戦慄の学園
知らずの告白
ある日の平日三限目の授業が終わり響は、自分の机の上でぐったりとしていた。
「腹減った~」
グーと周りにも聞こえそうな大きさの腹の虫が鳴る程、響の腹は飢餓感に満ちていた。
「俺にも聞こえるぞ響」
「うるせえ、いいだろ腹の音ぐらい。あー昼になったら学食で一品追加するか、むしろ今少し弁当食べるかね?」
響の席の前に座った達也は、呆れた表情で言って聞かせる。
しかし響は反省しない様子で、むしろ今から昼食を早めに取ろうとしていた。
そんなふうに日常を謳歌している二人であったが、二人の前に一人の女子生徒が歩いてくる。
ピンク色の髪を短めのくせっ毛にした、小柄な美少女であった。
女子生徒の顔を見た響と達也は、その顔に見覚えがあった。上之宮学園にも美少女ランキングという番付が存在する、高等部二年生の部で十位にランクインしていた別のクラスの少女なのだ。
「あの……立花達也さんですよね」
「ああ、俺が立花達也だが?」
「あの、付き合ってください!」
美少女ランキング十位からの告白という、一大イベントに教室はザワザワと騒然となる。
目と鼻の先で告白というイベントを見せつけられた響は、現状が理解できていないのか表情が固まったままだ。
しかし達也の答えは……。
「すまない、今は付き合うとか考えられないんだ」
拒絶であった、達也は頭を四十五度で下げると、申し訳無さそうに謝るのであった。
「!? は、はい。突然すいませんでした!」
女子生徒は瞳に涙をにじませると、そのまま走って教室を去っていくのであった。
見事なほどに一刀両断された告白劇に、教室はまたも騒然となる。
そんな中響は達也の腕を、肘でチョイチョイと小突くのだった。
「達也君~どうして告白断ったんだ~い?」
「決まっている、イヴィルダーという問題がある以上、余計な関係を築きたくなかったんだ」
響の質問に、周囲には聞こえないように響の耳元で小さく呟いて答える達也。
それを聞いた響は無言で頷くのであった。なおその現場を見てクラスメイトから誤解された。
その日の夜響は、自宅でシャワーを浴びていた、琴乃からは「兄貴が先入ってよ」と言われたためである。
そうしてシャワーを浴びてさあ頭を洗おうとした瞬間、ガララと浴室の扉が開く。
「え!?」
誰が入ってきたのかと響が視線を向けると、浴室の入り口には水着姿のレライエが立っていた。
「レライエ!?」
そのまま浴室に入ってくるレライエを見て、前を隠しながらレライエの名前を呼ぶ響。
しかしレライエは響の言葉を無視して、響の後ろに立つのであった。
「何だ響、恥ずかしいのか?」
「恥ずかしいってか、何で入ってくるんだよ?」
「この前の海で椿の胸に視線を奪われていただろ、ならこうするのも一興と思ってな。頭と体を洗ってやろう」
レライエはシャワーを手に取ると、そのまま響の頭を洗い流し始める。
響は反射的に目を閉じてしまい、レライエの成すがままになってしまう。
「実はこう他人の頭を洗うのは初めてなんだ、何かあったら言ってくれ」
そのままレライエは響の髪を濡らし終わると、シャンプーを手に取り手のひらに出す。
そしてシャンプーを泡立てると、レライエは響の髪を洗い始める。
「うーむ」
レライエの洗髪を受けて響は、目を細めて気持ちよさそうな声を上げる。
それを聞いたレライエは気分を良くしたのか、響の背中にたわわな胸を押し付ける。
「レ、レライエ!」
「ふむ私の胸は嫌いかい?」
「嫌いとかじゃなくて……」
響の頬はシャワーの熱湯以外の理由で赤くなっていた、それに気づいたレライエはより一層響との接触を強くする。
そのままレライエはシャワーを持つと、響の頭に付いているシャンプーを洗い流し始める。
「ほら、目をつむりな響」
「そんな子供じゃないんだから」
「私たちから見たら子供だよ」
シャンプーを洗い流したレライエは、次にボディタオルを取るとボディーソープを付け始める。
「ああそうだ響、私の体をスポンジのようにして洗うのと、私の手で体を洗われるどっちがいい?」
「え? いやその、手でお願いします」
さすがに響も体を使って洗われるのは抵抗があったのか、とても悩んで手で体を洗うのをお願いする。
