Just tell me who the hell are you

 時間は昼休憩になった頃、上之宮学園の中庭では響と椿がベンチに座っていた。響も椿も表情には出していないが、内心では緊張していた。

 響がソワソワしているのは、先程椿から「今日はお弁当を多く作りすぎたんです、どうですか?」と言われたためである。

 椿の容姿は十人中半数以上が美人と断定できるほどであり。しかも後輩で、イヴィルダーやアストラル界の住人との対処でも手伝ってくれる優しい少女である。家族以外の女性からの弁当を分けてもらうのは、甘酸っぱい経験のない響にとって初体験であった。

 椿がソワソワしているのは、響へ自分の作った弁当を食べてもらうからである。

 他人から見れば響は何処にでもいそうと評価されるだろう、しかし椿にとっては助けて欲しいと思った時に助けてくれた先輩なのである。

 そんな響に少しでも視線をもらうために、弁当を分けると言ってみたはい良いが、不味いなどと言われないか心配している椿であった。


「じゃあ、いただきます」


 椿の弁当箱からおかずを取る響、おかずを持つ箸は緊張からか僅かに震えており。力加減を間違えたり、何か横から刺激でも入れば落としそうな状態であった。それでも響は慎重に、ゆっくりと箸を動かして口元まで運びパクリと食べた。

 響がおかずを食べてからも、椿の心臓の鼓動は早かった。「口に合わない」とか「美味しくない」とか言われたらどうしようと緊張しているのであった。

 椿が見守る中、響はおかずをゴクリと飲み込む。それを見た椿も唾をゴクリと飲み込むのであった。


「椿君」


「は、はい。お味はどうでしたか?」


「ん、美味しかったよ」


 響はそう言ってはにかむ、そんな響の表情を見て椿はよかったと一安心した。その後響は椿の弁当を味わいながら、昼食を楽しむのであった。

 






 二人は昼食を終えると校舎に戻ろうとしたその時、女性の悲鳴が響き渡る。二人は顔を見合わせると、すぐに悲鳴が聞こえた方向に走り出す。


「先輩!」


「ああ、こっちだ!」


 学園の敷地内を走った二人が見たものは、醜悪な怪物が女子生徒を襲おうとしてる場面であった。響はそれを見て躊躇せず走り、そのまま怪物に向けて飛び蹴りを放つ。


「おらぁ!」


「GRRR!?」


 蹴りを受けた怪物は、女子生徒から離れてバランスを崩し地面に倒れ込む。すぐに響は怪物と女子生徒の間に挟まり、そのまま怪物の方へ向き合う。その間にに椿はすぐに女子生徒に駆け寄り、肩を貸して立ち上がらせる。


「椿君、その子頼んだ!」


「はい、任されました」


 怪物が椿達に近寄らないようにブロックする響、そのまま二人が居なくなったことを確認するとキマリスのイヴィルキーを取り出す。それと同時に響の腰にベルトが生成される。


〈Demon Gurtel!〉


 響がイヴィルキーのスイッチを押そうとした瞬間、怪物が突撃してくる。響は突撃をヒラリと回避して、イヴィルキーを起動させる。


〈Kimaris!〉


「危ねえな、憑着!」


〈Corruption!〉


 ベルトにイヴィルキーが挿入されると同時に、ベルトからパーツが射出され響の全身を覆う。

 変身が完了した響はすぐさま怪物に飛びかかると、怪物へ裏拳を放つ。怪物も響からの攻撃を防ぐが、続けて鳩尾への正拳突き、喉への手刀、頭への膝蹴りと、怪物へと攻撃が繰り出される。

 響からの連続攻撃を受けて、怪物はうめき声を上げて膝を付く。怪物の頭を掴んだ響は、そのまま勢いよく殴り飛ばす。


『そういや、あいつは何なんだ?』


『あれはゴブリンだね、日本風に言うと子鬼』


『はぁ、ゴブリンねえ』


 精神世界で響はキマリスから怪物――ゴブリンの正体を聞くが、あまり興味を持たなかった。

 そのまま響はゴブリンに追い打ちを掛けるように近づき、喉に目掛けて水平にチョップを放つ。すぐにゴブリンも首を守るが、連続して放たれるチョップの嵐にゴブリンの防御は崩れていく。

