友よ、君はなぜ悪魔と契約したのか
アンドロマリウスイヴィルダーの正体が達也だと知りショックを受けた響、そんな響を見て達也は薄ら寒い笑みを浮かべる。
「まあ、お前のその表情も分からなくもない。俺もかなり驚いてるからな」
「俺もだと……」
「学校内で暴れている奴がいるのは以前から知っていた。響がそうだと知ったのは今だからな」
「なんでお前がイヴィルダーに……」
響はそう言いながら、感情に身を任せ達也の胸ぐらを掴む。達也は響の行動に表情を変えずに「離せ」と一言呟く、それでも胸ぐらを離さない響に業を煮やしたのか響を殴り飛ばす。
「ううぅ」
「お前がなんと言おうと関係ない、俺は俺の意思でこの平穏を守る。それだけだ」
達也はそのまま響との距離を取ると、イヴィルキーを起動させてそのままZの字を描き、イヴィルキーをベルトに挿入する。
〈Andromalius!〉
「憑着」
〈Corruption!〉
アンドロマリウスイヴィルダーに変身した達也は響を一瞥すると、そのまま校舎の壁を走っていきそのままその場を去っていった。
呆然と立ち尽くす響を見て椿は、恐る恐る「先輩……」と声をかける。声をかけられて響は悲しそうに笑うと「教室に戻ろうか」と答える、椿はそんな状態の響を見ていることしかできなかった。
教室に戻り席に座った響はふと視線を動かす、しせんの先にはクラスメイトと談話している達也の姿があった。響が達也の姿をじっと見ていると達也と視線が合ってしまう、すぐに二人は気まずそうに視線をそらすのであった。
(達也になんて声かければ良いんだろ。さっきは悪かったとか? お気楽過ぎるから駄目だな)
響は午後の授業中無意識にノートを取っていたが、頭の中では達也にどう話しかけるか悩んでいた。その悩み様は周囲の人間からも見て気付けるほどであった。
放課後になり響は、達也に話しかけようと決心して達也の席に視線を向ける。しかし達也の姿はそこには無かった。クラスメイトに聞いてもホームルームが終わったらすぐに教室を出ていったとしか聞けなかった。
(結局生徒会室で聞いても今日は来てないって言われたな。明日、達也と話しできるかな……)
響は明日への不安を思いながら帰宅する。家には琴乃が先に帰っていて、リビングでリラックスしていた。
「兄貴、お帰りーってどうしたのその顔、酷い顔だよ」
「ただいま琴乃、そんなに酷いか?」
「うん酷い、どうかしたの達也さんと喧嘩でもした?」
琴乃に達也との不仲をピタリと当てられて響は、ドキリと反応してしまう。それを見た琴乃はニヤリと笑って響をイジりだす。
「兄貴、ぶどう10%のヒロインは誰かとかで揉めたりしたのー?」
「まあ、そんな感じかな……」
琴乃の言うぶどう10%とは週刊少年飛翔に連載されている、ぶどう柄のパンツを着た少女達との学園ラブコメ漫画である。響と達也は誰が最終的に主人公と結ばれるか、何度も熱い議論を繰り広げていた。
「どーせ兄貴が西で、達也さんが東を推していたんでしょ」
「じゃあ琴乃をは誰なんだ?」
「あたしは北かなー、個人的に南は無いね、ロリはねー」
琴乃との他愛ない会話に気が楽になる響、ほんの少しだけだが響の表情は柔らかくなるのであった。そんな響を見て琴乃も笑うのであった。
達也が契約者であったことを響が知って四日経った、しかしその間響は一回も達也に話しかけることはできないでいた。
悩んでいる響を見て琴乃の機嫌は日に日に悪くなっていき、さらに響を悩ませるのであった。
(達也に結局一度も話せないし、琴乃からの無言の圧力もすごいことになってるし、どうしようかな)
響は今日も達也にどう話しかけようか授業を受けながら悩んでいた、しかし考えども考えども良い考えは浮かばない。時間は無慈悲に経過してついに昼休憩に入る。
(もしかして今日も、こんな感じで一日を終わらせちゃうか?)
