スピニング・トーホールド

 攻撃によって吹き飛んだ響は、椿を戦いに巻き込まないようにゆっくりと横に動いて、バアルイヴィルダーと椿を離そうとする。響の動きにバアルイヴィルダーは間合いを詰めるように動き、二人は拘束されている椿から離れていく。

 横に並行して動いていく二人であったが、膠着した状態に苛ついたバアルイヴィルダーは、距離を詰めるように走り出す。そしてバアルイヴィルダーは響にローキックで攻撃する。しかし響は足を上げてローキックを腿で防ぐ。


「はぁ!」


 響は連続でジャブを放つが、攻撃を受けたバアルイヴィルダーはびくともせず、フンと胸を張る。逆にバアルイヴィルダーは響へブローを仕掛けるが、響は前に倒れることで攻撃を回避する。

 倒れ込んだ響は下半身だけの力を使いまるで逆立ちするような動きで、バアルイヴィルダーに蹴りを叩き込む。しかしバアルイヴィルダーは後ろに後ずさるだけで、大したダメージは無さそうだった。


「っち、前より攻撃の効きが悪くなってないか?」


『恐らくだけど、他のイヴィルキー取り込んだんじゃないかな……それなら前より強くなっていることに説明がつく』


『じゃあレライエ達もあいつの中に!?』


『たぶんね……』


 予想を立てた響とキマリスであったが、現状を変える手段は見つからず、ただダメージを与えるしか解決策は分からなかった。


「しゃあ!」


 響はバアルイヴィルダーの胸に向かってストレートを放つ。それを見たバアルイヴィルダーは腕で攻撃を捌こうとするが、響が咄嗟に攻撃の軌道を変えたために、攻撃は命中する。


「舐めるな!」


 バアルイヴィルダーは衝撃で後ろに一歩下がってしまうが、すぐに前に出て響にハイキックを仕掛ける。その攻撃を響は屈むことで回避する。だがバアルイヴィルダーは連続でハイキックで攻撃する。襲いかかる連続攻撃に響は回避に専念するが、徐々に余裕がなくなる。


(くそ……前の戦闘の時もそうだが、俺の動きを知ってるように戦われて、思うように攻撃が当てられない。こうなったら……)


 響はバアルイヴィルダーとの戦闘が上手く行かないことに一瞬悩むが、妙案を思いつき余裕そうに笑う。そんな響の様子を見たバアルイヴィルダーは、不快だったのか一度床を足踏みする。


「なんだ? 私の力の前に頭がおかしくなったか?」


「いいや、これからの展開を楽しみにしているのさ」


 そう言うと響は両腕を軽く上げると、まるで猫の手のように両手を丸くするのだった。そして響はバアルイヴィルダーに向かって走り出す。

 距離を詰めた響は、バアルイヴィルダーの頭を狙って猫パンチのようにパンチする。一瞬何の動きをしたのか理解出来なかったバアルイヴィルダーは、避けることができずパンチを食らってしまう。

 殴られた衝撃で後ろに下がってしまったバアルイヴィルダーは、面食らった様子だったが、すぐさま反撃に出るように響に殴りかかる。しかし響はまるで猫のように大きくジャンプして回避すると、バアルイヴィルダーを飛び越えて背後をとる。


「もしかしてあんた、俺がやったことのない戦いとかに弱いんじゃないの?」


「調子に乗るな!」


 響は半ば確信めいたもの感じ取り、指を立ててバアルイヴィルダーを挑発する。それを見たバアルイヴィルダーは苛ついたかのように足踏みすると、響に向かって走り出す。

 近づいてきたバアルイヴィルダーは響に向かって殴りかかるが、響はバアルイヴィルダーの動きに合わせて後ろに下がりながらも、両手でバアルイヴィルダーの頭を挟みこみ、そのまま横に回転する。


「何だ!?」


 響の見たこともない動きにバアルイヴィルダーは反応できず、されるがままに技にかけられてしまう。

 回転する響に挟まれたバアルイヴィルダーの体は徐々に宙に浮いていく。そして響はバアルイヴィルダーを上空に捻り投げるのだった。


「これぞ合掌捻りぃ!」


 空中から落下したバアルイヴィルダーは頭から床に叩きつけられるが、ほんの数秒後には立ち上がる。


「ふん……合掌捻りとか言ったか……なかなか強力な技だが、二度めは……がぁ!」


「今は徳利投げって言うんだー!」


 バアルイヴィルダーの言葉を遮るように、響は近づくと勢いの乗った張り手を叩き込む。張り手をくらったバアルイヴィルダーは、わずかであるが体勢を崩すのだった。

 更に続けて響は平手を向けて、突っ張りを連続でバアルイヴィルダーに仕掛けていく。響の勢いに圧倒されたバアルイヴィルダーは、突っ張りをされるがままに食らっていく。


「おらぁ!」


『今まで見たことない響なんだけど……』


 有無を言わさない響の様子に、ドン引きするキマリス。そんなキマリスの心情などつゆ知らず、響の突っ張りの勢いは増していき、バアルイヴィルダーの顔には幾つもの痣ができる。

