暴かれた真実
オカルト研究会の部室の扉を開けた響は、ゆっくりと室内に入っていく。
先程までの戦闘のダメージが酷いせいか、その足取りは遅く、子供にすら歩いて抜かれそうなスピードであった。
それでも諦めずに様々な彫像や調度品が置かれている部室内を進んでいくと、苦節十五分後にやっと意識のない琴乃の前にたどり着くことができた。
机の上で横になっている琴乃の顔は、夢見の良い夢でも見ているのか、気持ちよさそうな寝顔であった。
「ったく、こんなときでも良い夢見てるのか、のんきな顔しやがって……」
寝ている琴乃の表情を見た響は、無事な様子の琴乃を見て安堵の表情を浮かべるのだった。
響が優しく寝ている彼女の顔を撫でると、手が顔に触った瞬間に琴乃のめが大きく開き、目をさますのだった。
「!?」
「あれ、兄貴なんでここにいるの? っていうかここどこ? それなんか外暗いし……」
琴乃は目の前に響がいることに疑問を持つが、すぐに自分が今いる場所にも疑問を持つ。
今いるオカルト研究会の部室は薄暗く、一見しただけでは良くはわからない彫像が多数置かれていて、ここが学校なのかさえ疑問に思わせるのだった。
更には窓から差し込む沈みかけた太陽が放つ夕日は、もうすぐ夜を迎えることを象徴していた。
「あー琴乃……言いづらいんだがもう放課後なんだ……」
「は!? 何言ってるの兄貴? まだ昼休みでしょ」
「じゃあこれ見ろよ」
そう言って響はポケットからスマートフォンを取り出すと、琴乃に画面を見せつける。画面に表示された時間は、もう放課後であることを意味していた。
スマートフォンの時間を見て今の時間が放課後だと分かった琴乃は、理解しながらも状況が分からず混乱した様子であった。
「え、ホントに放課後じゃん……なに魔法でも受けたの?」
「琴乃のところの子が俺の教室に来て、琴乃が戻って来ないって伝えに来たんだ。それで探してみたらこんな有様だよ」
「心配かけてゴメン……兄貴」
「いいさ、お前が無事なら」
響は琴乃を立たせせるために手を伸ばそうとするが、怪我の痛みに耐えきれずにバランスを崩してしまう。そんな響の様子を見た琴乃は、響の体中怪我まみれなことに気づくのだった。
「ちょっと兄貴何その怪我!? 重傷じゃない!」
「気にすんな、名誉の負傷だ」
「名誉もクソも無いわよ、バカ兄貴!」
机から降りた琴乃はすぐに響の横に駆け寄ると、響を支えるように肩を貸すのだった。
そして響と琴乃はオカルト研究会の部室の出口に向かって、歩幅を合わせてゆっくりと歩き出す。
「あー俺のかばん取りに教室行かなきゃ……」
「私も教室にかばん取りに行かなきゃダメじゃん……」
これから二人の教室を行き来しないとしけないことに気づく響と琴乃、気が滅入りながらも二人はかばんを取りに教室に向かうのだった。
響の教室でかばんを取った後、教室の施錠も完了した二人は、琴乃の教室に向かう。
そして琴乃は自分の机に置いてある持ち物をかばんに入れると、肩に担いで戸締まりをするのだった。
廊下に出ると響はスマートフォンで何かを打ち込んでいる様子で、疑問に思った琴乃は顔を横に傾げる。
「兄貴ー戸締まり完了したよー何やってんの?」
「ん、ああ達也たちに琴乃が見つかったって、連絡していたんだ。じゃあ職員室に行って鍵を出しに行くか」
「おー!」
響たちは鍵を返却しに職員室に向かうのであったが、鍵を返却すると琴乃は担任に心配かけさせるなと注意されるのであった。
流石に担任に注意されたことが響いたのか、琴乃は帰宅途中の足取りが少し重かった。
「なあ琴乃元気だせよ……」
「一応元気よ、流石にこんなことで私が問題児入りするはず無いし……」
とは言え暗そうな表情をしている琴乃を見て、響はなんとか元気づける事はできないかと思案する。
「琴乃、今日は何処かで食べて帰らないか?」
「どこいくの?」
「ファミレスとか?」
