アステカの墓標

 首を絞められている響は、うめきながらもバアルイヴィルダーの腕を両腕で無意識に掴んでいた。しかし拘束は解けず、響の体はそのまま浮き上がっていく。響は咄嗟に下半身の力だけで両足を上げると、バアルイヴィルダーの顎を蹴り上げた。


「む!?」


 意識外からの一撃に驚くバアルイヴィルダー、その瞬間響の首を絞めつける力は弱くなり、響は拘束から抜けだすのだった。

 床に降り立った響は、両手を地面につけて体勢を低くすると、そのままバアルイヴィルダーの足に向けてローキックを放つ。低い位置からの攻撃に体勢を崩して倒れ込んでしまうバアルイヴィルダーであった。

 バアルイヴィルダーが倒れた隙に、響は落ちているイヴィルキーを全て拾い上げる。そしてバアルイヴィルダーの届かない所に放り投げるのだった。


「どおした? 七十一個も集めたくせに後五十九しかねえぞ、バアルイヴィルダー」


「お前を倒したあとで全部集め直せばいい話だ」


 響の挑発に何事もないかのように返すバアルイヴィルダーは、すぐに立ち上がろうとするが響によって足元を掴まれてしまう。足を拘束した響はそのまま足を捻るとバアルイヴィルダーを地面に倒させる。

 響が再びスピニングトーホールドを仕掛けると考えたバアルイヴィルダーは隙を見て響を蹴ろうとするが、響はそのままバアルイヴィルダーの両足を掴むと、自分の体を軸にしてバアルイヴィルダーを振り回す。


「何!?」


 自分の予測が外れたことに驚いてしまうバアルイヴィルダーであったが、響は笑いながらバアルイヴィルダーの体を回していく。そして壁に向かってバアルイヴィルダーを放り投げて叩きつけるのだった。

 壁に叩きつけられたバアルイヴィルダーは、痛みに耐えながらも腰のデモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを一度押し込んだ。


〈Unique Arts!〉


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと共に、バアルイヴィルダーの手の平から雷撃が放たれる。まるで雨のように降りかかる雷撃を響は左右に移動して回避していくが、バアルイヴィルダーに近づけないでいた。

 決心した響はバアルイヴィルダーに向かって走りつつも、雷撃を回避して行く。そしてジャンプすると背中から生えた翼で空中を飛んだ。

 縦横無尽に空を飛ぶ響を狙ってバアルイヴィルダーは雷撃を乱射するが、三次元機動をする響は雷撃を回避していく。そして徐々にバアルイヴィルダーへの距離を詰めていく。

 スピードを乗せて空を飛ぶ響は、バアルイヴィルダーに向かって両腕を伸ばして膝を曲げて揃えた体勢をとるとそのまま突撃して行く、その姿はまるでテキサスの空を飛ぶコンドルのようであった。バアルイヴィルダーは両腕を使って防御しようとするが、揃えられた膝と勢いの乗った質量の前に防御は崩されしまう。

 両膝蹴りをくらったバアルイヴィルダーは再び壁に叩きつけられる。その衝撃でバアルイヴィルダーの体からは、五つのイヴィルキーが排出された。

 響はすぐに地面に落ちたイヴィルキーを拾い上げると、バアルイヴィルダーから距離をとるのだった。その間にバアルイヴィルダーは立ち上がるが、先程までのダメージに立ち上がるまでに時間がかかっていた。


「この……!」


 いいようにダメージを受けているバアルイヴィルダーは、苛ついたように走り出して響との距離を詰めると、連続で素早く殴りかかる。しかし響は体を最低限動かすことで攻撃を紙一重で回避していく。

 バアルイヴィルダーの連続攻撃を避けていく響は、冷静に相手の動きを観察し続けていた。そしてバアルイヴィルダーの攻撃の隙を見つけると、一気に距離を詰めてバアルイヴィルダーの顎にアッパーを叩き込んだ。

 顎に叩き込まれた一撃を受けたバアルイヴィルダーの体は、地面から少し浮き上がるとそのまま背中から倒れ込んだ。その衝撃でバアルイヴィルダーの体から四つのイヴィルキーが排出される。