悩んで一日が半分経過したことに恐怖する響に、スマホが一件のメールを受信する。差出人は琴乃からであった。
(えっと……件名は「なる早で来て」、内容は「中庭に来い!」か)
学内で琴乃からのメールが珍しいために緊急の要件かと思った響は、昼食を食べずに急いで教室を後にするのであった。
「おーい琴乃、何のよう……だ……よ」
中庭で琴乃を見つけた響は手を上げて琴乃を呼ぶ、しかしその声は琴乃の隣にいる人物の顔を見てどんどん小さくなっていく。
琴乃の隣に居たのは、この四日間響を悩ませていた達也であった。達也の表情も響の顔を見て少しずつ険しいものになっていく。
達也の顔を見て足を止めてしまった響を琴乃は、響の腕を引っ張って達也に近づけようとする。
「兄貴、子供じゃないんだから足を動かす!」
「いや、あのな琴乃」
背中を琴乃に押されて向き合う響と達也、しかし響は気まずさから視線を反らしてしまう。そんな響の醜態を見た琴乃は顔を真っ赤にする。
「あのね、兄貴と達也さんが何で喧嘩してるのかは知らないけど、そんなに深刻なの?」
「いや、そうじゃないけど……」
「じゃあ、さっさと仲直りする!」
発破をかけたのに口どもる響を見て、遂に琴乃の堪忍袋の緒が切れる。
「兄貴、歯ぁ食いしばって」
「え? グェ!」
琴乃は一声かけると、響へ殴りかかる。響は反応できずに、まともに食らってしまい数M程吹き飛ぶ。それを見た達也は驚きを隠せないでいた。
「兄貴が何でウジウジ悩んでるかは知らないけど、私にも言えないこと?」
「琴乃、ごめん」
「達也さんも意地張ってないで、歯ぁ食いしばる!」
「え? 俺もぉ」
他人行儀で見ていた達也にも、琴乃の拳が襲いかかる。わざわざ琴乃が調節したのか、達也は響の隣に吹き飛ぶ。
「私は二人が喧嘩している所なんて、見たくないし。 兄貴と達也さんが、離れ離れになるなんてもっと嫌!」
琴乃は悲しそうに涙ぐみながら響と達也に向かって全力で叫ぶ。それを見た響と達也は申し訳なさそうに頭を下げる。響と達也は悩み、意地を張ってしまい、守りたい日常を壊しかけたのだと理解する。
「琴乃、わかった。 達也と話してみるよ」
「ホント? 仲直りできる?」
「それはわからないけど、二人だけで話してみるよ」
「じゃあ、行ってらっしゃい兄貴」
泣き止んだ琴乃は二人を送り出す。琴乃からの後押しを受けた響と達也は人気のない場所に移動する。
「なあ達也、俺は馬鹿だったのかな? 守りたかった妹の笑顔を、壊しかけるなんてさ」
「言うな、俺も馬鹿だっただけの話しだ。大事な日常を壊されないように、頑張ったのにこのザマだ」
二人は並んで地面に座り、本音を吐露する。大事な日常を守りたくて戦う力を得たはずなのに、その力が原因で日常を破壊しかけたのだ。
「響、もし俺たちが仲直りしなかったら琴乃ちゃんは何すると思う?」
「あーそうだな。俺たちの顔が赤く腫れるまでボコボコに殴られて、夕焼けの河川敷で仲直りするまで殴り合え! って言われるかもな」
響の言った内容を鮮明に想像してしまい、二人は大声で笑ってしまう。一分ほど笑うと、二人の表情は真剣なものになる。
「なあ達也。悪かった、ごめん」
「いや、俺のほうが悪かったすまない」
二人が互いに謝り和解した直後、耳をつんざくような琴乃の悲鳴が二人の耳に届く。悲鳴を聞いた二人はすぐに立ち上がり琴乃の元へと走り出す。
「琴乃!」
「琴乃ちゃん!」
駆けつけた二人が見た光景は、腰の抜けた琴乃を襲おうとしている棍棒を持ったゴブリンの姿だった。それを見た響と達也は、何も言わずにタイミングを合わせて飛び蹴りをゴブリンに放つ。
「ゴブゥ!?」
