No.2 美術部

 数週間後。

 午後の授業が終わり、生徒達が下校し始める。

 「部活に向かおう…」


 僕は、「美術部」である。この部活所属の理由は、小さい頃から絵を描くのが趣味なので所属している。

 僕の他にも同じ三年生の部長一人と、二年生が四人の少人数で活動している。

 美術室に入ると、猫耳みたいなのが着いた茶髪でメガネを掛けている男子生徒が一人で絵の具の準備をしていた。


 「あー、こんにちはー。双葉君、今日もよろしくねー。」


 「こんにちは…寝癖、また出てますよ。」

 「いつものことだからー、気にしないでー。」

 この猫耳のような寝癖が特徴の天然な性格マイペースメガネ君が部長の「樋本 木葉 (ひもと このは)」さん。クラスは別で、ただの部活仲間。その猫耳寝癖はどうやったらそうなるかは謎だが、後輩達からは「ねこめがね先輩」と呼ばれていて、みんな(特に女子達)に大人気になっている。

 「そうだー! 双葉君も手伝ってー!」

 僕もキャンバスを取りに行こうしたすると、

 「樋本先輩!さ、サインください!」

 「樋本先輩、良かったら…自作のクッキー食べてみてください!」

 「樋本先輩!今日も頑張ってください!」

 女子の団体が牛の群れのように樋本さんに突進する。僕はそれに弾き飛ばされ、床に倒れた。

 「はい、書いたよー。

 クッキーだー!帰ったら食べてみるねー。

 いつも応援ありがとー。」

 正直、対応している樋本さんがすごいと床に倒れたまま思う。

 「あっ!」

 樋本さんは慌てた表情で僕の前でしゃがみこむ。

 「双葉君!大丈夫ですかー!」

 「だ、大丈夫です…」

 すると、

 「ごめんなさい!」

 「だ、大丈夫だった?」

 「立てますか?」

 「あ、ありがとうございます…」

 女子達は倒れた僕を手助けして、

 「それでは、失礼しました!」

 そのまま御辞儀をして、美術室を去っていった。

 「なにかあったら言ってよねー。『友達』だからー!」

 と言った途端、僕をぎゅっと抱きしめた来た。

 「双葉君、ぬくぬくー!」

 「樋本さん!いつもやめてって行ってるじゃないですか!こっ後輩達が来ますよ」

 「双葉君のケチー。あっ…僕達は同級生だから今日から『コノハ君』って呼んでー。」

 「分かりました、だから、後輩達が来る前に準備しますよ!」

 「りょうかーい!」


 やっと準備が再開して、後輩達も次々と訪れる。

 「こんにちは、先輩方。」

 「やぁー、こんにちはー。」

 「準備は僕達がしといたから、作業を始めましょうか。」

 するとコノハ君は、

 「おっと!その前にー。久々の作業の前に…『新入部員』発表しまーす!」

 あれ? 僕は新入部員については何も聞いてないけど。でもどうせ、今年は誰も来ないだろうな…

 ちなみに、去年の新入部員はなんと「0人」ということでこの部活動、実はあまり人気ではない。

 「出てきていいよー!」

 美術室の扉からかと思ったら、


 「初めまして!」


 何処かで見覚えのある女子がコノハ君の背後からひょっこりと出てきた。

 「こ、コヨミ!?」

 「あっ、ソウ君! ソウ君も新入部員?」

 僕達のやりとりをみて「ソウ君?」と頭をかしげる。

 あまりに恥ずかしく、「僕、やっぱり双葉で良い…」

 「そんなー…」とコヨミはしょんぼりしていた。

 呼ばれたいけど、日常生活ではちょっと…無理!恥ずかしい!

 すると、その様子を見ていたコノハ君が、

 「それが良いかもー!」

 突然叫ぶ。

 「何がですか!?」

 僕がそう質問すると、コノハ君はその理由を語り始めた。

 「毎年秋から春まで開催される『ビヴァンヒレッジコンテスト』だよー!君が恥ずかしかったから、本名じゃなくて『ペンネーム』でコンテストに出したやつー。前回は、僕が考えた『パラノイア』っていうので出したけど、今年はそれで出してみようよー!」

 確かに良い案だが、

 「ペンネームにしては、短すぎる気がする…」

 コノハ君は「じゃあー…」と前の黒板に大きく、『空色 ソウ』と書いた

 僕は一つ気づいた。

 「それ、空星の『空』だよね…」

 ところがコノハ君は、

 「あまりー、関係ないよー。ただー…」

 コノハ君はにっこりと、

「『そらのいろ』のようなー、爽やかな心を持つ『ソウ』君、っていうイメージで作ってみたー!」

 と言って、僕の頭を撫でて来た。

 「ずるい!私も!」

 コヨミも僕の背後でめっちゃすりすりしてくる。

 すると、

 「…空星先輩、やっぱりかわいいなー。もう我慢できない!」

 と後輩達も性別関係なく、次から次へと僕の体に抱きついてくる。

 人見知りだったはずなのに、なんでだろう。とても…

 「嬉しいけど、苦しい…」


 三分後

 「ではではー、始めまーす!」

 やっと、部活が始まった。

 「早速だけどー、双葉君、ゲーム部から依頼が来てるからー、お願いしまーす。僕はー、後輩達の指導をするからー!」

 「了解。…今回は悪役系のキャラデザインだな。」

 花宮中の美術部は普通とは違って、コンテスト作品制作以外は『他の部活動やイベントなどの依頼』を受け、そのイラストやデザインなどをする。完成した作品は依頼者に渡して、次へと向かう。

