襲うグールたち

 休日の日曜日、人々は普段家族と一緒に歩き、思い思いの時間を過ごすような日であるこの日は、阿鼻叫喚の渦に巻き込まれていた。

 ショッピングセンターに来ていた子供連れの親子が子供を担いで走りながら逃げ、恋人と一緒に来たカップルは相手を押しのけながら逃げ、一人で来ていた客は脇目もふらずに逃げ出すのだった。

 逃げている彼らを追うように三体のグールがゆっくりと歩きながら追いかける。

 その様子はさながらパニックホラーか、ゾンビ映画のようであったが、これは紛れもなくリアルなのである。


「お客様ーこちらは無料の食品コーナーではございませーん!」


 客を追いかけるグールを妨害するように、大型のショッピングカートを走らせた響が、グールをはねるように走って突撃する。

 三体のグールはそのままショッピングカートによってふっ飛ばされる、そんな様子を見た客たちは急いで安全な場所に逃げ込もうと、我先にと走り出すのだった。


「クソがさっきもグールが出てきたじゃねえかよ」


 響は愚痴を言いながらも、客がグールから逃げれるようにショッピングカートを振り回す。

 グールたちは知性がないのか一番近くの響を見ると、一目散に襲いかかるのだった。

 殴りかかってくるグールの一撃を回避した響は、ショッピングカートを振り回すと一体のグールに叩きつける。

 ショッピングカートに叩きつけられたグールは宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられる。

 そんな様子を見た客たちは悲鳴を上げて足を止めてしまう。


「早く逃げてください!」


「君は!?」


「俺は後で逃げますから、早く逃げて!」


 響の言葉を聞いた客たちは頷くと、何も言わずに逃げ出すのだった。


(今この場に琴乃が居なくて良かったな……)


 心配もされずに逃げていく客をを見て響はそう思うのだった。もし琴乃が居れば響を心配して避難しないだろうし、何も言わずに逃げる客にキレて突っかかるのが目に見えていた。


「さて悪かったな、待ちぼうけにさせてて」


 立ち上がったグールと他二体のグールはまるで待っていたかのように、響に向かって歩き出す。

 先程まではショッピングセンターに来ていた客でごった返していたが、既に周囲は響を除いて人間は人っ子一人いない状態であった。


「たっく、まるでパニックホラーだな。ってことはなにかA級か? それともB級? Z級映画は勘弁しろよ」


『おい響、AだのBだのとは何だ? 私に教えろ』


「知らないほうが良いぞ、知ったら見たいとか言い出しそうだし。Z級の映画を見るとか勘弁!」


 アスモデウスと喋りながらも響は、近づいて襲いかかるグールを軽く受け流すと、土手っ腹に膝蹴りを叩き込むのだった。

 そのまま地面に倒れたグールの背中を踏みつける響は、周囲に集まってきたグールを見て疑問を漏らす。


「何でこんなにグールが溢れてる?」


『知らないのか響? 今や世界は近づきつつあるせいで、アストラル界の木っ端共は大量に出現しているのだ』


『ゴメンアスモデウスそれ初耳なんだけど……』


 アスモデウスと精神世界で会話しながらも、響はグール達を蹴り飛ばし、時には背負投をして地面に叩きつける。それでもグール達は響を狙うのだった。


『まず三つの円を想像しろ響、それが物質界、アストラル界、深淵界アビスだ。それが徐々に一つの円に成るように近づいている、わかるか?』


『円と円が重なってるから、アストラル界の奴らが簡単に現れている?』


『正解だ、話が早いな』


 響はアスモデウスの話から三つの円が重なり合い始めるイメージを想像した。事実それが正解であった。


『じゃあ何でそんな事になってるんだ?』


『もちろん、誰かがそうするように仕向けているからだろう』


『クソが、誰だよそんな余計な事をする奴は……』


 響の脳裏にはこれまで以上に怪物達が、人々を襲うイメージを想像するのだった。その中には妹の琴乃の姿もあった。


『どうすりゃ良い、アスモデウス!』


『これまで通りにイヴィルキーを集めることだ。そうすれば自ずと分かるさ……』


 情報を小出しにするアスモデウスの様子に、響は内心で舌打ちしながらもグールを殴り飛ばすのだった。


「もう誰もいないな……」


 周囲に人間が人っ子一人おらず、残りはグールの群れと響一人だと確認した響は、襲いかかるグールを捌きながらポケットに手を突っ込む。


『響、今回はアスモデウスでどうだい?』


 誰のイヴィルキーを出そうか悩む響に、キマリスがそう進言する。


『あ、何でだ?』


『一応王の爵位は僕らの中でも別格だからね。悔しいけど力の差もあるのさ』


『わかったやってみる』


 響がポケットからアスモデウスのイヴィルキーを取り出すと、それと同時に腰にデモンギュルテルが生成されるのだった。


〈Demon Gurtel!〉


 デモンギュルテルが装着された響の姿を見たグール達は、まるで恐れをなしたのか一斉に襲いかかる。

 しかし近づいてくるグールを響は、一体一体殴り、蹴るなどして、全て捌いていくのだった。そして周囲にグールが居ないタイミングでイヴィルキーを起動させ、デモンギュルテルに装填するのだった。


