不死鳥を討ち取れ

 琴乃と別れた場所に響が戻ると、琴乃が走って駆け寄ってきた。琴乃は響の怪我はないか全身を触り、怪我がないことを確認すると安心したのか深呼吸をする。


「兄貴大丈夫だった?」


「ああ、大丈夫だよ」


「よかった、心配させないでよもぉ」


 琴乃は不安だったのか少し涙ぐんでおり、声も震えていた。そんな琴乃をみた響は安心させようと抱きしめる。琴乃は恥ずかしいのか、離れようとするが、力を込めた響からは逃げられなかった。


「ちょっと、兄貴恥ずかしいし。それに兄貴焦げ臭いよ」


「え、マジ?」


 響は琴乃を離して、両腕の匂いを嗅ぐ。慌てた様子の兄を見て琴乃は微笑む、響も琴乃の笑顔を見て笑顔を見せる。


「そうだ琴乃、警察の人に聞いたけどショッピングセンターは営業してるみたいだぞ」


「本当!? じゃあ行こう兄貴」


 響からショッピングセンターが開いてることを聞いた琴乃は表情を明るくして、響の手を取りショピングセンターへ引っ張っていく。そんな様子の琴乃を見て響は現金だなと思いつつも、琴乃が元気になって良かったと思うのだった。





 ショピングセンターに着いた二人はまず、洋服売り場に行った。そこでは夏物の洋服が沢山並んでおり、琴乃はどれを試着しようか悩んでいた。


「ねえ、兄貴どれが似合うと思う?」


「んーそうだな、真っ白いワンピースとか琴乃の赤が映えると思うし。琴乃の好きな赤色コーディネートもいいんじゃないか?」


「ふーんちゃんと考えてくれるんだ。あ。ちょっと試着してくるね」


 そう言うと琴乃は数着の白いワンピースを持って試着室に入る。それを眺めていた響は、琴乃が嬉しそうで良かったと思っていた。数分すると試着室から手が伸びてクイクイと響の袖を引っ張ってくる。響が試着室の方に振り向くと、試着室のカーテンが開いて、ワンピースを着た琴乃が一回転して、似合っているか見せびらかす。


「じゃーんどう? 兄貴」


「お、似合ってるじゃないか」


「えへへ、じゃあこれは買っちゃおうかな」


 二人は洋服売り場で一時間程服を見ていた。結局響は何も買わずに琴乃だけが似合ってると言われた白いワンピースと、赤いスカートを購入するのであった。

 洋服売り場を離れた二人は、その後も雑貨、家電、食料品とショッピングセンター内を回り、帰る頃には日が沈みかけていた。


「楽しかったね兄貴」


「ああ、そうだな」


 二人共片手に買い物袋を持ちながら、帰路に付いてる最中に琴乃が語りかける。琴乃の表情は笑顔であり、琴乃を見た響も嬉しそうであった。そんな二人をあざ笑うかのように、耳をつんざくような爆音が轟く。


「兄貴何これ!?」


「琴乃、離れるんじゃない!」


 響く轟音は少しずつ近づいていく。音に恐怖したのか琴乃は響の腕を掴んで離さない。響は周囲になにか変化がないか見回すが、なにかを見つけるよりも肌が熱いことに注目する。


「熱い! まさか」


「兄貴、あれ見て!」


 琴乃が指差す方角を響が見ると、逃げ出す人々が二人の方へ走ってくるのが見える。また人々を追うように炎が、道路に渦巻いていく。気づけば辺りは煙が充満し、呼吸もままならない状態であった。

 響は逃げる方向を探している時に、上空に見覚えのある影を発見する。その影は人形で、鳥のような姿をしていた。響はそれを見て一つの思考に到達する、この騒ぎはフェネクスイヴィルダーの仕業であると。


「兄貴、逃げようよ!」


「琴乃、悪いけど先に逃げてくれ」


「なんで? 兄貴も一緒じゃないの!?」


 琴乃は離れゆく兄へと手をのばすが、その手は何も掴むことなく虚空を切る。消えゆく兄の姿を見て、琴乃の瞳からは涙がこぼれ落ちた。

 響は逃げ出す人々の反対側へ向かって走ってゆく、騒ぎの中心に行けば行くほど肌を焼く熱は強くなっていく。周囲に人が居なくなったことを確認した響はキマリスのイヴィルキーを取り出す。