 「大正のイメージで見るからに強い…なるべく妖怪系以外だから、人…」

 依頼内容を呟きながら、ペンを持った手を動かす。

 特に、僕が様々な依頼を受け、デザイン部員と共同で「花宮サッカー部専用ユニホーム制作」まで行ったことがある。

 「…出来た!」

 レトロ風を表すため緑色濃いめな学生ランで、片目に何かを封印するため変わった札を貼ってて、魔力が宿った刀を使う青い髪の青年が出来上がった。

 「うん、これからイケるねー!」

 「それでは、ゲーム部に届けてきます。」


 数分後

 「さすがッス、空星先輩!やっぱり頼んで良かったです。」

 ゲーム部長の二年生はとても目を光らせ喜んでいる。

 「ま、また何かあったら言ってください。」

 そう言った僕は、扉を開きゲーム部員に御辞儀する。

 「お前ら!空星先輩に感謝ッス!」

 「アザッス!!!空星先輩!」

 僕はそのまま扉を閉め、部室の戻った。


 「双葉君、おかえり!」

 戻ると皆が僕に拍手している。

 「な、何ですか、急に。」

 さすがに僕はこの状況に戸惑う。

 「双葉君!これを見てー!」

 コノハ君が差し出した物は、一通の手紙である。

 僕はその手紙を開くと一枚の紙が出てきた。

 「空星 双葉様

 あなたの作品はとても美しき才能に溢れています。ですので、『ビヴァンヒレッジコンテスト決勝』の進出を認めます。

 決勝の条件の一つは次の作品に関しての『スピーチ』なので、作品を作ったご本人様が参加しなければなりませんので、交通費割引チケットを三枚をお渡ししますので、是非ともお友達とご一緒に参加してください。

 では、健闘を祈ります。

 ビヴァンヒレッジ協会一同」

 なんと、前回の作品が決勝まで上がっていたのだ。

 「すごい…僕が、決勝に…」

 僕は驚きすぎて声がでなくなる。

 「やったじゃん、双葉君!」

 「おめでとうー!初めての決勝だよー!」

 「先輩!おめでとうございます!」

 皆が僕を祝ってくれた。

 「皆、ありがとう!」

 僕は、とても嬉しかった。初めて自分の絵を評価されたから。

 するとコヨミは突然、

 「コノハ君、さっき『ペンネームで出した』って言ってたけど、どうしてこの手紙は『本名』で書かれているの?」

 コヨミの質問にコノハは答える。

 「それはねー、確かにペンネームで出したけれどねー、それはあくまでもー『本名を公開するのが嫌な場合』だからー、ちゃんと書類に本名も書かないとイケないんだー。結果は元々学校に送られる設定だからー、ペンネームじゃあ誰なのか分からないもん。」

 「なるほどー。」

 コヨミは話を聞いて、納得してくれたようだ。

 「そういえばー!確かー、後二人は一緒に行けるねー。」

 コノハ君が話を続ける。

 「誰と行くー?やっぱり家族かなー?」

 僕はもう決めていた。

 「僕は、コヨミとコノハ君と行きたい!」

 僕以外の全員、目が丸くなるほど驚いていた。

 「どうして!?家族とは行かないの?」

 その中僕は話を続ける。

 「母さんが病気で…、父さんは僕達家族のために毎日仕事で忙しいし、兄さんは入学したばかりの勉強や大学生活を邪魔したくないから。それに…」

 僕は、勇気を出して話を続ける。

 「…それに、このメンバーで『思い出作り』がしたいんだ!」

 僕は正直、二人は断ると思う。コノハ君はリーダーとして後輩の面倒を見なければならないし、コヨミもまだ転校してきたばかりだからきっと…

 「いいよ!/いいですよー!」

 「えっ、ど…どうして?」

 意外な回答に驚いたまま、二人に聞く。

 すると、

 「いいじゃん!だって、コノハ君は別のクラスだから行動出来ないし、美術部メンバーでの思い出作りたい!」

 「僕もー、同じだよー!独りじゃあ寂しいー!せっかくだからー、三人で参加しよー!」

 二人は僕の話を聞いて、『三人で決勝へ挑む』ことを決めていた。

 一緒に、見守ってくれる。

 「…ありがとう。僕、頑張るから、皆応援してほしい!」

 そして僕は、明日から決勝に出す絵を描くことにした。皆のために、頑張って優勝して見せる、と覚悟を決めた。

 「みんなー!外を見てー!」

 コノハ君が指を指す方向は、

 「空が、エメラルドみたいだ…」

 沈みそうな太陽がエメラルドのような輝きを僕らを照らす。

 「『グリーンフラッシュ』だー!」

 聞いたことがある。

 「この学校は海が近くて、特に僕らのいる『美術室』は海沿いで高さも街を見渡せるくらいある。けれど、この現象はとても珍しいんだ!」

 僕はグリーンフラッシュについてをみんなに説明した。

 「凄い!それってかなり珍しい自然現象ってことじゃない!」

 凄いな…。決めた、僕は…


 「あの光のように、『自分だけの輝き』に…」


 僕は仲間と共に前に進む。グリーンフラッシュの輝きに誓って…。

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