左官府にも反逆者がいるのならお互いにそれを探り合っていても何も始まらない。その任に相応しい役所に報告するのが本筋だ。
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