 軽い金属音が響くとともに地面を転がるイヴィルキー、すぐさま響は走り出すとイヴィルキーを回収する。しかしバアルイヴィルダーはその間に立ち上がっていた。


「もう少しゆっくりしとけよ!」


 イヴィルキーを胸に抱えながらも響は片手を勢いよく伸ばすと、まるで矢のように羽を射出する。雨のごとく発射された羽を、バアルイヴィルダーは全て叩き落としていく。

 バアルイヴィルダーが足を止めているその隙に、響はイヴィルキーを遠くに投げ捨てる。そしてバアルイヴィルダーに向かって接近すると、胴を狙って横蹴りを放つ。しかしバアルイヴィルダーはそれを片手で防御する。

 防御したバアルイヴィルダーはお返しとばかりに響に殴りかかるが、響は放たれた攻撃を両腕で捌いていく。そしてカウンターとしてバアルイヴィルダーの胸にストレートを叩き込んだ。


「っく……」


 胸に叩き込まれた一撃によって一瞬息をするのが困難になるバアルイヴィルダー、しかしすぐに呼吸を整えると響にハイキックを仕掛ける。響は片腕で防御しながらも、勢いに身を任せて横に吹き飛びバアルイヴィルダーと距離をとる。

 互いに見合う両者であったが、次に動き出したのは響であった。走り出した響はバアルイヴィルダーに掴みかかるが、バアルイヴィルダーは両手で響の腕を掴んで防いでいく。

 両腕を掴まれた響は逃れようとして腕を動かすが、バアルイヴィルダーの握力は強く簡単には逃れらなかった。そのまま掴み続けたバアルイヴィルダーは響の隙を見つけると、腕を離し即座に響の顔に拳を叩き込む。


「う……」


 鼻っ面を殴られた響は一歩後ろに下がってしまうが、すぐに前に進んでいくとバアルイヴィルダーに向かって走り出す。バアルイヴィルダーは攻撃を警戒するが、響はそのまま通り過ぎていく。響の行動に訝しんだバアルイヴィルダーは響を目で追うが、響は更に走っていきバアルイヴィルダーの右へと移動する。

 響の動きは止まらずバアルイヴィルダーの右、左、背後、と移動していき、バアルイヴィルダーの視界から逃げるように移動していく。そして遂にバアルイヴィルダーは響を追えなくなってしまう。


「今だ!」


 高速で移動していた響はタイミングを見計らうと大きくジャンプして、バアルイヴィルダーの頭上をとる。そしてそのままバアルイヴィルダーの頭に向かって垂直落下していく。

 頭と頭がぶつかり合い動きを止めてしまうバアルイヴィルダー、さらに続けるように響は頭突きを繰り返していく。一回、二回、三回と連続で頭突き繰り返していき、そして最後に響は空中で姿勢を変えると、バアルイヴィルダーの頭を両足で掴みそのまま空中で振り回していく。何度も振り回した響は、最後の一撃としてバアルイヴィルダーの頭を地面に叩きつけるのだった。

 頭を叩きつけられたバアルイヴィルダーの体からは、勢いよくフラウロスのイヴィルキーが排出された。イヴィルキーを見た響はすぐにバアルイヴィルダーから離れてイヴィルキーを拾い上げると、フラウロスのイヴィルキーを起動させた。


〈Flauros!〉


「もう一度力を貸してくれ、フラウロス! 憑着!」


〈Corruption!〉


 デモンギュルテルに装填されていたイヴィルキーを抜き取り、フラウロスのイヴィルキーを装填する響。デモンギュルテルからは起動音が鳴り響くと、中央部が観音開きとなり、炎で体ができた豹が現れる。

 炎の豹はバアルイヴィルダーに襲いかかると、すぐに響の元に移動していく。そして響の体を炎で包み込むのだった。


「はぁ!」


 体を包み込む炎を響は手刀で切り裂く。炎の中からは火炎のように赤い豹の意匠を持つ異形フラウロスイヴィルダーに変身した響が立っていた。


「第四ラウンド、三割は返してもらったぜ」


「もとより貴様の物でも無いだろ!」


 響の言葉を聞いたバアルイヴィルダーは激昂したかのように、走り出して響との距離を詰めていった。

 ――バアルイヴィルダーが所持するイヴィルキー、残り五十三

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