事態

 二人のイヴィルダーの拳がぶつかり合い交差する、そして同時に後ろに下がることで距離を取る。次に動き出したのは左腕に巻き付いた蛇を、バアルイヴィルダーに差し向けた達也であった。

 蛇は素早い動きでバアルイヴィルダーに向かっていくが、左右に動く巧みなステップにより回避されてしまう。そしてバアルイヴィルダーは攻撃を回避すると、達也に向かって走り出すのだった。

 近づいてきたバアルイヴィルダーに向かって殴りかかる達也であったが、その一撃は的確に掌に受け止められてしまう。攻撃を受け止められてしまった達也は、一歩後ろに下がろうとするが掴まれた拳のせいで動けなかった。

 動けない達也へバアルイヴィルダーは脇腹にブローを叩き込む。避けることが出来なかった達也は、攻撃をモロに食らってしまい苦しそうな声を出してしまう。


「そぉら!」


 続けてバアルイヴィルダーは掴んでいる手を手前に引くことで、達也の体勢を崩すとそのまま膝蹴りを放つのだった。

 痛みに崩れ落ちてしまう達也であったが、膝をついても腕をバアルイヴィルダーに向けることで、腕に巻き付いた蛇を襲わせる。

 至近距離から襲いかかる蛇の攻撃に、バアルイヴィルダーは咄嗟に蛇の体を掴むが、そのまま蛇は腕に巻き付き噛み付くのだった。


「っく……」


 噛みつかれたバアルイヴィルダーは痛みをこらえながらも、巻き付いた蛇を振り払おうと腕を素早く回すが、蛇は簡単に取れはしなかった。

 その隙を突くかのように達也は立ち上がると、バアルイヴィルダーの顔面を強打し、さらに足払いを仕掛けるのだった。

 倒れ込んだバアルイヴィルダーに目掛けて踏みつけをする達也であったが、足をバアルイヴィルダーに掴まれてしまう。


「離せ!」


 達也は掴まれていない側の足でジャンプすると、そのままバアルイヴィルダーの口に目掛けて足先をねじ込む。足が口にねじ込まれた痛みで、歪んだ声上げるバアルイヴィルダー、しかし下半身だけを動かすと、達也に向かって蹴りを放つのだった。

 予想外の攻撃によって姿勢を崩してしまい、バアルイヴィルダーから離れてしまう達也、その隙にバアルイヴィルダーは立ち上がりバックステップで距離を取るのだった。

 バアルイヴィルダーはデモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを一度押し込むと、達也に向けて腕を向けるのだった。


〈Unique Arts!〉


「はぁ!」


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと共に、バアルイヴィルダーの掌から目に見えるほどの雷撃がほとばしる。そして達也に向けて、人間一人を容易く飲み込むほどのサイズの雷撃が放たれるのだった。

 達也は命の危機に咄嗟に横に飛び込むと、先程まで立っていた場所を雷撃が通り過ぎていく。そして雷撃は倉庫の壁を破壊し巨大な穴を作り上げるのだった。

 雷撃の膨大な電圧の余波によって倉庫内の電球が一時的に止まってしまい、両者の視界を暗闇一色に染めていく。業況を理解した達也は、すぐに左腕の蛇に命じてバアルイヴィルダーへと襲わせるのだった。

 アンドロマリウスイヴィルダーの力によって生み出された蛇にも、視界を用いずに温度を感知できるピット器官を備えており、暗闇の中でもバアルイヴィルダーへ音もなく近づくいていく。


「ぐぅ!?」


 次の瞬間、バアルイヴィルダーは喉に強烈な痛みを感じて、苦痛の声を上げてしまう。咄嗟に喉を両手で抑えてみると温かみのある何かに触れたのだった。

 暗闇の中であっても手に触れることができた以上、喉に襲いかかる何かをバアルイヴィルダーは引き剥がすと地面に叩きつける。柔らかいものが潰れた音がバアルイヴィルダーの耳に入る共に、何かが走って近づいてくる音が聞こえた。間髪いれずにバアルイヴィルダーの視界が反転する。


「はぁ!」


「がぁ……」


 電球が復帰し倉庫内に明かりが灯されると、ストレートを放った達也の姿と地面に倒れたバアルイヴィルダー、そして地面に叩きつけられて潰れた蛇の姿があった。

 喉を押さえながらもバアルイヴィルダーはゆっくりと立ち上がる、喉を触った手を見てみると僅かながらであるが赤い血が流れていた。それだけではなく、バアルイヴィルダーは僅かながらに体がしびれを感じ取る。