不意打ちを受けたゴブリンは、悲鳴を上げながら地面を転がる。響は琴乃とゴブリンの間に立ちふさがり、達也は琴乃を立ち上がれせて避難させようとする。
「達也、琴乃のこと頼んだ!」
「兄貴は?」
「お前らが逃げたら、すぐ逃げるさ」
不安げな琴乃に対して笑顔でサムズアップする響、それを見た琴乃は信じたのか、達也に付き添われてその場を避難するのであった。
琴乃の姿が見えなくなるまで、ゴブリンの視線を引きつける響。ゴブリンを小馬鹿にするように指をチョイチョイと動かして挑発する。
「ゴブゥ!」
挑発されたことが頭に来たのか、ゴブリンは怒り狂いながら響に向けて突撃する。単調でそこまで速くない速さで突っ込んできたゴブリンの突撃を、響はヒラリと余裕を持って回避する。
攻撃を回避した響は、琴乃が避難したことを確認すると、キマリスのイヴィルキーを取り出し起動させる。
〈Demon Gurtel!〉
〈Kimaris!〉
「憑着!」
〈Corruption!〉
響の体がベルトから出現した魔法陣に包まれると、キマリスイヴィルダーに変身した響が現れる。変身した響の姿を見たゴブリンは逃げようとするが、そうはさせまいと響の問答無用のドロップキックが炸裂する。
「逃げれると思ってるのか? 逃がすかボケ!」
倒れたゴブリンを無理やり立たせて、鳩尾への連続攻撃を始める響。ゴブリンも持っている棍棒を振るおうとするが、それよりも速く響の攻撃が何度も叩き込まれる。
ゴブリンの鳩尾への攻撃が三十を超えようとした時、ゴブリンは破れかぶれになり棍棒を力ずくで振り回す。暴れだしたゴブリンを見て響は距離を取る。
「チィ、だったらこれはどうだ!」
響は右手にキマリススラッシャーを生成すると、ゴブリンへと斬りかかる。ゴブリンも棍棒で防御したり、回避したりするが、響の連続攻撃の方が手数は多く何度も切り刻まれてしまう。
響の素早い剣さばきは、ゴブリンの棍棒を持つ腕を切り落とす。ゴブリンは腕を切られたことにすぐには気づかず、一瞬間をおいて痛みで苦しみ叫びだす。
達也との確執が無くなった響は、普段以上のコンディションであった。
響はキマリススラッシャーを持ち直すと、ゴブリンに向けて素早い五連撃を残った片腕に放つ。ゴブリンの片腕は響によってズタズタに切り裂かれてしまい、胴体と分かれてしまう。
「悪いけど、今日は調子が良くてね。これで終わりだ!」
響はゴブリンに回し蹴りを叩き込むと、そのままベルトに挿入されてるイヴィルキーを二度押し込む。
〈Finish Arts!〉
ベルトから発生したエネルギーを、両足に纏わせると響は空高く跳躍する。倒れているゴブリンを踏みつけるように、響は両足を揃えて飛び蹴りを放つ。
必殺技を食らったゴブリンは一瞬苦しむが、すぐにその体を爆発する。響も爆発に巻き込まれるが、ダメージは全く無かった。
「ふー、こんなものかな」
『お疲れ様響、なかなか良い戦いだったよ』
『サンキューキマリス』
響はストレッチのために首を回す。その最中にキマリスと今日の戦いについて、感想戦をするのであった。
「兄貴、大丈夫!?」
「琴乃、ああ大丈夫だ……」
「なんで逃げないのよバカ兄貴!」
響が答えようとした瞬間、琴乃からのビンタが響の頬に炸裂するのであった。
「でもさっきよりいい顔してるよ、兄貴」
「そっか、ありがと琴乃」
響と琴乃が笑いあった瞬間、昼休憩の終了五分前を告げるチャイムが学校中に鳴り響く。それを聞いた達也は、響に教室に戻るように急かす。
「響、そろそろ教室に戻るぞ」
「おっと、じゃあ琴乃また帰ってからな」
「うん、また後でね」
三人は中庭を後にして、急いで自分の教室に戻っていくのであった。
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