誰にも見せない素顔
六月も半ばに入った頃、響達のクラス全員が担任の一声でざわついた。
「お前達、転校生を紹介する」
何故今の時期に、男か女か、美形かそうでないか、など生徒達は意気揚々と喋りだす。響と達也も例外ではなかった。
「響どんな奴が来ると思う?」
「最近、イヴィルダー関係ばっかだからそれ以外で」
「それは賭けにならないだろ、百円のアンパンでいいか?」
「勝ったらこし餡な」
生徒達が騒ぎ続けて数分が経ち、教師の「コホン」という咳で教室は静かになった。
「では入ってきなさい」
教師が廊下に向けて転校生を呼ぶ。入ってきた転校生を見た響が抱いた第一印象は、純白だった。
男子制服を着た彼は、体の線は細く、白が混じった銀髪を後ろに纏めていて、色素の薄い肌をしていた。そしてもう一つ彼を印象づけるのは、丸いサングラスをかけているのであった。
「初めまして、転校してきた
薫の自己紹介を聞いた生徒達は、パチパチと拍手をするのであった。そして始まるクラスメイトから薫への質問。
「すいませんそのサングラスは?」
「目が光に弱いのでかけています」
サングラスについての質問は、その答えを聞いて収まった。さすがに病気や生来のものについて、詳しく突っ込む勇気はクラス全員に無かった。
「えっとどうしてこの時期に転校を?」
「ごめんなさい、家庭の事情としか言えません」
続く重たい返答に、質問の数は目に見えて減っていった。最終的に質問は好きなものや、趣味など当たり障りのないものが続いた。
午前の授業が終わり、昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。席に座って昼食を食べようとしている薫の前に、響が席に近づく。
「ヘイ! そこの彼、一緒にお昼しない?」
「え、え?」
「さすがにその誘い文句はどうかと思うぞ」
死語に近い昼食の誘いを聞いて、目を丸くする薫。それを見て冷たい視線を、響に向ける達也であった。
「えっとよろしくお願いします?」
「よろしく、俺は加藤響。宮島君?」
「薫でいいですよ、代わりに僕も響君って呼んでも?」
「いいぜよろしく、薫」
互いに自己紹介する響と薫。薫の提案を聞いて響は、笑顔でサムズアップするのであった。
「俺も名乗っていいか? 立花達也だよろしく」
「達也さんですね、僕のことは薫と呼んでください」
「ああ、よろしく薫」
達也と薫の自己紹介も終わり。響と達也は、薫の席にくっつけるように席を動かし始める。
そして始まる三人の昼食、そして合間合間に三人は質問や雑談をする。
「響君と達也さんは知り合ってどれくらいなんですか?」
「だいたい中一の頃からの付き合いだよ」
「なるほどーいいなぁ」
ボソッと薫は、羨ましそうに呟く。それを響と達也は、気づくことはなかった。
その後も昼食は問題なく続いていったが、その時は訪れた。薫が箸を落としたのだが、落ちた位置が響の側だった。
「あっ……」
「おっと」
同時に頭を下げる、響と薫。お互い譲らなかったために、二人の頭は衝突してしまう。
ゴツンと鈍い音が鳴ると同時に、カランと軽い音が響の耳に聞こえた。
「いてて、え?」
痛みで目を閉じた響であったが、すぐに目を開く。視界に映ったのはサングラスが外れた薫の素顔であった。
男と言うには美しく、女と言えば信じられそうなその見目麗しい顔と、見たものの視線を捉えては逃がさない美しい紫色の瞳は、響を一瞬とはいえ魅了した。
「いたた、ごめんなさい響君!」
サングラスが外れていることに気づいた薫は、その白い肌をほのかに赤く染めてサングラスをかけ直す。
薫の素顔について、人ならざる美貌を持つキマリス達を知ってる響でさえ美しいと思ったが、それを言う勇気は響に無かった。
「大丈夫か二人共」
なかなか顔を上げない二人を心配したのか、達也は声をかける。薫は「大丈夫です」と慌てて箸を取り顔を上げる。
その後も三人は、何事もなく談話しながら昼食を続けた。
薫が響達のクラスに転校して、三週間が過ぎた。その間響は薫に琴乃や椿などを紹介したり、一緒に途中まで下校するなど、日常を楽しんだ。
「宮島は今日も休みか……」
担任は出席名簿を見て呟いた。四日連続で休み始めた薫、休んでいる理由は担任に伝えられてないし、響達も知らない。
そのまま時間は過ぎていき、その日の授業は全て終わった後、響と結奈は担任に呼びかけられた。
「加藤、青樹悪いがいいか?」
「なんです先生?」
「宮島の家に行って書類を直接届けてほしいんだ、ああ蒼樹と一緒にな」
担任はそう言うと響に書類を手渡す。響は結奈の方へ視線を向けるが、結奈は「それぐらいなら」と快く承諾していた。
承諾を得たと思った担任は、「そうかそうか」と面倒事が一つ減ったように、笑って去って行くのだった。
「行きましょうか加藤さん」
「そうだな」
担任が去って行った後に残された二人は、ゆっくりと薫の家に向かうのであった。
