好きよ……

(噛み付いた! 二度と離さない!)


 響がゴモリーイヴィルダーの頸動脈を噛み付くと、まるで洪水のように傷口から大量の血が流れ出すのだった。

 無理やり噛み付いている箇所の肉をえぐり取ることで引き剥がされないように、わざと頸動脈を狙って噛み付いた響。

 既に口元は返り血で赤く染まっているが、そんなことも気にせずに更に深く噛み付くのだった。


「フフフ、激しいプレイね。でも少しおいたがすぎるわ!」


 噛み付いている響を引か剥がそうとゴモリーイヴィルダーは顔に殴りかかるが、響は耐えてそのまま噛みつき続ける。

 響は効率的に噛み付くために彼女の首を右手で、肩を左手で掴むと何度も噛み付いて出血させる。

 流れていく血によって二人の足元には、大きな赤い水たまりができていた。


「一度は離れなさいな!」


 噛みつかれ続けたゴモリーイヴィルダーは埒が明かなくなったのか、響の目に向かって指を突き出そうとする。

 流石に目を攻撃されると思わなかったのか響はすぐに噛みつきを止めると、すぐにバックステップをして距離を取ると両手を上げて構えるのだった。


「痛いわね、でもこれは貴方が私を見ている証拠なのよね……」


「うううぅぅぅ……」


 ゴモリーイヴィルダーは出血で真っ赤に染まった両手を見ると、嬉しそうに震えて響に熱のこもった視線を向ける。

 逆に響は唸り声を上げながら腰を下げて姿勢を低くする、そして両手を広げて飛びかかるのだった。

 ゴモリーイヴィルダーの上に乗りかかる響、そのままマウントを取ると顔面に向かって殴りかかる。

 連続で放たれるパンチは一発、二発、三発、と何度も放たれていく、しかし数が増えていくごとにゴモリーイヴィルダーも両手で攻撃を防ぐようになる。


「あら上に乗りたいの? でも残念、私もマウントを取るのが好きなの!」


「っく!」


 防御を続けるゴモリーイヴィルダーは上半身を跳ね上げると、響の顔面へ逆に強烈なパンチを放つ。

 攻撃を受けたことによってバランスが崩れた響を見たゴモリーイヴィルダーは、すぐさま響の下から転がりながら逃れると、ジャンプして両足蹴りを浴びせる。

 飛び蹴りを受けた響はそのままふっ飛ばされると、地面に背中を叩きつけてしまう。

 ゴモリーイヴィルダーは懐から幾つもの宝石がワイヤーで繋がれた鞭を取り出すと、それを倒れ込んでいる響に向かって当てに行く。

 素早い動きで放れた鞭は倒れている響に命中する、すると命中した部分の宝石が爆発して破片が響を襲う。


「何!?」


 まさか宝石が爆発すると思わなかった響は、驚いてそのまま破片を避けることができなかった。

 宝石の破片が命中した複数の箇所は鋭い切り傷ができ、出血も酷いものとなっていた。

 傷ついた響の傷を見たゴモリーイヴィルダーは、嬉しそうな目で見つめるとまるでそれが愛のように悶える。


「良いわねその傷、私がつけた傷なんですわね!」


「ぺっ……」


 ゴモリーイヴィルダーの様子を見た響は、嫌そうな表情で軽く口の中から、先程噛み付いた時に残っていた肉片を吐き捨てるのだった。

 そして立ち上がると両腕の手の甲から四本の爪を展開する、そしてゴモリーイヴィルダーに向かって走り出す。


「ハアアアアアアァァァ!」


 叫びながら響は両手の爪を振るって、ゴモリーイヴィルダーを切りつけようとする。

 しかし爪が命中すれば一溜まりもないと感じ取ったのか、攻撃はせずに回避に専念するゴモリーイヴィルダー。

 何度も放たれる鋭い爪、回避された爪が校内に植えられている木に命中すると、深々と斬撃痕を残し、時には真っ二つに切断されるのだった。

 両腕を広げていつでも攻撃できるように間合いをはかる響、ゴモリーイヴィルダーは鞭を構えて間合いをはかっていく。


「ぜあああぁぁぁ!」


 先に動き出したのは響であった。爪で切り裂こうと接近していくが、ゴモリーイヴィルダーは鞭を振るって迎撃しようとする。

 振るわれた鞭を爪で左腕で防御しようとした響であったが、命中した箇所が爆発する。

 苦痛に満ちた声を出しながら爆発の衝撃を逃そうと、地面をゴロゴロと転がる響。

 左腕を見ると爆発によってひどく出血してボロボロになっていた。


「ふん」


 響は奮い立たせるように鼻息を漏らすと、そのままゴモリーイヴィルダーに向かって行く。


「何度来ても同じことよ!」


 襲いかかる響を迎撃するように鞭を振るうゴモリーイヴィルダー。

