三十六の軍団を従える公爵と新たな仲間
日曜日、響と達也の二人は、上之宮学園から少し離れた一軒家の前にいた。昨日桜木千恵から響へ連絡があり、「お友達の契約者君も連れて家に来て」と頼まれたのだ。
「でかいなこの家」
「ああ、でかいな。保険医一人が住むにしては」
響も達也も、指定された家の大きさに驚いていた。もちろん住所が間違っていないか確認もしたし、表札にも桜木と書かれていた。
訪問する家が間違っていないことを確認した響は、深呼吸するとインターホンのボタンを押した。ピンポーンと何処にでもあるインターホンの呼び出し音が鳴り、すぐに反応が帰ってくる。
「はい、桜木ですけど」
「おはよう御座います、加藤と立花です。桜木千恵先生のお宅ですよね?」
「ああ、立花君! いらっしゃい今鍵を開けるから待っていて」
家に案内された響と達也が最初に感じたのは広いではなく、ごちゃごちゃしてるだった。廊下にはダンボールがいくつも積まれており、また通販サイトの包装用ダンボールが解体され一纏めに縛られている。
「あの、先生はこの家に一人で住んでるのですか?」
「そそそんな事無いですよ、他の魔術学院の方もこの家で寝泊まりしてますからね」
響の質問に焦ったように答える千恵、その直後にゴトリとなにかが崩れたような金属音が鳴る。三人が音の鳴った方へ視線を向けると、積み上げられたビールの六缶パックが崩れた音であった。
「あはは、皆疲れているからお酒とかよく買うんですよ。決して先生だけが飲んだりしてるわけじゃないですよ」
「桜木先生、その人の家だからあんまり細かく言いたくないんですけど……」
「響、はっきり言ってやれ片付けたほうが良いと」
達也の遠慮のない言葉を聞いて、千恵はショックを受けたのかガックリと肩を落とす。それでも足は止めずに、響達を家の奥へと案内していくのであった。
案内された部屋に着いた響達は、広がる光景につばを飲み込む。いくつものスチール製の机の上には、ノートパソコンが設置されていて。またホワイトボードやソファー、冷蔵庫などの電化製品があり。一見すると事務所やオフィスなどをイメージさせる部屋であった。
「あはは、普通の部屋で驚いた?
千恵は胸を張って部屋を自慢する。その際に千恵の大きな胸が揺れて、響と達也の視線を集めたのに千恵は気づかなかった。
千恵は響と達也をソファーに座らせると、部屋の奥に向かって「こっちに来てー」と叫ぶ。するとすぐに一人の青い髪の少女が部屋に現れる。
少女の容姿は青い髪をおさげにして、すこしだぶついた白衣と大きな丸メガネが印象的な少女であった。
「先生、彼らが例の協力者ですか?」
「ええ青樹さん、彼らがそうよ」
「どうも、
蒼樹結奈と名乗った少女は、響と達也の顔を見ると「うーん」と唸り始める。結奈は十数秒程悩むと、ポンと手を叩く。
「ああ思い出しました。最近クラスで険悪なムードだった人たちですね、覚えてますよ」
結奈の言葉を聞いて、響と達也は顔を見合わせて「知ってる?」と互いに聞き始める。二人は記憶を振り絞って思い出そうとするが、該当者はいなかった。
思い出そうと悩む二人を見て、結奈は髪をほどきメガネを外す。そしてもう一度自己紹介するのであった。
「これで分かりますかね? 二年C組に在籍、科学研究会所属している蒼樹結奈です」
響と達也と同じクラスを名乗った、結奈の自己紹介を聞いた二人の反応は別々のものであった。
達也は結奈が科学研究会に所属していると聞いて、顔を青くしてお腹を押さえる。科学研究会はオカルト研究会と並ぶ上之宮学園の非公認の同好会である。そして生徒会を悩ませる問題児なのだ。
響はメガネを外して髪をほどいた結奈の顔を見て、クラスメイトの一人と顔が一致して「あー」と呟くのであった。
「えっと、自己紹介は終わったかしら? ごめんなさい青樹さん、少し席を外すから説明をお願いね」
「分かりました、桜木先生」
響達のやり取りを見て問題ないと判断したのか、千恵はその場を結奈に任せると部屋を後にするのであった。
「ではまずは私の契約した悪魔はこいつです」
〈Dantalion!〉
結奈はいきなりイヴィルキーを取り出すと、キーを起動させる。それを見た響と達也は、急いでキマリスとアンドロマリウスのイヴィルキーを取り出す。
響と達也の反応を見た結奈は、嬉しそうに笑いながら「ごめんなさいね」と謝罪してイヴィルキーをポケットにしまう。響と達也もそれを見て、自身のイヴィルキーをポケットにしまうのであった。
「良かったです二人が戦いに対応できる方で。私は見ての通りのインドア派なので、戦うことなど到底ムリな話です」
結奈は両手で手を合わせてニコニコと笑う。そんな結奈を見て二人は、毒気が抜かれるのであった。
毒気を抜かれてどう反応すればいいかわからない響の影から、キマリスが現れてダンタリオンについて補足する。
「ふーん、ダンタリオンは学問の知恵を与えたり、様々な秘密を覗く悪魔だ。彼女とは親和性があるといえばあるね」
「じゃあキマリス、戦闘能力はもしかして」
「七十二の下から数えたほうが早いぐらいに、貧弱だね」
