第四章 問答の回廊
第十三話 通信士
通信士というのは
二十代で地方府の下級官吏。三十代で
華軍のように二十代前半で国府の配属になった例は僅かしかなく、英才中の英才であることは疑うまでもない。通信士は二年に一度、
通信士であるというのはそれだけの重責を負う。軽挙妄動を慎むのは当然のこと、官吏としての規範であることも求められる。文輝は半年しか華軍のことを知らない。それでも、戦務班の他の官吏を見ていれば華軍が信頼に値するかどうかはわかる。華軍は紛れもない英才で、武官としての徳も矜持もきちんと持ち合わせていた。
その、華軍に造反の嫌疑がかけられている。
そんなことを唐突に言われて混乱しないものがいるとしたら、それはきっと九品三公の当主だけなのではないだろうか。彼らにしてもそれなりには困惑するだろう。実際、九品の
言い訳をしながら、文輝は自らの肩にとまった
それでも、文輝は選ばなくてはならない。
文輝の前方で
戦務長――劉校尉の主張の通りなら警邏隊の英才――華軍は反逆者だ。戦務長がそれを文にしたためたところで華軍がそれをそのまま飛ばす筈がない。だが、安易に棕若が抱いている嫌疑を否定する内容の鳥を飛ばすのは逆に華軍への不信感を募らせるだけだろう。今文輝の肩にとまっている鳥は偽りだと一刀両断されて終わる。英才の華軍にその未来が読めていない筈がない。では鳥は何の為に飛んできたのか。次は左官府で事件を起こす、という脅迫文なら文輝に宛てる必要はどこにもない。棕若に宛てた方が余程効率的だ。
だから。
棕若の言う「伝頼鳥を読み解くことで嫌疑が確信に変わる」ような内容がしたためられている確率は限りなく低い。もしかしたら英才の気の緩みで華軍は彼の落ち度を明らかにしてしまうのかもしれない。
それでも。
戦務長と通信士、そのどちらの言葉を信ずるのが武官としての規範であるかは問うまでもない。火のないところに煙は立たないという。華軍には何らかの落ち度があるのだろう。或いは戦務長の
どちらにせよ、棕若は
責任を押し付け合って、現実から目を背け、結論を出さずに堂々巡りをするだけの無駄な時間が残っているのか、と自問する。答えは否だ。
だから、文輝は
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