爪牙

 近づいてきたバアルイヴィルダーは響の頭に向かって殴りかかるが、響は頭を少し動かして紙一重で回避する。続けて殴りかかるバアルイヴィルダーだが、胴を狙った一撃を響は腕で捌くことで防御する。

 攻撃を防いだ響はバアルイヴィルダーに向かって殴りかかる。しかしバアルイヴィルダーは片腕で響の拳を防御する。次の瞬間響の手の甲から爪が飛び出し、バアルイヴィルダーの腕に突き刺さる。響がえぐるように腕を回して腕を引き抜くと、爪には一つのイヴィルキーが挟まっていた。


「ふ、ラッキー!」


「っち返せ!」


 イヴィルキーを一瞥した響は、バアルイヴィルダーの腹に向かって横蹴りを叩き込むことで、距離を離すのだった。後ろに下がったバアルイヴィルダーは焦ってイヴィルキーを取り返そうとするが、近づいてきたバアルイヴィルダーの胴に向かって響はジャンプして回転蹴りを叩き込んだ。

 ローリングソバットを受けたバアルイヴィルダーは体勢を崩してしまう。その隙を突くように響はもう一つの手の甲から爪を出して、バアルイヴィルダーの胸を貫く。

 貫いた爪をえぐるように手首を回転させた響は、手応えを感じるとすぐさまバアルイヴィルダーから距離を取るように後ろに下がる。響が突き刺した爪を見ると、爪の間には三つのイヴィルキーが挟まっていた。

 すぐにイヴィルキーを両手で包み込む響だが、それを見たバアルイヴィルダーは飛びかかって奪おうとする。咄嗟に響は体を回転させて、バアルイヴィルダーの飛びかかりを回避してイヴィルキーを遠くに放り投げる。


「貴様ぁ!」


 怒り心頭の様子のバアルイヴィルダーは響との距離を詰めると、響に向かって拳を放っていく。響は両腕で攻撃を防御するが、バアルイヴィルダーは続けて連続攻撃を仕掛けてきて反撃する隙が見つけられなかった。

 攻撃を防御しながらも少しずつ後ろに下がっていく響、バアルイヴィルダーは息もつかさぬ連続攻撃で響を襲っていく。ジャブ、ローキック、フック、と連続して襲いかかる攻撃に、響は劣勢になっていく。


「ハァ!」


 響の防御の隙を縫うようにバアルイヴィルダーが、渾身の横蹴りを響の胸に叩き込む。横蹴りをくらった響はそのまま吹き飛んでいき、床に背中から倒れ込んで転がっていく。

 倒れた響を追撃するために響に向かって走っていくバアルイヴィルダー、しかし響は口を大きく開けると炎を吐き出すことで動きを牽制した。

 目の間に吐き出された炎を見て足を止めてしまうバアルイヴィルダー、その隙に響は立ち上がり構えをとるのだった。そして炎の中を突っ切るようにバアルイヴィルダーに近づいた響は、横蹴りを仕掛けていく。

 腕で横蹴りを防御するバアルイヴィルダーだが、響は横蹴りを連続で防御の上に叩き込んでいく。何度も叩き込んでいくと徐々にバアルイヴィルダーの防御が遅くなっていく。

 防御の隙を見つけた響は、正拳突きをバアルイヴィルダーの胸に叩き込むと、そのまま頭上を飛び越えるようにジャンプする。バアルイヴィルダーの背後を取った響は、そのまま首元に向かって噛みつきにかかる。


「はぁ!」


「貴様……!」


 噛み付いてくるとは思わなかったのか、驚いて反応が遅れてしまうバアルイヴィルダー。噛み付いた響はそのまま連続で噛みつき、肉をえぐっていきそしてバアルイヴィルダーの体に前蹴りを叩き込んで吹っ飛ばす。

 口の中に何かを噛んでいる様子の響は、何度か噛むと両手に口の中の物を吐き出した。出てきたのはバアルイヴィルダーの血と肉と一つのイヴィルキーだった。

 イヴィルキーを後ろに投げ捨てた響は、バアルイヴィルダーに向かって走り出していく。バアルイヴィルダーは構えを取って警戒するが、響は直前になってそのままスライディングしてバアルイヴィルダーの足の間を滑っていく。