 まるで生きているかのように襲いかかる鞭を響は前転で紙一重で回避し、次にジャンプで大きく回避する。

 攻撃を回避して一気にゴモリーイヴィルダーとの距離を詰めた響は、切り裂こうと爪を大きく振るわせる。

 鞭を外してしまったゴモリーイヴィルダーは鞭を引き上げて響へ攻撃しようとするが、次の瞬間響は口に残っていた血肉を勢いよくゴモリーイヴィルダーの目に吐き出す。

 予想外の行動に避けれなかったゴモリーイヴィルダーは、鞭を離して両手で苦しそうに目を押さえてしまう。

 その隙を突くように響は右腕の爪を勢いよく突き刺す。

 ゴモリーイヴィルダーの整った胸を貫通した爪を、響はグリグリと傷を開くように動かしていく。


「うおおおおおおぉぉぉ」


 叫び声をあげながらも爪を動かしてさらにダメージを与えていく響、そして勢いよく爪を抜くとゴモリーイヴィルダーの体からは大量の血が流れるのだった。


「あははは、痛い! これが貴方の愛? それとも憎悪? どちらにせよ嬉しいわ。こんなに嬉しいことなんて無いんだもの!」


 ゴモリーイヴィルダーは胸を両手で抑えながらも、狂気に満ちた目で響を見ずに虚空を見つめる。

 狂ったように叫んでいるゴモリーイヴィルダーを、ただ物を見るような目で見つめる響。

 そして無言でデモンギュルテルに装填されているイヴィルキーを二度押し込むのだった。


〈Finish Arts!〉


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと、響の右足に炎が纏われる。

 力を溜めた響は勢いをつけて走り出す、そして十分に速度が出ると大きくジャンプするのだった。


「はぁぁぁー!」


 胸を抑えているゴモリーイヴィルダーに向かって、鋭い飛び回し蹴りを放つ響。

 その一撃は命中して蹴り飛ばされたゴモリーイヴィルダーは、苦しみながら地面を転がっていく。


「あ……好きよ……」


 ゴモリーイヴィルダーが小さく最後に漏らした言葉は響には聞こえず、そのまま爆発するのだった。

 そして爆発が晴れるとそこには倒れた意識のない豊崎千歳と、ゴモリーのイヴィルキーが落ちていた。


「はぁはぁはぁ……」


 ゴモリーイヴィルダーを倒したことを確認した響は、緊張が切れそのまま地面に倒れ込み大の字になるのだった。

 とは言えイヴィルキーをそのままにはしておけないので響はゆっくりと立ち上がろうとするが、力が入らず立ち上がることができない。

 仕方なく這いずってマルコシアスのイヴィルキーの元にたどり着くと、そのままイヴィルキーを確保するのだった。

 そして次に豊崎千歳の元に行くと、ゴモリーのイヴィルキーを無言で確保する。


「ああもう疲れたよもう……」


 残っているイヴィルキーを確保した響は力なく地面に倒れると、そのままデモンギュルテルからイヴィルキーを取り出し変身を解除する。

 これで全部終わったと思った響はふと横を向くと、そこには響とマルコシアスが吐いた炎で燃える地面と木があった。


「やっば!」


 流石にそのままにしておけないと思った響は、すぐにポケットからスマートフォンを取り出すと千恵宛にメールを作るのだった。

 もちろん追伸として豊崎千歳が魔術を使えることも書いておくのだった。


「あ……そうだ琴乃……」


 メールを送った響はすぐに琴乃のことを思い出し、無理やり体に力を入れると立ち上がる。

 豊崎千歳と現場の後処理のことは千恵が派遣する人員に任せて、すぐにオカルト研究会の部室へと歩みを進めるのだった。




 校内ではまだ下校していない生徒達がたむろしていたが、真剣な表情で歩いている響を見ると、邪魔をしないように道を開けていく。

 ゆっくりと戦闘で負傷した箇所を手で抑えながらも、響は歩いていくのだった。

 そしてなんとかエレベーターに乗ることができた響は、体をあずけるように壁に倒れ込む。


「……」


 無言でエレベーターが指定したフロアに着くのを待つ響、しばらくするとエレベーターがチンとフロアに着いたことを知らせるのだった。

 ゆっくりと歩き出してエレベーターを出る響、ダメージで普段よりも歩幅は狭いものであったが、それでも確実に進んでいった。

 時間をかけて歩いていった響は、誰にも邪魔されずにオカルト研究会の部室の前にたどり着くことができたのだった。

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