キス
ショッピングセンターの周囲を歩き回りグールが居ないことを確認した響は、まずは通常営業しているかどうか確認しにショッピングセンターの中に入るのだった。
ショッピングセンター内はグールから逃げた人々が隠れていて、普段の様子を知っている響からするとまるで非現実的な光景に見えた。
だが襲いかかってきたグールたちが居ないことが分かった店員達は、身を守るために用意したバリケードを片付けたり、営業を再開するために片付けをするのだった。
慌ただしく動いているショッピングセンターの店員を横目に響は、フードコートへと歩いていく。その道中でも様々な専門店が営業を再開するために慌ただしかった。
「この様子ならフードコートもやってそうだな」
人混みを避けながら歩く響はそのままフードコートに到着すると、そこには無料で配布している水を求めて人が溢れていた。
フードコートの店舗自体には人はあまり並んでいないが、座れるところを探そうとするが、空いている席を見つけるのは困難であった。
「すごい人だかりだな……空いてる席もないし」
仕方なく響はフードコートのうどん屋に並ぶと、冷たいかけうどんといなり寿司を注文する。そして席が空かないかずっと視線を向けていくが、全く席は空かずに渡された機械が鳴り響き、注文した商品ができたことを知らせるのだった。
店に戻った響はそのまま商品の乗ったお盆を受け取ると、人通りが少ない通路にしゃがみ込む。そこで昼食を食べるのだった。
「こんな体勢で食べんの悲しいわ……」
もぐもぐといなり寿司を頬張りながらも、響は席に座っている客を軽く睨む。しかしそんな事をしても席は空くことはなかった。
そしていなり寿司を全て食べきった響は、続けてかけうどんを食べ始める。
かけうどんを一気に食べきった響はそのままお盆を店舗に返却すると、スーパーがあるフロアに移動するのだった。
スーパーのあるフロアに着いた響は、買い物かごを片手に琴乃に頼まれた商品を手に取る。
「一キロの肉のパックが三つに、人参と玉ねぎの袋詰が各一つずつ、後は何買うか……」
買い物かごに頼まれた商品を入れた響は、そのままレジに向かうか、まだスーパー内を回るか葛藤していた。
そして家を出る前にスパゲッティのソースと乾麺が無かった事を思い出すと、すぐにそのコーナーに行くのだった。
業務用のソースと麺を二つずつを買い物かごに入れた響は、買い物かごの重さを感じながらレジに並ぶ。
「いやあ~買った買った」
大きな買い物袋に買った商品を全部入れた響は、肩に袋を掛けると重さを我慢しながら帰路についていた。
(家に帰るまで何も起こるなよー)
何も問題が起こらないことを祈りつつ、響はアスファルトで舗装された道路を歩く。そして無事に家の前に着いたのだった。
無事に家に帰れてことに感動しつつ、響は家の鍵を開けると家に入る。すると琴乃のおかえりなさいという声が聞こえた。
「ただいま~」
琴乃のおかえりなさいを聞いた響は反射的に掛け声を上げて、キッチンへと目指すのだった。
「あ、兄貴遅かったね」
「まあ色々あってな、でも頼まれたもの買ってきたぞ」
響は机に買い物袋を置くと、中の物を出し始める。肉のパックと野菜の袋詰を見た琴乃は、目を輝かせながら買ってきたものを置き場に置いていく。
「兄貴ありがと~、私じゃ重くて持ち帰れないからね」
「喜んでくれるなら良いけど、疲れた。風呂入って寝てくる」
「えっとお疲れ様……?」
流石に琴乃も響が二度にわたって怪物とエンカウントしたとは思いつかなかったのか、そのまま響の背中を見送るのだった。
「あーいい湯だった」
風呂を終えた響は濡れた髪をイジりながら自室に戻ると、ベットの上にポンっと座り込む。
そしてベットの上で横になって一眠りしようかと目を閉じようとすると、誰かが顔を覗き込むのだった。
「ん……アスモデウス?」
顔を覗き込んでいたのは、出会ったときと同じ黒の装飾の多いドレスを着た美しい少女アスモデウスであった。
「何このまま何もなしに寝るとは味気ないと思ってな」
そう言いながらアスモデウスは響の椅子に座ると、そのまま背もたれに背中を預けまるで令嬢のように足を組むのだった。
ドレスは膝上の長さのために足を組めば、アスモデウスの
(言ってやったほうが良いか……?)