それを聞いたレライエはボディーソープを手に取ると、そのまま響の体を洗い始める。
(レライエの手、柔らかくて気持ちいな)
レライエに背中を洗われている響は、彼女の手の感触を目を閉じながら味わっていた。
そしてレライエの手は背中から肩に移り、そして両腕が洗われていく。
両腕を洗い終わったレライエは、そのままボディーソープまみれの手を腰に移動させる。
「っひ」
腰をレライエに丁重に洗われた響は、むず痒くて変な声を上げてしまう。
「っひ、ってフフフ」
響の情けない声を聞いたレライエは、笑いながら手を下に持っていく。
「ちょっと待てレライエ! それ以上は駄目だ!」
「何が駄目なのかな?」
レライエはまるでネズミを見つけた猫のように、瞳を細めると少しずつその手を下に移動させていく。
「駄目なものは駄目だ!」
響はレライエの手を握って下に行かないようにするが、なかなか止めることはできない。
三十秒程の攻防の末、遂にレライエは手の力を抜く。
響はわかってくれたか、と一安心するがその瞬間、響の体に冷たいシャワーがかけられる。
「冷た!」
「フフフ、冷たって」
冷水をかけたレライエ本人は、クスクスと口元を隠しながら響の様子を笑っていた。
「ねえ響」
「何だレライエ?」
レライエは後ろから響を抱きしめると、耳元で小さな声をささやき始める。
「君は折れたりしないよね?」
「ああ、きっとな」
浴室に備え付けてある鏡で、響はレライエの表情を見ようとするが、湯気で見ることは叶わなかった。
それを聞いたレライエは、そのままレライエは実体化を解いてその場を後にする。
「ふう、出るか」
後に残された響は、浴室の外に出していたタオルで体を拭いて、風呂場を後にするのであった。
「ねえ兄貴?」
「何だ琴乃」
「兄貴いつもと違うにおいがする」
風呂上がりの響を見た琴乃は、スンスンと顔を近づけてそう言うのであった。
無論響もそんな覚えは無いので、自分の体を嗅いでみるが特に臭わない。
「臭わないぞ琴乃」
「んーじゃあ私の勘違い?」
琴乃は「何か違うにおいがするんだけどなー」と言っているのを尻目に、響は自室に戻るのであった。
翌日、響はいつもどおり教室で達也とたわいない会話をしていると、再び別のクラスの女子生徒が達也のもとに近づいてくる。
響と達也はその女子生徒の顔へ、ちらりと視線を向けてみると昨日告白してきた女子生徒とは違う女子生徒であった。
腰に届きそうな長い黒髪と豊満な胸元を持った、清楚な少女であった。
近づいてくる女子生徒の顔を響と達也は知っていた、美少女ランキング高等部二年生の部で八位にランクインしていた少女だからだ。
「あの、立花達也さん。実は言いたいことがありまして」
女子生徒は恐る恐る達也に話しかけると、頭を下げて右手を差し出すのであった。
「好きです、付き合ってください!」
思いっきりの良い告白に、教室内に居たクラスメイトは騒然とする。
しかし達也の顔は思わしくなく、そのまま頭を斜め四五度まで下げる。
「すまない、断らせてくれ」
達也の返答は一刀両断であった。それを聞いたクラスメイト達の様子は、さらに騒がしくなる。
告白を断られた女子生徒は、そのまま回れ右をして教室を去っていくのであった。
「なあ達也、流石に一刀両断はヤバいんじゃ?」
「響、昨日も言ったが俺は今余計な関係を築きたくない。それと昨日もなんだが俺は一度も彼女たちと喋ったことは無いぞ」
達也の言葉を聞いた響は、ゾッとするような表情をして顔を青ざめるのであった。
「え? 話したこと無いの?」
「ああ、何なら俺の記憶が確かなら、初対面のはずだ」
達也の言葉を聞いて悩む響。
初対面のはずなのに、連続で告白してくる美少女ランキングランカー達、もしこれが今後も続くようであれば……そう思った響は達也に小さく耳打ちする。
「明日以降も告白されたら、少し調べてみるか?」
「あんまり色恋事の調査はしたくないがな、やるべきだな」
達也は頭を悩ませながらも、響の言葉に同意するのであった。
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