No.4 一匹の相棒と三人の過去

放課後

 僕達は、いつものように美術室に向かう途中。

 「んにゃー!」

 僕達の前に一匹の黒猫がやって来た。

 「あっ!」

 僕とコノハ君はその黒猫を知っている。

 「クロ助!/クロ助君だー!」

 すると僕の肩にクロ助が乗り、僕の頬をすりすりする。

 「くすぐったいよ、クロ助。」

 「もー!双葉君だけずるいー!」

 クロ助は、仕方ないな、とコノハ君の頭の上に移動した。

 「わーい!ねこねこー!」

 すると、

 「アイタタタ! 引っ張らないでー…」

 クロ助はコノハ君の寝癖をくわえて引っ張っている。

 「コノハ君、クロ助は意外と寝癖が好きなんだろうね…」

 その中、一人疑問を抱く者がいた。

 「ねぇ、その猫は学校の猫?」

 コヨミは僕達に質問した。

 「この子はー、双葉君のー、『旅の相棒』君だよー!」

 コノハ君はそう答えるが、

 「ただの野良猫。」

 これが答えなんだけど…

 「双葉君って、猫飼ってるの!?」

 コヨミはあっさりと信じてしまった。

 けれど、あってはいないとも限らない。

 「猫飼っていないけど…」

 「二人ともー、もうついたよー。」

 いつも間にか、美術室に到着していた。

 中に入ると…

 「…誰もいない?」

 「あー…」

 コノハ君は何か言いたそうな顔だ。

 僕は彼に聞くことにした。

 「コノハ君、どうしたの?」

 「今日はー…部活の日じゃないやー。」

 「えっ?」

 僕とコヨミは同時に同じ言葉を口にする。

 「せっかくだからー、三人で集会しよー!」

 僕達は仕方なく賛成した。


 「まずはー、僕からー。」

 コノハ君は空手部をやめた理由の話である。

 「僕の家はねー、空手一家なんだけどー、僕は空手よりも絵を描くのが好きだからー、空手をやめたんだー…けど、母さんだけは許してくれなかったんだー…でもお父さんはねー『お前には自分だけの才能がある、お前自身で前へ進みなさい。』ていってくれたから今もここで楽しくやれているんだー。おしまーい!」

 少しだけ納得した。

 「次はー…コヨミちゃーん!」

 「…。」

 コヨミは黙っていて、元気がない。

 「…コヨミ?」

 心配で僕はコヨミに問いかける。

 「ん?どうしたの?」

 コヨミは次は自分の番だと気づいていない様子だった。

 「次はー、コヨミちゃんの話が聞きたーい!」

 「あっ、ごめん。」

 コヨミはすぐにこの状況に気がついた。

 「えっと…私がここに転校してきた理由を話します。」

 コノハ君はすごく真剣な表情だ。

 「私がここに転校してきた理由は、前まで過ごしていた街で私たち家族はかなりストレスが溜まってて、特に…お兄ちゃんが突然『大学に行きたい!』って言ったこと、お父さんは最初から『自分の子供が代わりに働かせる』つもりだったから、かなりの揉め事になって…お母さんは私とお兄ちゃんのために『離婚』して、故郷であるこの町に逃げてきたの。」

 僕達は知らなかった。いつも笑っているコヨミが、そんな辛い過去を背負っていたなんて…。

 「…ごめんね、かなり重い話で。」

 僕は…

 「…大丈夫、君だけじゃないから。」

 「えっ…」

 僕の不可思議な回答に、コヨミは目を丸くした。

 「最後ー、双葉くーん!」

 コヨミ、確かに君はいつも辛い日常の中で大変かと思う。けれど僕が経験した出来事は、違う意味で辛かったんだ…。

 「…僕の母親が特に関係するような話…」


 僕の母親は、僕が九歳の時に突然、『母さんは、病気になって、今も病院で休んでいる。』って父さんが僕達の頭を撫でながらそう言ってた。

 けれど、僕が十二歳になった時の夜、お父さんは仕事があってその時は兄弟二人だけでケーキを食べてた。すると突然、兄さんは僕を連れて病院の近くの公園に訪れた。ブランコに座って兄さんは僕にこう言った。

 「母さんは病気だ。しかも難病だ。だから母さんはもう、帰ってこないんだ…。」

 衝撃的な言葉に僕は涙を流して、

 「なに言うんだ、兄さんは嘘つきだ!母さんは絶対に帰ってくる!みんなで海に行くって約束した!」

 すると兄さんは僕を抱きしめて、

 「俺だって、母さんと一緒にいたいよ。でも出来ないんだ。だから最後に別れを言いに行くんだ…」

 兄さんは僕を抱いたまま、泣いていた。

 そして、僕達が訪れた時にはもう…

 「母さん!母さん!…うわぁー!」

 「…間に合わなかった、母さん…」

 母さんは、家族写真を持ったままで…


 とても幸せそうな表情で、笑みを浮かべたまま眠りについた。


 それから、兄さんが大学に受かって、お父さんは僕達の学校や生活のためのお金を集めるため、たくさんの会社で働いてずっと残業で、今もお父さんに会っていない。

 だから、ずっと独りで暮らしている。


 「…双葉君」

 話を終えるとコヨミは僕の肩にクロ助を乗せた。

 「んにゃー…」

 「僕達はー、双葉君の話を聞いてー、とても心配しているー…」

 みんな、僕がずっと独りで過ごしていたことが心配みたいだ。

 「ねぇ」

 コヨミは僕を見て、

 「お泊まり会をしよう!」

 …えっ?

 唐突な感じでコヨミはそう叫ぶと、

 「来週の三連休は『作品制作合宿』だー!」

 「賛成!」

 「えー!?」

 僕の意見はないまま、数日後にお泊まり会をする事になった。

 そんな中、僕は正直さっきまで誰かが居た気がしたが、帰るときには誰もいなかった。

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