No.3 一人の男

「あの光のように、『自分だけの輝き』に…」

 なんて言ったけど、何を描くかまだ決めていなかった。

 休み時間、僕は作品のテーマをどうしようかと悩んでいたら、


 「よぅ!弱虫。相変わらずマヌケな顔だぜ!」


 「ど、どうして!?せ、セージ君がここに!」


 彼は『安堂 誠二郎(あんどう せいじろう)』、小学生の頃から僕をいじめたやつだ。でも確か、中学二年の時からは、コノハ君がフォローしてくれたから、先生に事情を話して、僕がいるクラスから遠ざけて、今年は『3ーD』クラスだからフロアは一つ下だったはずなのに。


 「決まってるだろう、最近噂の『美少女転校生』ちゃんにデートの誘いに来たんだよ!」

 もしかして、コヨミのことなのか?

 けれど確か、コヨミはコノハ君に用事で隣の3ーAに行ったから。

 「あっ、その子ならこの教室にはいないよ。今は3ーAに…」

 するとセージは、

 「ほぅ、俺様に喧嘩売ってるのか?」

 …なんて?なんでそうなる!?

 「どうせ、お前も彼女を狙ってるから『嘘』をついて、俺様から遠ざけようとしてるんだろ!」

 「ち、違う!」

 僕はただ、本当のことを言ってるのに!

 それに…コヨミは大切な『友達』なんだ!『仲間』だ!

 「嘘をつくてめえには、『こいつ』をくれてやる!」

 セージは突然、僕の顔を己の…拳で殴り始めた。

 何度も、何度も。ついには僕の左手首を掴まれ投げ飛ばされたり、僕の腹を足で踏まれる。

 さっき投げ飛ばされたせいで脚が痺れて動けない…

 だんだんエスカレートしていき、ついに倒れた僕の頭を足で蹴り、右腕を踵でグリグリと踏み潰される。


 「あぁーー!!!」


 あまりの痛みに耐えれず、僕は悲鳴を上げる。

 「お前みてぇな何もできない『出来損ない』が俺様に勝てるわけがねぇんだよ!いい加減大人しくあの女を出せや!」

 僕は必死に抵抗する。

 「…違う!…嘘じゃない!…コヨミは、今…」

 気が…遠くなっていく…。

 すると、


 「やめろ!安堂!!!」と誰かが叫び、


 ドン!!! ガシャラシャ!


 ものすごい物音が響く。


 「…くん…双葉君!大丈夫!?」

 目を覚ますと、コヨミが僕に手を伸ばす。

 「双葉君!顔に血が…」

 「…大丈夫、…平気。」

 僕はコヨミの腕を掴みゆっくり立ち上がると、コノハ君がセージの両腕を床にぐっと押さえていた。

 「お前!『二度と双葉に近づくな』って言われたよなー!!!」

 「あの目…お前まさか!『ど天然イケメンの樋本』は、あの『元柔道の世界チャンピオンの息子』なのか!?」

 「だったらなんだぁ?俺は天然でいないとダメって言いたいんか。…はぁ、今回はお前の担任にも報告させて貰うぜ!」

 コノハ君の様子がおかしい…まるで別人だ。

 「ヒィィィ!いくらなんでも、あのチャンピオンの息子ならば、柔道部の俺でも勝てねぇよ!」

 そして、コノハ君は押さえていた腕を解放し、セージは焦る表情で犬のように逃げ去った。これで解決だ。

 けれど、やはりコノハ君の様子がおかしい…

 「こ、コノハ君?」

 僕達は恐る恐るコノハ君にそう言って近づいてみる。

 そしたら、

 「双葉くーん!」

 って言って、僕をまた抱きしめる。

 「ごめんねー!怪我してるー!今から保健室に連れていくからー!!!」

 良かった、いつものコノハ君だ。ってほっとした途端。

 「よいしょー!」

 僕はコノハ君にお姫様抱っこされている。

 「…えっ?」

 思わず口に出た。

 「いざ、保健室へ!!!」

 「いーそーげー!!!」

 「ギャー!」

 コノハ君とコヨミはそう言って、僕を抱えたままもうダッシュで保健室に連れていかれた。




 保健室

 「大変だったね。…かなり酷い怪我ね…頭部の軽い出血や痣は良いけど、右腕や足首はかなり腫れてる…しかもお腹を殴られてるなんて…。しばらくここのベッドで休んでくださいね。五時間目の体育については、今日は見学で参加してください。」

 「あ、ありがとうございます…。」

 僕は先ほどの怪我でしばらく安静にすることになった。

 「あの、…また絵が描けるようになりますか?」

 部活動のことで心配で、僕は先生に相談する。

 「うーん…、右腕は大丈夫だけど、脚は…あまり走らないようにしたら、大丈夫かな。」

 「ありがとうございます。」

 良かった、と安心して横になる。

 ちなみにコヨミ達は僕をここに連れてきた後に、もうすぐ三時間目が始まるため、急いで教室に戻っていった。


 数時間後 昼休み

「双葉君、お見舞いに来たよー。」

「調子は大丈夫?」

 コヨミ達が僕のところにヒョコっとやって来た。

 「大丈夫、ありがとう。」

 僕はコノハ君達にいくつか聞きたいことがある。

 「二人とも。どうしてあの時僕がセージにいじめにあったことに気づいたの?」

 僕の質問にコヨミが答える。

 「コノハ君と話し合ってたら、双葉君の悲鳴が聞こえて、コノハ君のクラスメイトが走ってきて『セージ』っていう人が双葉君を殴っている、って聞いたの。」

 なるほど、その人にも感謝だね。けれど、

 「コノハ君。あの時、まるで別人のようだったけど…」

 「僕実はー、元空手部だったー!」

 意外な回答に驚いた。

 「だからあんなに強かったんだ…。」

 僕は話を聞いて納得した。

 「双葉君、私たちからプレゼントがあるの。」

 コヨミは僕に何か重いものが入った大きめの封筒を出した。

 僕はそれを受け取る。

 「開けてみてー!」

 開けてみると…

 「この雑誌と写真は…」

 出てきたのは、『世界の絶景自然集』とグリーンフラッシュの写真…しかも、

 「これ、昨日見たグリーンフラッシュだ!まわりに美術室内も少し映って綺麗…。」

 「コヨミちゃんから聞いたよー!双葉君がー、コンテストに出す作品テーマで悩んでいるってー。だから僕からはー、昨日デジカメで撮った写真だよー。」

 「私からは、昨日本屋さんで見つけたグリーンフラッシュの雑誌だよ!」

 そうか、僕のために…作品を描くための見本である『あの時の写真』を作ってくれたり、その絶景の『参考資料』を探してくれてたんだ。

 僕は何より…友達から贈り物を貰うのは、生まれて始めてだった。

 「…ありがとう。今日から、がんばりゅ!」

 涙が止まらなくて少し噛んでしまった。

 「頑張ろう!」

 「ファイトー!!!」

 僕は嬉しくて、二人は安心して、夕焼け空の下で三人で笑いあった。

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