 体に違和感を持った様子のバアルイヴィルダーを見た達也は、小さく喉を鳴らしながら指を向け挑発する。


「貴様……」


 挑発する達也の姿を見たバアルイヴィルダーは、煮えくりかえるような怒りが湧き上がる。そして一息つくと先程放り出したトランクに目掛けて背中を向けて走り出し、トランクの中から一つのイヴィルダーを取り出す。


〈Morax!〉


 モラクスのイヴィルキーを起動させたバアルイヴィルダーは、そのまま左腕に装着したガントレットにイヴィルキーを装填する。


〈Morax! Ability Arts!〉


 ガントレットからモラクスのイヴィルキーを読み込んだ事を意味する起動音が鳴り響くと、バアルイヴィルダーの周囲から炎が舞い上がり、二メートル以上のサイズを持つ炎の雄牛が現れる。

 雄牛は達也に向かって荒荒しい鼻息をしながら走り出す。響が戦ったモラクスの力で生み出された雄牛を危険と判断した達也は、横に移動して突撃を回避する。しかし次の瞬間視線を外していたバアルイヴィルダーの蹴りが、達也の顔面に突き刺さる。

 達也の鼻からわずかに血が漏れ出すと共に、蹴られた勢いで地面を転がってしまう。すぐに立ち上がろうとする達也であったが、目の前には炎の雄牛が立ちふさがっていた。


「ブモオオオオオオ!」


 炎の雄牛は達也に向かって突撃する。もちろん達也も受け止めようとするが、触れた瞬間炎の雄牛の灼熱によって体の表皮が焼けていく。


「がああああああぁぁぁぁぁぁ!」


 全身を焼き尽くすような痛みに大声を上げてしまう達也。そのまま炎の雄牛は形を崩していき、炎が達也を飲み込んでしまう。

 全身火達磨になった達也は、ダメージに耐えきれず膝をついてしまう。その様子を見たバアルイヴィルダーは、楽しげな声を出しながら達也が燃える様を見ていた。


「クックック……」


 燃えている達也は力を振り絞り、デモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを一度押す。


〈Unique Arts!〉


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと同時に、何処からともなく高さが五メートル程ある巨大な大蛇が現れる。

 大蛇はバアルイヴィルダーに威嚇しながらも、達也を全身で包み込み、そして丸呑みし口を閉じるのだった。大蛇の口からは煙が漏れ出すが、すぐにその煙の勢いは衰えていき、やがては止まるのだった。

 そして大蛇の口が開くと、中から炎が消えた達也が勢いよく飛び出して、バアルイヴィルダーを殴りつける。


「何!?」


 炎が消された事と意表を突く攻撃に驚いたバアルイヴィルダー、そのまま追撃するように大蛇は尻尾をバアルイヴィルダーの腹に叩きつける。叩きつけられた衝撃でバアルイヴィルダーのいた床は巨大なクレーターができてしまう。


「なぜだ……どうやって炎を消した!?」


「知らないのか? 炎は酸素が少なくなれば消える。なら飲み込まれて口を閉じられれば、酸素がみるみる減っていくってわけだ」


「巫山戯るな! そんな計算で炎を消したのか!」


「できたとことをグチグチ言うなよ」


 達也の言葉を聞いたバアルイヴィルダーは、怒りを抑えきれなくなり殴りかかるが、怒りに任せた一撃は達也に受け止められる。

 受け止めた腕を捻じった達也は、すぐさまバアルイヴィルダーの体を引き込むと、肘打ちを胴体に叩き込む。凄まじい衝撃と音と共に、バアルイヴィルダーの体は後ろに吹き飛んでいく。


「行け!」


 達也は左腕の蛇に命じると、蛇は空中をまるで地面を滑るように移動して、バアルイヴィルダーの首を締め付けていく。そして達也は蛇をロープのように振り回すと、倉庫にあった棒に蛇をかけることで、バアルイヴィルダーの体をつるし上げるのだった。


「ぐうううぅぅぅ……」


 急激に首がしまることによって苦しそうな声を上げるバアルイヴィルダーであった。

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