 だが慣れてきたのかバアルイヴィルダーは、突っ張りを徐々にだが回避していく。そして遂には張り手を手の平で受け止めた。


「ふん、同じような攻撃などそう喰らうわけが……」


「千代の富士を、舐めるなー!」


 響はバアルイヴィルダーのつかみを振り払うと、両手でバアルイヴィルダーの腕の下から腰を掴み、そのまま自分の足を軸に一回転する。そして勢いの乗ったバアルイヴィルダーを地面に叩きつけるのだった。


「ぐぅ……」


 響の見たことのない技のオンパレードに、受け身になっていくバアルイヴィルダー。そのまま響はバアルイヴィルダーを仰向けにすると、右足を掴んでスピンをして、自身の左足を掴んだ右足に絡みつかせていく。


「スピニング・トーホールドォ!」


「があああぁぁぁ!」


 そのままテコの原理で膝と足首を極めると、流れるような動きで回転していき、さらに威力をまして関節を極めていく。襲いかかる痛みに、バアルイヴィルダーは苦痛の声を上げてしまう。

 響の回転は徐々に速度を増していき、それにつれてバアルイヴィルダーが叫ぶ頻度も増えていく。数十回程回転した響は、そのままジャンプすると肘を立てて、エルボードロップをバアルイヴィルダーに叩き込むのだった。


「ぐぅ……」


 腹部にエルボードロップを受けたバアルイヴィルダーは、低いうめき声を上げてしまう。それと同時にバアルイヴィルダーの体から、一本のイヴィルキーが転がり落ちる。それはレライエのイヴィルキーであった。


「これは!?」


『響!』


『わかってる!』


 レライエのイヴィルキーを見た響は驚くが、咄嗟に転がるようにしてバアルイヴィルダーから落ちたイヴィルキーを拾う。そしてレライエのイヴィルキーを起動させるのだった。


〈Leraie!〉


「憑着!」


『君に任せるよレライエ』


〈Corruption!〉


 響がデモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを抜き取り、レライエのイヴィルキーを装填するとデモンギュルテルから起動音が鳴り響く。それと同時にデモンギュルテルの中央部が観音開きとなり、そこから緑のマントが飛び出す。

 そして緑のマントは響の周囲を飛び回ると、響の体を包み込んでしまう。マントがたなびくとそこには、緑の狩人服を模したレライエイヴィルダーに変身した響が立っていた。

 立ち上がったバアルイヴィルダーは、すぐさま響に近づくとジャブを仕掛けるが、響は横に転がることで回避する。そして転がりながらも、腰元に携帯した銃レライエマグナムを抜くと、バアルイヴィルダーに向かってレライエマグナムの引き金を引く。

 放たれた弾丸は六発全てバアルイヴィルダーの体に命中し、バアルイヴィルダーを怯ませ、更にはわずかに出血させた。


「立てよ、第二ラウンドの始まりだ」


「貴様……!」


 レライエマグナムを片手に持った響は、バアルイヴィルダーに向かって走り出すと蹴りにかかる。しかしその一撃はバアルイヴィルダーの腕に防がれてしまう、だが響は即座に立っている片足でジャンプすると、空中でレライエマグナムで射撃する。

 三発の弾丸はバアルイヴィルダーに命中したために、バアルイヴィルダーは足を止めてしまう。それと同時にバアルイヴィルダーの体から、血のごとく一つのイヴィルキーが飛び出した。


「おっと、拾わせないぜ」


 落ちたイヴィルキーを見た響は、すぐに動き出すとイヴィルキーをバアルイヴィルダーから遠ざけるように軽く蹴る。軽い音と共にイヴィルキーは滑っていく。


「返せ!」


「元々お前のものじゃないだろ?」


 響は挑発するようにバアルイヴィルダーを指差した。

 ――バアルイヴィルダーが所持するイヴィルキー、残り六九

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