狂愛
告白のあった翌日、響と達也は男子トイレで用を足していた。
実際に尿意があったのも理由の一つであるが、もう一人の理由として男子トイレなら女子に聞かれないためである。
二人は男子トイレに漂う、小便のアンモニア臭を我慢しながらも、次の告白があったときの対策を話し合う。
「で、どうする達也?」
「次に告白しに来たら、シンプルに何故好きになったのかを聞き出すでいいだろう」
「ほんとにシンプルな手段だな」
「それで解決すればいいがな」
対策を考えた二人はそのまま小便を済ませていく。
そして小便を済ませた二人は一息つくと、手を洗って男子トイレを後にするのであった。
昼休みになった教室で、響と達也は昼食を済ませて一服していると、教室に別のクラスの女子生徒が入ってくる。
響と達也はその顔に見覚えがあった、美少女ランキング高等部二年生の部で五位にランクインしている女子生徒であった。
女子生徒は黒髪を肩まで届かないほどに短く切り、小柄な少女であった。
少女は達也以外の生徒には見向きもせず、一直線に達也の元に歩いていくのであった。
「来たぞ達也」
「響、後詰めは頼むぞ」
響と達也は小さい声で合図をすると、そのまま距離を取るのであった。
女子生徒はゆっくりと達也の前に歩いて行き、そして達也の前に立つ。
「あの立花達也さん」
「なんだ?」
女子生徒に話しかけられた達也の顔は、三度目のためか少々疲れ気味の表情となっていた。
それを見た響は女子生徒の背後に移動すると、「シャキッとしろ」とジェスチャーする。
響のジェスチャーを見た達也は、少し嫌な顔をするが一瞬で平静を装うのだった。
「あの、実はその、私と付き合ってください!」
女子生徒の告白を聞いて響と達也の表情は一変する、響は「本当にきたよ」と少し呆れ、達也は「獲物が罠にかかった」と言わんばかりの表情をするのであった。
「すまないが、俺はまだ付き合うとか考えられない時期なんだ、すまない」
達也は拒絶の言葉を投げかけて、頭を斜め四五度に下げる。
達也に断られた女子生徒は両手で顔を隠すと、すぐさまその場を去ろうと走り出す。
「ちょっと待て!」
女子生徒を止めようと響が女子生徒の手を掴むが、一瞬で振り払われる。
女子生徒はものすごい速さで走っていき、そのまま教室を後にするのであった。
「おい響追うぞ!」
「わかってる!」
腕を振り払われた響は、一瞬あ然としていたが、達也の言葉を聞いてすぐに女子生徒を追いかけるのだった。
響と達也は急いで教室を出ると、走って女子生徒を追いかけていく。
女子生徒はまだ視界には入っているが、二人と女子生徒の距離はまだ遠い。
そして女子生徒が曲がり角に曲がったので、急いで響たちも追いかける。
「待て!」
響たちが曲がり角を曲がった次の瞬間、別の女子生徒とぶつかってしまう。
別の女子生徒を見た響は、その容姿に既視感があった。
「あんたは……確かオカルト研究会の」
ぶつかった女子生徒は長い髪を伸ばして目元を隠しており、かつて響がオカルト研究会を訪れた際に出会った女子生徒であった。
「すまない急いでいたんだ」
「はい……私も怪我はありませんから」
達也は尻もちを付いた女子生徒を立たせる、響は曲がり角の先に視線を向けるが、件の女子生徒は既に居なかった。
「すまん達也、見失ったみたいだ」
「仕方ない、今日は教室に戻るか」
二人はオカルト研究会の女子生徒にもう一度頭を下げると、そのまま教室に戻っていくのであった。
教室に戻った響と達也は、次の告白に備えて話し合いをしていた。
「第二回対策会議~」
「今回は逃げられたから、そこを何とかしよう」
「ん~例えば逃げる場所がないところで告白を受けるとか?」
響と達也は告白してくる女子生徒を逃さないために、あーだこーだと意見を言い合う。
そして数分後、意見を出し合った二人は対策案を出すのであった。
「じゃあ告白をされたら、達也が逃げ場の無いところに誘導、んで聞き出す。それに加えて俺が時間差で誘導先に移動する、これでいいな?」
「ああ、それが一番の良策の方法だろう」
響と達也は次に告白された時に誘導するポイントを決めると、そのまま解散するのであった。
そんな二人を教室内で遠目に見ている人物がいた、蒼樹結奈である。彼女は達也が告白される瞬間を見ては、常にドキドキしていたのであった。
