第十二話 猩々緋の小鳥
郭安州の
そして、今、その見せかけだけの安寧に守られた岐崔には変異が起きている。
文輝は生唾を呑みこんだ。拱手したままで留めた両手に汗がにじむのを感じる。
唐突に示された事態に
「一つだけ、尋ねてもよいだろうか」
「その結果、
「手厳しい。君が
程将軍、というのは
棕若は
それを見届け、棕若はふと表情を緩める。文輝もよく知る
「
その問いを聞いた瞬間、文輝の世界から全ての音が消えた。
晶矢が文輝の隣で瞠目するのを感じる。棕若の問いは簡潔で、先ほどまでの晶矢なら容易く答えられただろう。それでも、抑揚が告げる問いの真意は晶矢が建前で語ることを許しはしなかった。文輝にすらその意味が分かるのだから、晶矢が意図を汲みかねている筈がない。
九品の
棕若の指した晶矢は多分そのどれでもない。もっと根源的なものを指した。だから、晶矢は返答を上手く紡げない。
そして、文輝は改めて知る。
文輝には――或いは晶矢をしても、棕若の国を思う気持ちを否定することは出来ない。彼もまた国官としてこの国を守ろうとしている。緑環を示した三十六名が文官であることは間違いないが、それが真実である保証はどこにもない。
それでも、棕若はそれを疑っている。
文官と武官、
反対の立場なら晶矢もそうしただろう、とやんわりと言っている。彼女にはその意図が正しく伝わっているから返す言葉を探せないでいた。
返答に詰まる晶矢と、彼女に向けられた問いの重みにたじろいでいる文輝の耳にその次の言葉が聞こえたとき、文輝は目の前が真っ暗になるのを感じた。
「
沈痛な面持ちで、それでいて瞳の奥では勝者の自信を輝かせながら棕若が言う。
この岐崔で猩々緋の紋の伝頼鳥を飛ばせるのは二人しかいない。そのうちの一人は間違いなく、棕若が名指した陶華軍であり、残りの一人は夜勤を終え、今は官舎で深い眠りに就いている筈だ。
肩にとまった小鳥は鳴きもせずにじっと文輝を見つめている。
この鳥を復号したことが引き起こす「何か」を予測することが出来なくて、だのにどうしようもない不安ばかりが膨らんで文輝は俯くことすら忘れて、ただ硬直していた。
回廊の向こうで
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