「加藤さんは私といるのが嫌なのですか?」
薫の自宅へ向かう途中に、結奈はそう聞き始めた。
「いやそうじゃないが、青樹さんとはあんま喋らないだろ。だから何を話せばと」
「それでしたら、電気工事についての話などいかがで……ホントに道こっちですか?」
住所が書かれた紙を見ている響が先導する中、青樹は疑問を出す。響達が歩いている場所は、駅付近の高級マンションが集まっている地域だった。学生二人が歩くには、場違いと言わんばかりの場所なので青樹は質問したのだ。
「書かれた住所に近づいてる筈だし、地図マップ通りに進んでいるから間違いないはずだ」
歩いてさらに数分後、響達は高層マンションの前にいた。そこは最近できたマンションで、高さ二十階と周囲のマンションより頭一つ抜けていた。
「高いですねここ、で場所は合っているのですか?」
「おう、住所も一致しているし、マンションの名前も同じだ」
薫の住んでいる場所であることを確認した二人は、早速マンションの中に入っていく。
エレベーターに乗り十五階に到着した響達は、吹き抜ける風に耐えつつ表札を確認していく。
「えっと順番的にこっちでしょうか?」
「そうだな、四号室、五号室、っとここだ」
響達は目的の部屋の前にたどり着くと、表札に視線を向ける。そこには宮島薫と書かれていた。
インターホンを鳴らすが、どれだけ待っても反応をは返ってこない。響がもう一度押そうとした時、服の袖がドアノブに引っかかって扉が開く。
扉に鍵がかかっていないことに驚く二人だが、すぐに周囲を警戒して視線を交わす。
「どうします、加藤さん」
「念の為に様子だけみるか……」
響の意見を聞いた結奈は、無言で頷く。そして二人は音を立てないように慎重に家に入るのだった。
「お邪魔しまーす」
「しーですよ、加藤さん」
二人が家に侵入すると、眉間にしわを寄せる。部屋は玄関から荒れていて、まるで誰かが家探ししたような状態であった。
「ひどい有様だ」
床に散乱している物を、踏まないように歩く響が一人呟く。紙やビニール袋などが、歩くのに不便しない程度に床に落ちていた。
響と結奈はそうしてリビングにたどり着く、リビングはひどい有様でテレビやタンスが倒れていた。
「加藤さん、お気おつけて」
「おう」
二人はこの惨状を生み出した人間がいないか、警戒しながらも部屋を探索し始める。浴室、トイレ、キッチン、寝室と見て回ったが誰も居らず、物が散乱としていた。
「結局誰もいないか」
「加藤さーん、こっちに来てください」
一通り部屋を見回った響は、腕を組んでため息をつく。そこにリビングにいる結奈からの呼び出される。
「今行く!」
リビングに移動した響が見たものは、破かれていたのかところどころ欠けている一枚のポスターだった。
「これ部屋にあったんですけど、十年前の映画のものですよね?」
結奈が見つけたポスターは、響も昔CMで見たことのある有名な映画のポスターだった。そして結奈は、主演俳優が書かれた所を指差す。
「ここに書かれているカオルという子役なんですけど」
そのまま結奈の指はポスターの中心に移動して、子役を指差す。その子役は、透き通るような美しい銀髪と、少年とも少女とも判別がつかない美しい美貌、そして紫の瞳を持っていた。
「こいつ薫に似ている……」
「そうですよね宮島さんに似ていますよね」
そこにガタリと玄関の扉が開く音が響く。すぐに玄関の方へ向く響と結奈、玄関に居たのはサングラスを外した薫だった。
泣いていたのか目元は赤く腫れていて、彼の整った顔は頬が痩けていた。
「どうして君たちが、響君がいるんだい?」
薫は喉から力いっぱい声を出して、二人に問いかける。そして二人の側にポスターがあることに気づいた薫は、両手で顔を隠して怯えだす。
「見ないで、僕を見ないで!」
カチャリと薫の服から何かが落ちる。響の視力では詳しく分からなかったが、大きさとしてはまるでイヴィルキーのようなものだった。
(イヴィルキー!?)
「薫、もしかしてそれは……」
響が「イヴィルキーか?」と問いただす前に、薫の体に黒いオーラがまとわり付く。そして空中に浮遊するイヴィルキー、薫の周囲に浮かぶそれは誰の手も借りずに起動する。
〈Demon Gurtel!〉
〈Belial!〉
〈Corruption!〉
「うわあああぁぁぁ!」
薫の腰にベルトが巻かれると共に、イヴィルキーが挿入される。そしてベルトから発生した黒い炎が、薫を飲み込む。
「薫!」
黒い炎が消えると、そこには薫ではなく黒い悪魔のようなイヴィルダーがいた。
「みんな僕じゃない、カオルを見てるんだ!」
黒いイヴィルダー――ベリアルイヴィルダーに変身した薫は、叫び声を上げると黒い炎を二人に目掛けて放つのだった。
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