そして響達が告白する女子生徒について対策を考えてるということも、遠くから聞いていたのだ。
達也が五位の女子生徒に告白された翌日、響は達也から距離を取り教室の出入り口を見張っていた。
そして昼休みになると、一人の女子生徒が教室に入ってくる。
その女子生徒の顔に響は見覚えがあった、美少女ランキング高等部二年生の部に一位でランクインしている女子生徒である。
美少女ランキング一位の女子生徒が教室に入ってきても、クラスメイト達はもう慣れたのか騒がずに普段道理に過ごしていた。
ただし達也と結奈の二人を除いては。
女子生徒の容姿は桃色の髪を腰まで伸ばした、綺麗が似合う美少女であった。
女子生徒はそのまま達也の元にゆっくりと歩いてく、そして達也の目の前に立つと「すいません」と控えめに声をかけるのであった。
「何かようか?」
達也は怪しまれないように表情を固定させて返事をするが、遠目から見ている響からするとぶっきらぼうに返事したようにしか見えなかった。
女子生徒は恥ずかしげに頬を赤めて、うつむきがちなりながらも達也に話しかける。
「あの加藤さん、好きです付き合ってください!」
女子生徒の告白を聞いて一瞬静寂を取り戻す教室、しかし響と達也はアイコンタクトをして作戦の決行を合図するのであった。
「すまないが教室で返事はできない、別の所で返事をしていいか?」
「は、はい!」
達也の返事を聞いた女子生徒は、嬉しそうに顔を上げる。
「じゃあ行こうか」
達也は女子生徒を先導するように席を立つと、そのまま教室を後にする。そしてその後ろを女子生徒がゆっくり歩いて付いていくのであった。
「落ち着かないか?」
響はソワソワしている結奈にこっそりと話しかける、話しかけられた結奈はビクッと大きく体を反応させると、響を睨みつけるのであった。
「だ、だれが落ち着かないですか」
「青樹さんだよ、心ここにあらずって感じだぜ」
「そんなわけ、無いはずです」
結奈は響の指摘を聞いて、少し思い当たる節があったのかブツブツつぶやき始める。
思考の海に沈んだ結奈の様子を見て響は、当分帰ってこない思い。結奈を放置して達也達をゆっくり追うのであった。
達也は女子生徒と共に歩いていると、廊下の一角まで案内する。
そこは突き当りで一方通行になっており、離れるには達也の脇を通らなければならない。もし他にその場を離れるには、一つだけ開いている窓だけである。
「あの告白の返事なんですが……」
「その前に聞かせてくれ、何で俺を好きになった? 俺と君は初対面のはずだ」
達也の質問を聞いた女子生徒はビクッと体を反応させて、顔をうつむかせる。
そして再び顔を上げた時、女子生徒の顔は別人となっていた。
「!?」
女子生徒の顔が変わった事に驚く達也、変貌した顔を達也は知っていた。
「オカルト研究会の部員だったか……」
その顔は昨日廊下でぶつかったオカルト研究会の少女であるからだ。
「なんで、なんで私の好意を無視するんですか!」
少女はポケットに手を突っ込むと、ゆっくりとポケットから真っ黒のスタンガンを取り出して、達也に突きつけようとする。
「な!?」
突如として突きつけられたスタンガンに驚く達也、なんとかスタンガンを避ける事ができたが、達也はさらに驚くこととなる。
〈Demon Gurtel!〉
「デモンギュルテルだと!?」
少女の腰にはデモンギュルテルが巻き付いており、少女はスタンガンを投げ捨てるとイヴィルキーを取り出すのであった。
「こうなったら力づくでも私の物にしてやる!」
イヴィルキーを起動させた少女は、そのままイヴィルキーをデモンギュルテルに装填する。
〈Ose!〉
「憑着」
〈Corruption!〉
起動音と共にデモンギュルテルの中央部が開き、そのまま少女は光に包まれる。そして光が収まるとそこに居たのは豹の意匠を持つ異形、オセイヴィルダーであった。
オセイヴィルダーはそのまま達也へとジリジリと近づいていく、オセイヴィルダーが近づくにつれ後ろに下がっていく達也であったが、達也の耳に廊下で談笑している生徒の声が聞こえる。
「っく……」
このまま廊下で逃げれば他の生徒に被害が出てしまう、そう考えた達也はオセイヴィルダーの方に走るのであった。
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