決着

 達也の腕から伸びる蛇は倉庫内のパイプを伝って、宙吊りとなったバアルイヴィルダーの首を締め上げる。動けば動くほどますますバアルイヴィルダーの首が絞まっていく、それでもバアルイヴィルダーは意識を失わず、デモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを一度押すと、片腕を達也に向けるのだった。


〈Unique Arts!〉


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと同時に、バアルイヴィルダーの手の先から雷撃が発生し、達也に向かって襲いかかるのだった。

 閃光の如く襲いかかる雷撃を見て、達也はとっさに横に転がることで回避する。しかし回避した時に絞め上げていた蛇を手放してしまい、バアルイヴィルダーはそのまま床に向けて落下する。

 転がった達也は立ち上がると、床へ無事に着地したバアルイヴィルダーに向けて殴りかかる。しかしバアルイヴィルダーは攻撃を受け流す、続けて達也はジャブを放つが、その一撃も回避されてしまう。

 続けて左腕に巻き付く蛇に命じて、バアルイヴィルダーに襲わせるように指示を出す。蛇は空中をまるで這いずるように動き、バアルイヴィルダーの左腕に巻き付く。


「はぁ!」


 チェーンデスマッチのような形となった達也とバアルイヴィルダー、二人は自分が有利になるために走り出す。達也が引っ張るように走れば、バアルイヴィルダーは体勢を崩し、バアルイヴィルダーが走れば、引っ張られて達也が姿勢を崩す。

 二人の有利になるための戦いは、バアルイヴィルダーが勝利となった。バアルイヴィルダーは蛇をまるでロープのように振り回すと、達也の体を宙に振り回していく。そしてそのまま達也を倉庫にあった、箱の山に吹き飛ばすのだった。

 達也が箱の山に頭から突っ込んでいるうちに、バアルイヴィルダーはイヴィルキーの入ったトランクから幾つかのイヴィルキーを取り出す。


〈Forneus!〉


〈Flauros!〉


 フォルネウスとフラウロスのイヴィルキーを起動させると、バアルイヴィルダーは左腕のガントレットに連続して装填する。


〈Forneus! Ability Arts!〉


〈Flauros! Ability Arts!〉


 ガントレットから起動音が鳴り響くと同時に、バアルイヴィルダーの背後に巨大なサメと体が炎で生成された豹が出現する。二体の怪物はバアルイヴィルダーに従うように、唸り声を上げて達也を威嚇する。

 このままでは部が悪いと判断した達也は、デモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを一度押し込む。


〈Unique Arts!〉


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと同時に、何処からともなく高さが五メートル程ある巨大な大蛇が現れ、サメと豹に向かって立ち向かう。

 大蛇とサメと豹が格闘する背後で、達也とバアルイヴィルダーの戦いも再開した。達也はパンチを放つが、その攻撃はバアルイヴィルダーの手で弾かれてしまう。返しとばかりにバアルイヴィルダーは達也の頭に向かって殴りかかるが、その一撃を少し横に動かすことで回避する。


「ッシ!」


 攻撃を回避した達也は、連続して素早いジャブを放つ。しかしその攻撃はバアルイヴィルダーの腕により捌かれてしまう。続けてジャブで攻める達也であったが、全てバアルイヴィルダーに回避されてしまう。

 攻撃の隙を縫うかのようにバアルイヴィルダーは足を真っ直ぐ伸ばして蹴りを放つ。避ける事ができなかった達也は、蹴りをモロに食らってしまい、一歩後ろに下がってしまう。


「はぁ!」


 フックを達也に向けて仕掛けるバアルイヴィルダーであったが、達也は下に屈むことで回避する。そのままの体勢からローリングで距離を取った達也は立ち上がると、後ろ蹴りをバアルイヴィルダーに叩き込むのだった。

 離れた距離を取った二人、達也はすぐさま左腕に巻き付く蛇に命じてバアルイヴィルダーに襲わせるが、何度も見た攻撃にバアルイヴィルダーは軽々と回避して距離を詰めてくる。


「ふん!」


 間合いを詰めたバアルイヴィルダーは達也に向かって、ジャンプしながら殴りかかる。達也は攻撃が避けられず一撃を食らってしまうが、続けて放たれたパンチは腕で捌くことができた。

 格闘を続けている二人であったが、背後で戦っている大蛇とサメと豹が二人に向かってもつれるようにして倒れこんでくる。


「なんだと!?」


「む!?」


 驚いた二人は逃げるように飛び込んで、巨体から逃れる。そんな二人の様子をしらない大蛇達は、怪獣大決戦と言わんばかりに格闘戦をしていた。

 サメが大蛇に噛みつこうとすれば、大蛇はその身をくねらせて逆に絞めつける。そこに豹が大蛇の体を噛みつき始め、大蛇は痛みに耐えきれず体を転がす。

 目の前で行われている決戦を前にしても、達也とバアルイヴィルダーは戦いを続けていた。

 達也が連続して胴体に向けてジャブを放てば、バアルイヴィルダーは手でその攻撃を捌いていく。逆にバアルイヴィルダーが上半身に向けて殴りかかれば、達也は体を横に移動させて回避する。

