獣のごとく

 追撃するようにアスモデウスイヴィルダーは、大剣を振り上げると響に向かって攻撃を仕掛ける。

 振り下ろされる鋭い攻撃の数々を響は紙一重で回避していくが、少しずつ避けるのに余裕がなくなって行く。


「そらどうした、まだまだこれからだぞ!」


 アスモデウスイヴィルダーは大剣を地面に立てる、まるで棒高跳びのような体勢をとると、響の腹部目掛けて鋭い飛び蹴りを放つのだった。


「ぐっ……」


 腹部を襲う攻撃に対して響はキマリススラッシャーの刀身で防御しようとするが、ダメージを殺すことは出来ても勢いは防ぐことはできず、後ろへと吹き飛ばされるのだった。

 吹き飛ばされた響の体は地面に叩き浸かられると、そのまま地面を転がっていく。しかしすぐに立ち上がろうとする、だがそんな響の前に大剣を持ったアスモデウスイヴィルダーが立ちふさがるのだった。


「やぁ」


「うるせえよ!」


 大剣を振り下ろさんとするアスモデウスイヴィルダー前に、すぐさま響は大きくジャンプをする。アスモデウスイヴィルダーの上空を飛び越す程のジャンプをした響は、距離をとって後方へと着地するのだった。

 そして懐からウェパルのイヴィルキーを取り出した響は、すかさずイヴィルキーを起動させるのだった。そしてイヴィルキーをデモンギュルテルに装填する。


〈Vepar!〉


「憑着!」


〈Corruption!〉


 起動音と共にデモンギュルテルの中央部が観音開きとなり、中から女性の姿をかたどった美しい人魚が現れる。

 人魚は響の周囲の地面を水中のように自在に泳ぐと、そのまま響の体にダイブするのであった。

 響の体は一瞬で水の塊に覆われるが、すぐに水は蒸発する。そして後に居たのは魚の鱗のようなスケイルアーマーを着た異形、ウェパルイヴィルダーに変身した響であった。


「ははは、ウェパルまで所持しているのか!」


「はぁ!」


 ウェパルイヴィルダーに変身した響は両手を頭の高さまで上げるように構えると、アスモデウスイヴィルダーとの距離を詰めるのだった。

 走って一気に距離を詰めた響は、素早い動きでアスモデウスイヴィルダーに向かって殴りかかる。しかしその一撃は大剣を持っていない方の手によって防がれてしまう。

 だが響は攻撃を防がれようとも、すぐさまアスモデウスイヴィルダーへと攻撃を続ける。

 頭部に向かってストレート、腰へと放つ回し蹴り、腹部へと叩き込むヤクザキック、連続して放たれる攻撃であったが、全て大剣の腹によって防がれていくのだった。

 そしてアスモデウスイヴィルダーは攻撃のお返しとばかりに、大剣を持ち上げると勢いよく左薙ぎに放つのだった。

 放たれた大剣の一撃を、響は装甲の分厚いガントレットの部分で力を込めて受け止める。


「ふん!」


 まるで金属同士がぶつかったような鈍い音が響き渡ると、響の右腕は大剣の一撃を無傷で受け止めていた。

 無傷で攻撃を防がれたことに驚いたアスモデウスイヴィルダー、その隙を突くかのように響は距離を詰めるのだった。

 そしてアスモデウスイヴィルダーの首を左腕で掴み、右腕でアスモデウスイヴィルダーの右ふとももを掴むと、そのまま頭上まで勢いよく持ち上げる。

 そのまま持ち上げた体勢から響は、すぐさまアスモデウスイヴィルダーを頭から地面に叩きつけるのだった。


「おりゃあああぁぁぁ!」


 叩きつけられたアスモデウスイヴィルダーを睨みつけた響は、飛び上がるとそのまま倒れているアスモデウスイヴィルダーの腹に向かって膝を立てるのだった。

 着地した響はすぐに立ち上がり、すかさず反撃を受けないように距離を取る。

 ジャンピングニードロップを食らったアスモデウスイヴィルダーは、苦しそうな声を上げながら大剣を杖のように使い立ち上がろうとする。

 しかし響はそのまま立ち上がらせようとはせずに、距離を詰めるとアスモデウスイヴィルダーの足に向かってローキックを連打する。


「っく、やってくれるじゃないか……」


「まだまだ!」


 響の首に向かってアスモデウスイヴィルダーは大剣を振るう、しかし響も左腕を立てるとそのまま大剣をガードするのだった。

 再び鈍い金属音が周囲に大きく響き渡る、次の瞬間響は距離を詰めると、口元を大きく開けてアスモデウスイヴィルダーの首に噛み付く。


「ぐがあああぁぁぁあああ!」


 首筋から発する激痛に悲鳴を上げるアスモデウスイヴィルダー。すぐさま響を引っ剥がそうとするが、響は更に奥深くに噛み付いていく。

