悪戯を好む残酷な双子の悪魔

 散歩していた響は足を止める、普段と同じ道を歩いていた筈なのに何かがおかしい。来た道を見返して見るが、響の記憶と何かが違う。まるで違う道を歩いてるような錯覚をする。


「おかしいな、ここの通りこんな道だっけ?」


「なんだい響、もしかして迷ったのかい?」


 響が記憶との違和感に頭を悩ませてると、キマリスが影から出てきて、からかうように響に話しかける。響は「そんなわけないはず」と答えて、ポケットからスマホを取り出して地図アプリを起動させる。

 

「キマリス、例えばこの道は、十メートル先には曲道が……ない?」


 響が十メートル歩いて、曲道がある方向に視線を向けると、そこには道を塞ぐように壁があった。響は記憶にない壁に頭を唸らせながら、何度も手元のスマホと壁を見る。スマホの画面には、変わらずに曲道が表示されている。

 何度も壁を見ているうちに響は違和感を感じる、そして響が壁を観察しているうちに違和感の正体がわかる。壁が高いのだ、十メートルはあるコンクリート製の壁は、周囲の外観と比べて響が違和感を感じるのである。


「おかしい、こんな高い壁があったら忘れるはずがない」


「何ていうか、今の時代の職人は皆こんなセンスなのかい響? どう見ても場違いな壁だね」


 響とキマリスが壁について考察を深めていると、「クスクス」と笑い声が響の耳に聞こえてくる。響はすぐに周囲を見渡すが、周囲には響とキマリス以外姿は見えない。

 何より聞こえてきた声は響の声よりも高く、キマリスの声より若いものだった。響の脳裏に浮かんだのは、まるで子供の声だと。

 聞こえた声について響が悩んでいると、響のスマホがメールを受信する。発信者は結奈からのもので、内容は警察に道路がおかしいとの通報が多発している、と記載されていた。

 響はメールの内容と同じ現象に、自分も遭遇しているのだと判断する。しかし誰が、何のために、こんな事をしているのか響には想像つかなかった。


「一体誰がこんなことをしてるんだ?」


「さあ? 少なくとも分かるのは、どうも大規模に暴れてることだけだね」


 響が身を翻して道を戻ろうとすると、二人の少女が道を塞ぐように立っていた。響が一見した所少女達は、顔が似ており双子かと思わせる。また黒髪をボサボサに伸ばしており清潔感を感じさせない。

 また響の目についたのは二人の少女の服装だった。響は最初ボロを着ているのかと思う程に、着ている服は汚く、また破れていた。


「嬢ちゃん達、悪いがそこを通してくれないか?」


「ねえお兄さん、遊びましょう」


「そうそう。遊ぼうよ」


 少女達は道を譲ることもなく、笑いながら響に語りかける。遊ぼう、遊ぼうよと何度も響に語りかける。

 響は少女達の声を聞いているうちに、背中に悪寒を感じ始める。今まで見てきたアストラル界の住人や、イヴィルダーとも違う気配に、響は無意識にポケットからキマリスのイヴィルキーを取り出す。


(何だこいつらは、イヴィルダーとも違うこの悪寒は……)


 響が一瞬、どう対処すべきか思いを巡らせているうちに、事態はさらに一変する。少女達の背後にさらに二人の少女が立っていたのだ。増えた少女の内、一人は利発そうな金髪の少女、もう一人の少女は無邪気そうな銀髪の少女であった。

 増えた少女に動揺する響、増えた少女達も遊ぼう、遊ぼうよと笑顔で語りかける。

 

「あら、このお兄さんも契約者みたですね。マルファス」


「本当なのハルファス、ならもっと激しく遊びましょう」


 マルファス、ハルファスと呼び合う少女達は、響が持つイヴィルキーに気がつくと、その肉体をイヴィルキーに変貌させる。そして二つのイヴィルキーは双子の少女の手に渡る。

 双子の少女は何の遠慮もなく、互いのイヴィルキーを起動させる。


(嘘だろ!? こんな子供も契約者だと!)


〈Demon Gurtel!〉


〈Halphas!〉


〈Malphas!〉


「ふふ、遊びましょう憑着」


「遊ぼうよ憑着」


〈Corruption!〉


 二人の少女達の姿は隼を思わせるような鳥人の、ハルファスイヴィルダーとマルファスイヴィルダーへと変貌する。そして二体のイヴィルダーは空を舞い、響へと突撃する。


「響、気をつけたまえ! ハルファスとマルファスなら、この二人が騒ぎの元凶かもしれない」


「だったら子供相手でも、実力行使も止む得ないな!」


 響は突撃してくるハルファスイヴィルダーとマルファスイヴィルダーを、ヒラリと回避するとキマリスのイヴィルキーを取り出す。同時に響の腰にベルトが巻き付き、キマリスは響の影に戻る。


〈Demon Gurtel!〉


「アハハハ、お兄さん変身させると思うの? モズさんの餌のように串刺しになりなさい!」


 ハルファスイヴィルダーは空中で旋回すると、首を絞めようと両腕を伸ばして、響を捕らえようと襲いかかる。

 予想外の速さに響は反応できずに、ハルファスイヴィルダーに首を掴まれてしまう。響は首を締められる感覚に我慢しつつも、イヴィルキーを起動させてベルトに挿入する。


〈Kimaris!〉


「ひょ、憑着!」


〈Corruption!〉


 ベルトから起動音が発せられると共に、ベルトからケンタウルスが現れ、ハルファスイヴィルダーに突撃する。腹部を襲った衝撃に耐えきれず、ハルファスイヴィルダーは響の首を離してしまう。開放された響は地面を転がり、キマリスイヴィルダーへと変身する。