キマリスはダンタリオンが実質弱いと宣言すると、やれやれと肩をすくめて響の影へと消えていく。
「そうゆうわけで、加藤君と立花君には暴れるイヴィルダーとアストラル界の住人の対応をお願いしま……」
「結奈! まどろっこしい話は終わりましたか!?」
結奈が響と達也に頭を下げて、今後のことを頼もうとした瞬間。結奈の背後から白衣を着た痩せ気味の男が現れて、声高々に叫びだす。
男は近くからホワイトボードを持ってくると、物質界、アストラル界、
「いいですか、あなた達が何気に使っているデモンギュルテルは
「ダンタリオン貴方は勝手に話を……」
「結奈は少し黙って! 今は私の講義の時間です!」
結奈にダンタリオンと呼ばれた男は、高いテンションを維持しつつホワイトボードの物質界と
「ですがそのへんにいる凡俗な才能を持つ人間では、
ダンタリオンはホワイトボードの物質界とアストラル界の間に線を引き、線の下に魔術と書き足す。
「デモンギュルテルは、かつてソロモンが作り上げた至高の魔術術式の一つです。それの価値を知らない……」
「ダンタリオン! 貴方後どれくらいおしゃべりを続ける気です?」
「結奈! 決まってるでしょうそこの蒙昧無知な人間の二人に教えるのですから、後最低でも三十分程いただければ」
ダンタリオンの言葉を聞いて結奈は「もういいです」と言うと、イヴィルキーをダンタリオンの前に掲げる。するとダンタリオンは粒子状になりイヴィルキーの中に吸われていくのであった。
「えーと青樹さん?」
「失礼しました。ダンタリオンは普段からあんな感じなので、コントロールが効かないことのあるのです」
恐る恐る声をかけた響に対して、結奈は安心させるようにニッコリと笑う。しかし響は先程の結奈とダンタリオンの掛け合いを見て安心はできなかった。
「そういえば青樹さんは、俺たちに何か説明するんじゃ無かったっけ?」
「ええ本当はそうだったのですが、ダンタリオンが大体の内容を言ってしまったので終わりです」
響の質問に対して、結奈は申し訳ないような顔をする。しかしすぐに「そういえば」と言葉を続ける。
「加藤さんが集めた契約をしていないイヴィルキーを、こちらで預かってもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいけど」
響はポケットからフェネクスのイヴィルキーを取り出して結奈に手渡す。結奈はイヴィルキーを受け取ると、「確かに」と言ってトランクに収納する。
「これで我々が把握しているイヴィルキーはレライエ、フェネクス、キマリス、ダンタリオン、アンドロマリウスの五つですか」
「まだ五つしかイヴィルキーが集まってないのは、悩むことなのか?」
達也の質問に結奈は「いえ」と前置きして、真剣な表情になる。
「どちらかと言うと危険な力を持つ悪魔のイヴィルキーが、見つかっていないことが問題なのです。例えばラウムは財宝を望んだ場所に移動させ、都市を破壊する力を持ちます」
さらに結奈はホワイトボードを一度綺麗にすると、ホワイトボードにバアル、パイモン、ベレト、プルソン、アスモデウス、ヴィネ、バラム、ザガン、ベリアル、と書き始める。
「これらの悪魔は全て王の地位に就いています。その力はそれ以外の悪魔と比べても桁違いでしょう」
「もしかして俗に言う前途多難?」
「言い換えると前途遼遠とも言いますが、まあ意味は変わりません」
響と達也は突きつけられた現実に、苦悶の表情を浮かべる。それを見た結奈は、このまま二人が折れても困るので何とか元気づけようとする。
「ですがサポートとして桜木先生を含む魔術学院の方々もいますから……」
すると部屋に響達より年上の、金髪の美青年が入ってくる。響と達也は「どうも」と頭を下げ、結奈は青年を「クスィパスさん」と名前を呼ぶ。
「紹介します、この人はクスィパス・メンダークスさん。桜木先生と同じ魔術学院のから来た方です」
「メンダークスだ、よろしく契約者の諸君」
「加藤響ですよろしくお願いします、メンダークスさん」
「立花達也といいます、メンダークスさん」
自己紹介した響と達也はもう一度頭を下げようとするが、クスィパスは「頭は下げなくていい」と手を伸ばし制止する。
「契約者である君たちは、我々にとっても切り札だ。君たちの活躍には期待しているよ」
そう言い残してクスィパスは笑いながら部屋を去っていく、クスィパスが部屋を去ったのを確認すると、結奈はホッとため息をつく。
「失礼、ちょっと私あの人が苦手なものでして。ところでなにか質問などございますか?」
結奈の言葉に響と達也は顔を横に振る。それを見て結奈は満足気に「よろしい」と言い、冷蔵庫の前に移動する。そして冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出して、笑顔で二人にペットボトルを手渡す
「二人共、お土産にどうぞ。一本や二本貰ってもバチは当たらないでしょうから」
響と達也は手にお茶を持って、家を後にするのであった。
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