 そのまま二人は両手で組み合うと、そのまま相手の体勢を崩そうと回転しだす。回転は十数秒程続くが、達也がこのまま続けるとラチがあかないと判断し、つかみ合いを外すとそのままドロップキックを仕掛ける。咄嗟の一撃に回避できなかったバアルイヴィルダーはそのままドロップキックを受けてしまう。


「ぐぅぅぅ……」


 地面を転がるように倒れたバアルイヴィルダーは立ち上がると、達也に向かって走り出し距離を詰める。そして達也と組み合うと、そのまま倉庫の壁を破壊して外に出る。


「きゃあ!」


 倉庫の壁を破って出てきた二人のイヴィルダーの姿を見て、安全な場所に避難したと思っていた千恵は悲鳴を上げてしまう。

 外に出た二人はそのまま組み合っていたが、バアルイヴィルダーが先に達也の腹部にパンチを命中させたことで、両者は距離をとるのだった。

 焦った達也は左腕に巻き付いた蛇に命じてバアルイヴィルダーに向けて襲わせるが、四度目の攻撃に対しバアルイヴィルダーは蛇を手で掴むと、そのまま達也を引きずり出す。


「何!?」


 勢いよく引っ張られた達也は姿勢を崩してしまい、そのまま地面を引きづられてしまう。地面を仰向けになった達也の背中を、バアルイヴィルダーが力を込めて踏み出す。

 踏まれた達也の背中からは、耳をすませば軋むような音が僅かながら聞こえる。そしてバアルイヴィルダーは更にダメ押しと言わんばかりに、連続して背中を踏みつけるのだった。


「ガッ……」


 痛みで意識を失いかける達也であったが、――この場で意識を失ってしまえば誰が千恵を守るのか? イヴィルキーを全て奪われてはいけない、それらが頭によぎると達也の意識は急速に覚醒していく。


「行けぇ!」


 達也は残った力を振り絞ると、左腕に巻き付く蛇に命令してバアルイヴィルダーの首を襲わせる。バアルイヴィルダーの体を這いずった蛇は、首に巻き付くと凄まじい力で絞め上げていく。


「ぐ……が……」


 首を絞めつける力に、咄嗟に両手を使って引き剥がそうとしてしまうバアルイヴィルダー。上半身に意識が行ったことで、達也の体を踏みつける足の力が緩み達也は転がることで脱出に成功する。

 首に巻き付く蛇を剥がそうとするバアルイヴィルダーの腹部に、達也のパンチが命中する。さらに続けて連続でストレートを何度も放つ達也であった。

 連続攻撃を受けてしまい後ろに下がってしまうバアルイヴィルダー、反撃しようと思っても首を絞める蛇に意識が向いてしまい、攻撃できなかった。


「舐めるな!」


 バアルイヴィルダーはデモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを一度押すと、そのまま片腕を上空に向ける。


〈Unique Arts!〉



 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと同時に、バアルイヴィルダーの手の先から雷撃が発生してバアルイヴィルダーの周囲を焼き払う。

 放たれた雷撃に達也は近づけず、さらには首を絞めている蛇は雷撃によって、焼き尽くされるのだった。

 絞首から自由になったバアルイヴィルダーは達也に向けて腕を伸ばす。すると掌から雷撃が放たれれ達也に向かって襲いかかる。

 達也は咄嗟に避けようとするが、達也の背後には避難して隠れている千恵の姿があった。千恵の姿を見てしまった達也は、避けるのをためらってしまい。全ての電撃を受けきるのだった。


「ぐわあああぁぁぁ!」


 雷撃を食らってしまった達也は、ふらふらになりながらも倒れることはなかった。それを見たバアルイヴィルダーは、デモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを二度押し込むのだった。


〈Finish Arts!〉


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと、バアルイヴィルダーの右足に目がくらむほどの雷撃が充填される。そして完全に雷撃が充填されるとバアルイヴィルダーは走り出し、達也に向かって飛び蹴りを放つ。


「はああああぁぁぁあああ!」


 必殺の一撃を食らってしまった達也は耐えきる事はできずに倒れてしまう。そして変身も解除されてしまい、達也の隣にはアンドロマリウスのイヴィルキーが転がり落ちるのだった。


「これで残り一つ……」


 アンドロマリウスのイヴィルキーを回収したバアルイヴィルダーは、楽しげにイヴィルキーを弄ぶと、そのまま倉庫内に放置されたイヴィルキーの入ったトランクを手に取り何処かに消える。


「立花くん大丈夫!?」


 バアルイヴィルダーが居なくなるのを見送ってしまった千恵は、急いで倒れている達也の元に近づくと、達也の状態を確認する。雷撃をくらった達也の体は全身が焼かれており、更には雷撃の後遺症で意識が戻らなかった。

 千恵は達也の体を抱えると、急いで倉庫に来るために使った車に乗せ病院に急行するのだった。




 海につながる下流の川の岸に、意識を失った響は流れ着いていた。その体は全身を怪我していて、医療の心得がないものでも重傷とわかるほどであった。そんな響に恐る恐る近づく影があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る