「クソガキ共、お仕置きの時間だ!」


「あははは、お姉さまこの人と遊ぶ?」


「ええ、ですから貴方は他の人と遊んでらっしゃい」


「はーい」


 ハルファスイヴィルダーは響の方へ向くと戦う姿勢を見せる。マルファスイヴィルダーは変身を解除すると、少女の姿に戻り、何処かへと歩き出す。


「ま、待て!」


「お兄さんは私と遊びましょう」


「取り逃がすと面倒だから、今は構ってられないんだよ!」


 響は何処かへ行こうとする少女を追おうとするが、ハルファスイヴィルダーが邪魔をする。

 邪魔をするな、と言わんばかりに響はジャンプすると、ハルファスイヴィルダーの肩を踏みつけて跳躍する。そして少女の服を掴もうとするがスカッと空振ってしまう。


「何!?」


「私の方をご覧なさい!」


 少女を触ろうとしたのに触れなかった事実に、響は驚愕する。しかし驚いてる暇はなく、ハルファスイヴィルダーが響へと飛び掛かる。

 響は迷わずカウンター気味に、襲いかかるハルファスイヴィルダーの喉に向けて殴りかかる。


「舐めるな!」


 喉への鋭い一撃にハルファスイヴィルダーは、カエルが潰れたような声を上げて地面に転げ回る。

 響は追い打ちをかけるようにジャンプして片膝を曲げ、そのままハルファスイヴィルダーの喉に膝を叩き込む。


「喰らえニードロップ!」


 再び喉への一撃にハルファスイヴィルダーは、グェと声を上げる。しかしすぐに立ち上がり、響に向き合う。


「淑女の喉を攻撃するなど酷いと思いませんの?」


「クソみたいな騒ぎをやってる奴に淑女もねえよ」


 ハルファスイヴィルダーは蹴りを響に向けて叩き込むが、響は攻撃を防ぎそのまま距離を詰める。そしてハルファスイヴィルダーの喉に向けて、手刀、 貫き手を放つ。


「ぐぅ、また喉に」


 ハルファスイヴィルダーは苦しむ声を上げると、急いで空へ逃亡する。そして響の頭上をクルクルと旋回して、痛みが引くのを待つ。


(また空に逃げられた、いやまだ手段はある!)


 響はイヴィルダーの強靭な身体能力を利用して周囲の壁を蹴り、三角飛びで空まで飛んでハルファスイヴィルダーの足を捕まえる。


「くっ離しなさい!」


「もし離すなら、お前が墜落してからだ!」


 響はハルファスイヴィルダーの足を掴みながら体を揺らす、すると空中でバランスが取れなくなったのか、ハルファスイヴィルダーは徐々に高度を下げていく。


「今だ、ジャイアントスイングゥ!」


 地上に足が着いた響は、すぐさま両足を軸にして自身の体を回転させて、ハルファスイヴィルダーの体を壁に放り投げる。

 頭を壁にぶつけて動かなくなったスキを、響は逃さずに追撃する。響は跳躍すると再びニードロップを仕掛けようとする。


「舐めないで!」


 ハルファスイヴィルダーは背中の翼を展開すると、空中の響を迎撃するように羽を斉射する。


「チィ!」


 凄まじい数の羽に対して響は両腕でガードするが、全ての羽は防ぎきれずに地面に墜落する。


(鳥ならこうゆう芸当もできるのか!)


 ハルファスイヴィルダーが飛び道具を持っていないと、響が思い込んでいたために予期せぬ攻撃に悪態をつく。

 すぐに響は体勢を立て直すと、キマリススラッシャーを生成して構える。


「調子に乗るなクソガキ!」


「アハハハ、そうカッカしないでくださいまし、お兄さん」


 ハルファスイヴィルダーは両腕を広げて、翼のように滑空して響を襲う。響も回避しながらも反撃のスキを伺うが、ハルファスイヴィルダーは素早く捕らえきれない。


(この道だと……左右に避けられる、なら次の通りまでおびき寄せれば)


 響は周囲を把握しているアドバンテージを利用して、ハルファスイヴィルダーを閉所におびき寄せようとしていた。

 ハルファスイヴィルダーの突撃を回避しながらも響はうまく誘導していた、怪しまれることなく。


「あら? 鬼ごっこは終わりかしら、もう逃げ道は無いわよお兄さん」


「ああ、終わりだ。お前の負けでな!」


 左右に逃げ道はなく行き止まりに逃げた響。哀れな袋のネズミとハルファスイヴィルダーは笑うが、響の表情は諦めていなかった。

 すぐさまベルトのキーを二度押し込むと、ジャンプしてハルファスイヴィルダーに向けて飛び蹴りを放つ。


〈Finish Arts!〉


 避けようと左右を見るハルファスイヴィルダーだが、壁に囲まれていて逃げることはできない。「やられる」と思い込み目を瞑るハルファスイヴィルダー、しかし衝撃は襲ってこなかった。


「何!?」


 響の必殺の一撃は、ハルファスイヴィルダーの目の前に発生した壁によって防がれた。


「よくも姉さんをイジメたな」


 その場に聞こえた少女の声に、響は視線を向ける。そこには何処かに消えたはずのマルファスイヴィルダーが立っていた。

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