〈Demon Gurtel!〉


 イヴィルキーを取り出すと同時に、響の腰にベルトが生成される。いつでも変身できるように響は、スイッチに指をかける。そして周囲に人が居なくなって数分、響の目の前で炎が嵐のように舞う。凄まじい熱量に、響は手で顔を隠してしまう。

 炎の嵐が収まるとそこにはフェネクスイヴィルダーが空に居た。


「ホーホホホホホホ、また現れましたか愚かな下等生物」


「やっぱお前だったかクソ鳥公」


 響はフェネクスイヴィルダーの姿を確認すると、イヴィルキーを起動させる。フェネクスイヴィルダーも変身させまいと、炎を操って響に襲わせるが、それより速くベルトにキーが装填される。


〈Kimaris!〉


「憑着!」


「させると思うかぁ!」


〈Corruption!〉


 命を受けた炎が響を襲おうと殺到するが、ベルトから出現した魔法陣によって防がれる。魔法陣が消えると、そこにいたのはキマリスイヴィルダーに変身した響だった。

 何も喋らず指で首を切るようなジェスチャーをする響、それをみたフェネクスイヴィルダーは頭に血が上ったように激昂する。


「死ねぇー!」


「言ってろや鳥公!」


 怒りに任せて突撃するフェネクスイヴィルダー。響は突撃を回避してフェネクスイヴィルダーの首を脇でロックすると、そのまま首を締めて顔面を地面に叩きつける。倒れ伏したフェネクスイヴィルダーの首に向かって響は、執拗にエルボーを叩き込む。


「調子に乗るなぁ!」


「熱いなクソォ!」


 フェネクスイヴィルダーは叫ぶと周囲に炎を撒き散らす。あまりの熱さに響は、フェネクスイヴィルダーから離れてしまう。響が離れたと見るやフェネクスイヴィルダーは空を舞い、響を抱えあげる。


「ホホホ、もう一度空から突き落としてくれるぅ」


「同じ技なんぞそうそう通じねえよ!」


「何!?」


 響の言葉に驚愕するフェネクスイヴィルダー、響はレライエのイヴィルダーを取り出すと起動させる。


〈Leraie!〉


「憑着!」


〈Corruption!〉


 レライエイヴィルダーに変身した響は、すぐさま腰に携帯しているレライエマグナムに手をかけると、フェネクスイヴィルダーの体に直接銃口を押し付けて引き金を引く。避けられない距離からの銃撃に、フェネクスイヴィルダーは耐えきれず響を離してしまう。

 地面に落ちた際に背中に衝撃を受ける響だが、痛みに耐えながらもフェネクスイヴィルダーへの銃撃を止めないでいた。絶え間なく撃たれる銃撃の嵐にフェネクスイヴィルダーは立ち上がれたが、体を襲う衝撃により動けなかった。

 ようやく立ち上がれた響は、銃撃を続けつつもフェネクスイヴィルダーに近づいていき、首に目掛けて回し蹴りを放つ。体がくの字になるような一撃を食らったフェネクスイヴィルダーは、地面を転がり壁に激突する。

 炎による火煙と、壁が崩れた事による煙が響の視界を妨害するが、それでもレライエマグナムをフェネクスイヴィルダーがいると思わしき場所に向けていた。

 響は何処からでも攻撃されても反応できるように神経を尖らせる。しかしフェネクスイヴィルダーの動きが何もないのだ、響にとってはとても長く何もない時間が、実際には数秒程の時間が過ぎる。

 ガラリと瓦礫が崩れた音が聞こえると響は、音が聞こえた方向にレライエマグナムを向ける。そこには熱で溶けて崩れたコンクリートがあった、それを見て響は騙された思った瞬間、響の体に衝撃が走る。

