第二話 綾織の商人
年の頃は二十代半ば、体格は痩身で藍色の平服を着ている。
手に持っているのは書物を携行する目的で作られた
そこまで確かめて幾ばくかの違和を残しながら文輝は立ち上がった。
正面から顔を見る。
すると。
「失礼だが、
守衛は渋い顔で環の提示を求めた。
環、というのは国色に彩られた金属で作られた文字通り円状の装身具で家柄と共に官位または職位を表す意匠が施されている。中科に合格すると同時に与えられ、昇進または進学、或いは退官や婚姻の際に「まじない」によって情報が更新される。いわば身分証明を成すものであり、王族から
その、守衛が男に環の提示を求める。
中科を受験して以来、二年半中城に通ったがこんな場面を見るのは初めてだ。文輝は瞠目し、事の成り行きを見守る。守衛の言葉に抗うのはそれだけでも罪になる為、まともな相手ならば必ず従う。
見覚えのない男もそれは心得ているのだろう。守衛の指示に従い、首元から自らの環を取り出し、示した。
白銀――
中科の途中である文輝でも一目でその程度は把握出来る。身分上、この環の持ち主は警邏隊の下働きである文輝と対等だ。それでも敬語を崩さずに男の無事を確かめた。
「お体に障りはありませんか?」
「特には」
単語に毛が生えた程度の返答がある。それでも、男がこの接触事故を取り沙汰す気がないことは知れたから文輝は軽く頭を下げることで応える。一連の流れを見ていた守衛も頷き、
「手間を取らせた。もう行ってよい」
男は守衛に浅く礼をして石畳の上を慎重に歩いていく。文輝も問題がないのであれば役所へ向かおうとするが「
守衛が器用に水煙草を取り分けるのを見ながら、文輝は呟く。
「しかし、こんな早朝に仕立て屋が中城で何の用件なのでしょうか」
中城に住まうのは
「なんだ、小戴。お前は気が付かなかったのか?」
「何に、でしょうか」
これだから若い者は困る、といった風情で非難され、文輝は困惑する。守衛はそんな文輝に構うことなく水煙草を丸めた棒を差し出した。ありがとうございます、言って文輝はそれを受け取る。守衛はその間、顔色一つ変えずに「
「お前のとこの二番目もそうだったが、もう少し人を疑うということを覚えねばならん」
どうして父である戴将軍に似なかったのだと暗に責められたが、文輝からすれば
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