 防御が崩れて隙だらけになったゴブリンの首に目掛けて、響は抜き手を叩き込む。首への衝撃にゴブリンは、グェとカエルが潰れたような声を上げて倒れ込む。


「ゴブゥ」


「そぉら、次も首だ!」


 倒れたゴブリンの首に目掛けて、響はニードロップを叩き込む。首を襲う衝撃にゴブリンは悶えるが、地面の砂を掴み響に向かって投げる。


「目潰しだあ、猪口才な」


「ゴブ! ゴブブ」


 砂で視界が潰れた響から逃げ出すゴブリン、このまま逃げ切れると思っていたその考えはすぐに絶たれる。

 その場に似つかわしくないゴプリと肉の潰れた音が聞こえる。


「ゴブゥ?」


「何の音だ?」


 響の疑問はすぐに解決する。視界が回復した響が見たものは、腹部を蛇に貫かれたゴブリンであった。

 蛇はそのままゴブリンの腹部から離れていき、曲がり角へと消えていく。


「ま、待て!」


 息絶えたゴブリンの体が粒子となって消えていくが、響はそれを無視して蛇を追っていく。

 曲がり角へ飛び出した響が見たものは、左腕に蛇を巻きつけた紫色のイヴィルダーであった。


「お前は?」


「この学校で騒ぎを起こされたら困るからな」


「何?」


「それはお前にも言えることだ」


 そう言うと、紫のイヴィルダーは響に向かって殴りかかる。響は攻撃を防ぐが、左腕の蛇が動き出し響の首に巻き付き始める。


「がぁぐぐぐ」


 響の首をキツく締め付ける蛇、力強くで蛇を外そうと響は力を込めるが蛇は外れない。


「くそ、離れろよこの!」


「どうした? 動かないのならこちらから行くぞ」


 紫のイヴィルダーは、再び響へ攻撃を仕掛ける。響も防御するが、首を締め付けられて動きが悪くなっていく。


『くそ、キマリスこいつナニモンだ?』


『えっと……ヴィネかな、それともアンドロマリウス? もしかしてアイムかも』


『つまり、確証は無いわけだな。OK殴る!』


「殴られる覚悟はあるか? この蛇野郎!」


 響の宣言を聞いて紫のイヴィルダーは上半身を守る。しかし響は脛を狙ってローキックを放つ。


「何だと!?」


 響の予想外の一撃に驚愕する紫のイヴィルダー、そのスキをついて響は何度もローキックを放つ。ダメージの蓄積に紫のイヴィルダーは膝を着いてしまう。


「今だ!」


 響はすぐに距離を取る、しかし首に巻き付く蛇はどこまでも伸びていく。響はキマリススラッシャーを生成すると蛇を切り裂いていく。


「やってくれるじゃないか」


 紫のイヴィルダーは、響に向けて蛇を襲わせる。しかし響もキマリススラッシャーを振るい蛇を切断する。

 それを見て紫のイヴィルダーは舌打ちをすると、ベルトのキーを一度押す。


〈Unique Arts!〉


 音声と共に紫のイヴィルダーの背後に魔法陣が現れる。魔法陣からは全長五メートル程の巨大な蛇が口を大きく開けて這い出る。


「おいおい、マジかよ」


「ああ、マジだ」


 口では軽口を叩きながらも、仮面の下では汗を流す響。その軽口に対して紫のイヴィルダーは命令とばかりにパチンと指を鳴らすと、大蛇は勢いよく響に襲いかかる。

 大蛇は凄まじい勢いで響に突撃する。響も回避しようとするが、しかし大蛇の巨体に似つかわしくない俊敏さに反応できずにそのまま壁に叩きつけられる。


「くそ、ガァアア」


 響を口で捕らえた大蛇は、そのまま全力で響を噛み砕こうとする。全身を襲う痛みに響は、苦悶の声を上げてしまう。


〈Leraie!〉


「まだだ! 憑着!」


〈Corruption!〉


 響はすぐさまレライエのイヴィルキーを取り出すと、キーを起動させてベルトに差し替える。レライエイヴィルダーとなった響は痛みに耐えながら、ベルトのキーを一度押す。


〈Unique Arts!〉


「くたばれ、ヘビ野郎!」


「何!?」


 響の周囲に二門のガトリング砲が生成され、紫のイヴィルダーと大蛇に向けて銃弾を斉射する。紫のイヴィルダーは銃弾を回避するが、響に噛み付いている大蛇はそうはいかずに蜂の巣となる。


「やってくれるじゃないか」


「は、言ってろや」


 大蛇から開放された響は立ち上がり紫のイヴィルダーへと向かい合う、そして鏡合わせのように並んだ二人はベルトのキーを二度押し込む。


〈Finish Arts!〉


 ベルトから音声が流れると同時に二人の足にエネルギーを纏わせる、そして両者共に空中へとジャンプする。


「はぁー!」


「せい!」


 エネルギーを纏った両者の渾身のキックが炸裂する。空中で二人はぶつかり合い一瞬均衡したかと思うと、エネルギーは反発して二人共ダメージに耐えきれずにドサリと地面に落下する。


「ぐぅ」


「チィ」


 地面を転がる両者はすぐに立ち上がり、戦闘体勢をとる。しかしそこで「先輩!」と椿の声が二人の耳に入る。


「椿君、近づいちゃだめだ!」


「まさかお前?」


 椿の姿を見た両者の反応はそれぞれ違った。響は椿を守るように紫のイヴィルダーに立ちふさがり、紫のイヴィルダーはまるで驚いたかのように呆然としていた。


「どうした? まだ俺はやれるぜ」


 戦闘態勢を解いた紫のイヴィルダーを見て挑発する響、しかし紫のイヴィルダーは何も言わずイヴィルキーをベルトから抜き取る。


「は?」


「え?」


 変身解除する紫のイヴィルダーの行動に唖然とする響と椿、二人の表情は紫のイヴィルダーの正体を見ることでさらに深まるのであった。


「お前がさっきのイヴィルダーの正体なのか?」


「ああ、俺がアンドロマリウスの契約者だ」


 紫のイヴィルダー――アンドロマリウスイヴィルダーの正体、それは響にとって馴染み深い顔であった。その正体は友人である立花達也であったからだ。

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