〈Asmodeus!〉


「憑着!」


〈Corruption!〉


 起動音とともにデモンギュルテルの中央部が観音開きとなり、そこから竜の姿を象った黒色のオーラが現れる。

 そして竜のオーラは響の周囲を飛行しながらもグールを蹴散らし、そのまま響に向かって飛行するのだった。

 響と竜のオーラが一つになると、背中に大剣を背負った全身が黒に染まった竜の意匠を持つ異形、アスモデウスイヴィルダーに変身した響が立っていた。


「さあ行くぜ!」


「あああぁぁぁあああ!」


 グール達は声を荒げながらも響に向かって襲いかかる、しかし響は臆せずに大剣を抜くと走り出すのだった。

 響は大剣を両手で持つとまるで流れるようにグールを斬っていく、しかしグール達も怯まずに逃げ道を塞ぐように囲む。

 だがそんなことは関係ないように響は囲むグール達へ斬りかかる。一番近くに居たグールへ大剣を振り下ろし、近づいてきたグールを右切り上げで切り返す。

 近づいてくるグールを斬ることを繰り返す響だが、どこに隠れていたのかグールは先程以上に数を増やしていた。


「クソ、数を減らしたはずなのにさっきより増えてないか!?」


『グールが集まっているのと死んだグールの残滓が誘蛾灯のように、アストラル界の奴らを呼んでいるんだ!』


『さっさと全滅させないと、削り殺されるってことか』


 響は先程以上の速さで大剣を振るってグールに斬りかかる、しかしグール達は全方向から襲いかかるのだった。

 前のグールに集中すれば後ろからグールが殴りかかり、時には左右から響の腕を掴んで離さない。


「離せやぁ!」


 腕を掴まれたことで大剣が振れなくなった響は、周囲のグールを足で蹴っていく。だがグールは数が減らずますます増えていく。

 顔は爛れて臭いは鼻を摘む程に臭いグールに囲まれて、耐えきれなくなった響は大剣を足で蹴り上げ、そのまま振り回して周囲のグールを遠ざけるのだった。


「だあああ、臭いんだよテメーら!」


 叫んだ響はそのままデモンギュルテルからイヴィルキーを取り出すと、大剣の柄の部分にイヴィルキーを装填するのだった。


〈Slash Break!〉


 大剣から認証音が鳴り響くと、響は大剣を真上と放り投げる。そしてすぐさま響はグールの群れから離れるように駆け出すのだった。

 天空から雲を切り裂くように高層ビルを思わせる程の巨大な大剣が、グール達を轢き潰さんとゆっくりと落ちてくる。

 響は攻撃の余波に巻き込まれないように急いで走る。しかしグールの群れに混ざっていなかったグールを見つけると、近づいて大剣の下へ放り投げる。

 そしてアスファルトでできた地面に大剣が衝突すると、周囲の建物の窓を割るほどの衝撃が襲うのだった。


「やった……のか?」


 衝撃が止んだことを確認した響は、ゆっくりと目を開けると大剣が落ちた中心へと警戒しながら歩いていく。

 大剣までの道には衝撃で潰れたグール、巨大化した大剣で轢き潰されたグールなど、様々なグールの無残な姿があった。

 そして中心部には地面に突き刺さった大剣があった。響は大剣を地面から抜くと、周囲に生き残ったグールが居ないか見渡すのだった。


「生き残りはいな……いな」


 ショッピングセンターを襲っていたグールが居ない事を確認した響は、デモンギュルテルからイヴィルキーを抜き出す。

 異形の姿が光に包まれると、人間の姿に戻った響が立っていた。


「しかしフードコート営業しているか?」


 響はショッピングセンターを見るが、ガラス張りの入り口は全て割れていて、歩けば割れた破片を踏まない安全地帯はなさそうであった。

 それでも響は他に討ち漏らしたグールが居ないか確認も兼ねて、ショッピングセンターに向かうのだった。

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