スカートの中が見えそうだぞとアスモデウスに助言しようと思った響であったが、プライドの高い彼女にそう告げるのはどうかと思い口を紡ぐのだった。
そのままアスモデウスは足を響に向かってピンっと伸ばすと、無言で足を近づけるのだった。しかし響は何を意味するのか分からずに首を傾げてしまう。
そんな響の様子を見たアスモデウスは、頬を膨らませて怒ったような表情になってしまう。
「足だよ加藤響!」
「足?」
「契約したんだ、わかるだろ!」
分からなかった響はアスモデウスの足を差し出されて、一つピンと来たのか黒いレースのニーソックスを脱がし始めるのだった。
響のいきなりの行動につい汗をかいてジタバタしてしまうアスモデウスだったが、体格の差は圧倒的であるために、まるで絹のような美しい素足が露わになる。
「おい何をするんだ!」
「そりゃあねぇ……」
そう言うと響はアスモデウスのシミひとつ無い小さな足を口に咥えるのだった。
「にゃあああぁぁぁ!」
まさか足を口に咥えられると思わなかったアスモデウスは、家中に響くような大きな声で叫び声を上げてしまう。
響は一瞬顔をしかめるもそのまま足の指を舐め始めるのだった。
「はむ、もぐもぐ……れろぉ、はむ……」
「待ってくれ加藤響! 契約者だとしてもそんなプレイをするのは想定外だぞ!」
逃げようと体をもがくアスモデウスの瞳からは、わずかに涙がこみ上げ始める。それを見た響は足の指を舐めるのを停止させるのだった。
「誰だよぉこいつにこんなの教えたの!」
「キマリスやレライエとかいつもこんな感じだし、ハルファスとマルファスはベットに入ってくるからアスモデウスもかと……」
涙ぐんだ声で叫ぶアスモデウスを見て、響は申し訳無さそうに口から指を離す。アスモデウスの指はよだれでベタベタになっていた。
「なんだよそれ契約してる魔神そんなんばっかりかよ! 本当は足先にキスでよかったんだよ!」
「えっとごめん、アスモデウス……」
瞳に涙を充満させているアスモデウスの様子を見た響は、申し訳無さそうにアスモデウスの足先にキスをする。
しかしアスモデウスはまだ不機嫌な様子でいた、そしてゆっくりと頭を響の顔に近づけていく。
「加藤響……もしお前が申し訳ないと思うなら私にキスできるはずだ……こんな幼い身でもな」
それを聞いた響は無言でアスモデウスと唇を合わせ、そして口の隙間に舌をねじ込ませるのだった。
「ん~、な……んで……」
「え? キスってそういうものじゃ?」
アスモデウスの口からは艶のある吐息が漏れ。唇を離した響はわけがわからないと言わんばかりに首を傾げる。
「もしかしてキマリスたちのせいか? もー知らん、加藤響次呼ぶ時は戦闘の際に呼べ。いいな!」
そう言うとアスモデウスは席を立ち、そのまま実体化を解除するのだった。
一人自室に残された響は、唇に付いたアスモデウスのよだれを指で拭うとそのまま口に入れる。
そんな響とアスモデウスのやり取りを見ていたキマリスは、一人精神世界で笑いをこらえるのだった。そしてキマリスはつい響の前に実体化する。
そしてそのまま響に近づくと、おでことおでこ同士がくっつきそうなほどまで近づけていく。
「ふふふ、あのアスモデウスの様子初めて見ちゃった。可愛らしいものだね」
「お前らのせいだからな……」
「なら僕とキスしてみる?」
キマリスの言葉を聞いた響は「ばっ……」と顔を赤らめて言いよどんでしまう。次の瞬間、響の視界にはキマリスの顔が全てであった。
ほんの一瞬触れ合うようなキスの後、キマリスは後ろに下がるとはにかむような表情をして実体化を解くのだった。
「えへへ、キスしちゃったね」
一人になった自室で頬を赤らめつつも響は唇を指で抑えながら、ぼっと一人でいるのだった。
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