「なんだと!?」


 驚くバアルイヴィルダーだが、次の瞬間バアルイヴィルダーの足に痛みが走る。足の間をスライディングした響が、バアルイヴィルダーの足を噛み付いてそのまま後ろに移動したのだ。

 痛みに耐えきれず膝をついてしまうバアルイヴィルダー、その背後にはイヴィルキーが一つと肉を口から吐き出した響が立っていた。響はすぐにジャンプすると、バアルイヴィルダーを飛び越えていく。そしてバアルイヴィルダーの肩を噛み切るのだった。

 肩を抑えるバアルイヴィルダー、その場所からは血が滴り落ちていた。響の開いた口からは二つのイヴィルキーと血が落ちていくのだった。

 余裕のある表情で響はバアルイヴィルダーを見ると、手に持った二つイヴィルキーを弄りながら真っ赤に染まったイヴィルキーを見せつける。


「どうした? もう少しで半分切っちまうぜ?」


 それを聞いたバアルイヴィルダーは無言で響に向かって走っていくが、響は両手から伸びている爪を振るって切り裂こうとする。バアルイヴィルダーは後ろに下がって爪を回避するが、響は前に進んで追撃していく。

 引き裂くように連続で振り下ろされる爪を、回避していくバアルイヴィルダー。その動きはダメージを抑えるように徹底しているようであった。

 

「もしかして焦ってんのか?」


 響の言葉を聞いたバアルイヴィルダーは反応してしまい、一瞬足を止めてしまう。その隙を突くように響は再び爪を突き刺す。爪がなにかに刺さったことを感じ取った響は、手応えを感じて後ろに下がっていく。爪の間に挟まっていたのはウェパルのイヴィルキーであった。

 血で赤く染まったウェパルのイヴィルキーを、響は腕で擦っていき汚れを落としていく。そしてウェパルのイヴィルキーを起動させる。


「力を貸してくれ……ウェパル!」


〈Vepar!〉


「憑着!」


〈Corruption!〉


 デモンギュルテルにそうてんされたイヴィルキーを抜き取り、ウェパルのイヴィルキーを装填させる響。デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと同時に、中央部が観音開きとなり中から女性の人魚が現れる。

 人魚は響の周囲をまるで床を水中のように泳ぎ周り、そして響の体にダイブする。響の体は一瞬で水に覆われるが、すぐに水は蒸発する。そして後に居たのは魚の鱗のようなスケイルアーマーを着た異形、ウェパルイヴィルダーに変身した響であった。


「予告する。お前倒して全てのイヴィルキーを頂く」


「できるものならやってみろ!」


 指を差して挑発する響の姿を見たバアルイヴィルダーは走り出し響との距離を詰めていく。そして殴りかかるが、その攻撃を響は受け流すとそのまま一本背負いの体勢となり地面に叩きつける。投げつけた瞬間体を密着させ硬いスケイルアーマーの部分を押し当てる。

 地面に倒れ込んだバアルイヴィルダーは力ずくで立ち上がろうとしたので、響はすぐさま離れてスケイルアーマーが有る部分でローキックを叩き込む。

 立ち上がったバアルイヴィルダーは響に向かって殴りかかるが、響はスケイルアーマーの部分で攻撃を防御する。続けて殴りかかり追撃をするバアルイヴィルダーだが、響はスケイルアーマーで巧妙に防御していく。

 冷静に防御する響はバアルイヴィルダーの隙を見つけると、小さくジャブを放ち小さくダメージを与えていく。しかしバアルイヴィルダーはそれを意に介さない様子で続けて攻撃を続けていく。


「私を倒すのでは無いのかね!」


 連続で攻撃を続けていくバアルイヴィルダーだが、何度も繰り返す攻撃は響へクリーンヒットせず防がれていく。逆に響は隙を見つければスケイルアーマーで覆われた部分で攻撃していく。

 バアルイヴィルダーが大きな隙を見せると、響はスケイルアーマーで覆われた部分をぶつけるようにタックルを仕掛ける。そしてそのままバアルイヴィルダーを掴み上げると、地面と響でサンドイッチするように叩きつけた。

 ――バアルイヴィルダーが所持するイヴィルキー、残り四十四

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る