 衝撃が来た方向に視線を巡らすと、そこにはフェネクスイヴィルダーが空にいた。


「ホホホ、やはり愚かですね。この程度の偽装に気づけないとは」


 嘲笑するフェネクスイヴィルダーは全身に炎を纏うと、響に目掛けて急降下する。響もレライエマグナムで迎撃するが、フェネクスイヴィルダーは空を自由に飛び襲いかかる弾丸を回避する。

 急速接近するフェネクスイヴィルダーに響は慌てず牽制弾を撃ち続ける。そして直撃まで残り数mのところで響はフェネクスイヴィルダーを飛び越えるようにジャンプして後を取る。そのままフェネクスイヴィルダーの隙だらけの背中に向けてレライエマグナムの引き金を引く。


「な!?」


 響に後を取られると思っていなかったフェネクスイヴィルダーの背中を衝撃が襲う、放たれる銃弾の嵐を食らいフェネクスイヴィルダーは無残にも地面に墜落する。

 フェネクスイヴィルダーが墜落したのを見届けた響は急いでベルトに刺さったキーを二度押す。


〈Finish Arts!〉


 ベルトから音声が鳴り響くと同時にフェネクスイヴィルダーは立ち上がるが、すでに響はフェネクスイヴィルダーに向けて脚部にエネルギーを纏わせたドロップキックを放つ。


「はぁ!」


 必殺技の一撃を食らったフェネクスイヴィルダーはフラフラと後に下がり、そして背中から倒れ込む。そして数秒の後に爆発するのであった。

 爆発が晴れた後には一人の女が倒れ伏していた。それと同時に響の足元に爆発の衝撃でフェネクスのイヴィルキーが滑ってくる。響はすぐにイヴィルキーを拾い上げる。

 響がイヴィルキーを拾うと同時に、周囲で燃えていた炎は主を無くしたように消えていく。それを見た響はこれで被害は広がらないなと思うのであった。

 響が現場を去ろうとしたその時、サイレンが鳴り響く。響がサイレンが聞こえた方向を見ると、何台ものパトカーが響の周囲を取り囲んでいた。響はスッと倒れた女を指差すと強靭な脚力でその場を去って行った。

 一人の警察官は男に「逃していいんですか?」と語りかける。男は怪物よりも今倒れている女を確保しろと警察官に命令する。男は心のなかでは怪物に手を出す気は全く無かった。なぜならこの男、桜木千恵が所属している組織の手のものであるからだ。




 響は人気のないところで変身を解除すると、一目散に走り出した。響の内心はとても穏やかではなかった、琴乃の手を振り払ってまでもイヴィルダーをくい止めることを優先してしまったからである。


『じゃあ妹君の手を振り払わなければよかったのに』


『だからって見逃せるはずないだろ』


『フフフ、そうゆうとこ人間らしくて好きだよ』


 キマリスと精神世界で会話しながらも、響は急いで琴乃いる場所へ駆け出す。琴乃を探し始めて十数分、ようやくツインテールに纏めた赤い髪を見つける。


「琴乃!」


「兄貴?」


 呼びかけられた琴乃は響の方を向く、琴乃の声はずっと兄を呼んでいたのか枯れていた。琴乃は響を見つけると走り出し、力いっぱい抱きしめる。


「兄貴? 本当に兄貴だよね?」


「ああ、俺だよ」


「怪我とかない? もう勝手に何処にも行かない?」


「心配かけてごめん」


 響は琴乃に心配をかけてしまったことを悔やんで、力いっぱい抱き返す。琴乃は兄に触れていることが嬉しかったのか、涙を流していた。


「兄貴、家に帰るまで手を離さないでね」


「いいぜそれぐらい」


 二人は手を繋ぎながら家に帰る、その道中何度も琴乃は響の顔を覗きこみ、兄がいることを確認していた。

 家に帰った響は、リビングで琴乃の料理を待っていた。琴乃からは「兄貴は私を心配させたんだから、座って待ってて」と力強く言われたのである。

 琴乃の機嫌を取るために、響はどうしようと悩んでいたらスマホにメールの着信が入る。確認すると桜木からのメールであった。内容は今日暴れていたフェネクスの契約者についてであったが、響にとっては琴乃の機嫌のほうが重要であったためにすぐにスマホの画面は暗くなった。

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