琴乃は兄の様子を見て一瞬悩んでしまう。今の兄は怪我もしていて晩ごはんを作るのは難しいだろう。さらに琴乃自身もメンタルが良くないために、きちんとした晩ごはんを作れる保証はない。
琴乃は悩んだ末に兄の提案を受け入れるのだった。
「しょうがないな兄貴、今日はファミレスに行こう!」
「よしじゃあ決定な!」
ファミレスに行くことを決定した二人は、行き先を家から近所のファミレスに変更すると、ゆっくりと歩き出すのだった。
響が豊崎千歳との戦闘があった翌日、響、達也、結奈の三人は空き教室に集合していた。
理由は琴乃が連れ去られた件についての詳細な説明を、達也と結奈にするためであった。
「で何があったんだ?」
「オカルト研究会の部長が琴乃を部室に監禁して襲ってきた」
響の簡潔な説明を聞いた二人は、理解できないのか頭に手を当てて、何を言っているか分からないといった表情をする。
「そんな顔になるのも分からんではないけどな、実際にイヴィルダーになって襲ってきたしから黒だろ」
「で動機は?」
「分からん、でも攻撃を受けたりするたびに悶たり、愛とか好きとか言ってた……」
それを聞いた達也は微妙な表情をしながらも、何も言わなかった。あの西洋人形のように容姿の整った豊崎千歳が、被虐趣味と加虐趣味があり、さらには一方的な恋愛感情を響に向けていたなんて、口が裂けても言えなかった。
結奈も達也と同じ結論に達したのか、顔を背けながら苦い表情をしていた。
一方で響は二人が何も言わないことに何も疑問を持たなかったのか、首を横に傾げていた。
三人の間の空気が微妙になっている内に、響のポケットからヴァイブレーション音が鳴り響く。
すぐに響がポケットからスマートフォンを取り出すと、画面には一件のメールを受信していた。
「お、桜木先生から報告書が届いたぞ」
千恵からの報告書に興味が湧いたのか、二人は響の後ろに移動してスマートフォンの画面を覗き込むように移動する。
報告書の最初には、豊崎千歳の私室を処理班が調査したと書かれていた。
そして調査内容がつらつらと記載されていた。
「豊崎千歳の私室には大量の魔術の触媒などが保管されており、豊崎千歳が魔術師であることは間違いないだろう……だってさ」
オカルトが好きな人間が集まるはずのオカルト研究会に本物の魔術師がいた、その事実は響や達也、結奈にも冷や汗をかかせる事実であった。
報告書にはさらに続けて豊崎千歳の私室には大量の響の写真が存在しており、非合法な手段で入手したと思われるとも書かれていた。
響が画面をスクロールさせると証拠として豊崎千歳の私室の写真が添付されてた。写真にはボンヤリとだが響のイヴィルダーとしての姿が写った写真がところ狭しと飾られているのだった。
響のスマートフォンを覗き込んだ二人は、豊崎千歳の私室の写真を見てドン引きした表情をする。
「響、新聞部の部長が盗撮した写真って……」
「豊崎千歳が買っていたんだろうな……」
自分の盗撮写真を年上の女子生徒が買っていた、その事実を口に出した響は、頭が痛くなっておでこを手で押さえるのだった。
さらに画面をスワイプしていく響であったが、次に目に入った報告書を見て理解に苦しむのだった。
「何だよ、豊崎千歳と俺の小説の山って……」
報告書には豊崎千歳の私室から見つかった、大量の小説について記載されていた。
内容は全て響と豊崎千歳が出てくるもので、彼に貫かれたい、彼を貫きたい、首を絞められたい、好き、抱きしめたいなど妄想小説について詳細に書かれていた。
「これ見なかったことにしたい……」
「諦めろ、処理班の人は知ってるぞ」
遠慮もないストレートな達也の言葉を聞いた響は、ガックリとうなだれるのであった。
そんな響の肩をポンと達也は叩くのだが、それは励ましにもならずトドメを刺すものだった。
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