 痛みに悶えるアスモデウスイヴィルダーを尻目に響は両肩を力強く掴み上げると、腹部へと膝蹴りを連続で叩き込む。


「ぐううう、離せぇ!」


「がるるるぅぅぅあああ!」


 響は雄叫びを上げながらアスモデウスイヴィルダーの首の肉を勢いよく食い破る。響の放れた首からは血と肉が飛び散るのだった。

 アスモデウスイヴィルダーから距離をとった響の真っ赤に染まった口からは、おびただしい量の赤い血が流れていた。

 首筋から流れる血を抑えようとするアスモデウスイヴィルダーは両手で止血をしようとする、しかし噛みちぎられた箇所は簡単には止血できなかった。

 動きを止めたアスモデウスイヴィルダーへと走り出す響、そしてそのまま頭を両手で掴むと、力を込めて壁に叩きつけるのだった。

 叩きつけられたコンクリート製の壁は衝撃で半壊してしてしまう。地面に倒れたアスモデウスイヴィルダーの上にまたがるように立った響は、そのまま頭突を連続で放つ。


「まだまだだ! うおりゃああああああぁぁぁ!」


 そのままアスモデウスイヴィルダーの首根っこを掴み上げると、響は後ろにブリッジしてアスモデウスイヴィルダーを放り投げるのだった。

 勢いよく地面に叩きつけられた彼女は、衝撃で即座に立ち上がることが出来ないでいた。


「アスモデウス、これで最後だ!」


 響はデモンギュルテルに装填されているイヴィルキーを、即座に二度押し込むのだった。


〈Finish Arts!〉


「はあああぁぁぁ!」


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと、響の足元にまるで水流が渦巻くようにエネルギーがまとわり付いていく。

 そして地面からエネルギーを全て取り込むと、響はジャンプをしてアスモデウスイヴィルダーに目掛けて両足飛び蹴りを放つのだった。

 アスモデウスイヴィルダーは地面に落ちた大剣を拾うと、飛び蹴りを放つ響を迎撃しようとする。

 しかし響と大剣がぶつかり合うと一瞬の均衡の後、大剣は真っ二つに折れるのだった。


「何!?」


 大剣が折れたことに驚いてしまったアスモデウスイヴィルダーは、避けることは叶わずに響の一撃を食らうのだった。


「あああぁぁぁ!」


 一撃を食らったアスモデウスイヴィルダーは地面を転がると、そのまま力をなくして地面に横たわる。


「ふむ、負けたようだな……ならば加藤響、君に私の契約者になることを許そう」


 そう言うとアスモデウスイヴィルダーは、ゆっくりとデモンギュルテルからイヴィルキーを引き抜くのだった。

 イヴィルキーが抜かれると同時にアスモデウスイヴィルダーの体は光りに包まれて、元の女性の体に戻る。


「アスモデウス、お前のイヴィルキーは預からしてもらう」


「いいとも、君が勝者だ。自由にすると良い、しかしこの女性のことも頼んで良いかな?」


 響が女性に近づくとアスモデウスのイヴィルキーを回収する。それと同時にアスモデウスは弱々しく最後に、響に女性の後処理を頼むのだった。


「おい待てよ! この人意識無いじゃないか、おい!」


 完全にアスモデウスが響の元に移ったことが分かっても、響は一人後処理に奔走しなければならないことに叫ばずには居られなかった。

 とは言え倒れている女性をそのままにしておけず、響は知恵に連絡を取るのだった。


「桜木先生? 今良いですか?」


『どうしたの加藤くん? 今日休日よ』


「イヴィルダー関係で意識の無い人を安全な場所に連れていきたいんですけど……」


『OK任せなさい、場所を教えて』


 快く相談を承諾した知恵に、響は現在地を伝える。その途中電話越しの知恵にも聞こえるほどの、腹の虫が大きく鳴るのだった。


『加藤くんまだお昼食べてないの?』


「今から食べようとしたところで、これですよ……」


 からかうような調子の知恵に対し、響はムキになって反論する。しかし響のそんな様子も、知恵にとっては微笑ましかった。


『まあ後は私達に任せて、お昼はゆっくりしなさい。加藤くん』


「分かりましたありがとうございます。桜木先生」


 そう言うとを響は電話を切るのだった。ふとスマートフォンの画面を見ると、家を出た時間からかなり時間が経っていて、お腹が鳴るのも当たり前だった。


「飯食いに行くか……」


 アスモデウスのイヴィルキーを片手に、響はゆっくりとショッピングセンターへの道を歩むのだった。

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