日常を砕く一矢
響が椿と会った翌日、響は達也からじっと睨まれながら授業を受けていた。そして昼休憩の開始を知らせるチャイムが校内に鳴り響く。
(いやぁ、彼にすごい睨まれていたね響)
(俺は生徒としての義務を果たしただけだぜ、ちょっと昨日見たことを報告しただけだから問題なし)
キマリスの言葉に悪気なく答える響、そのまま弁当を机の上に置き手を合わせて食べようとする響に達也の呼ぶ声が聞こえる。
響は何のようだと思いながら呼ばれた方向を向くとこっちに来いと手を招く達也と、制服姿の椿が教室の入り口に立っていた。二人の姿を見て響はすぐに二人の元に向かう。
「遅いぞ響、客だ」
「えっと……昨日ぶりです先輩。あのお昼一緒にどうですか?」
「ああいいぜ」
「響お前が昼を誰と食べようと自由だが、悪いがこいつを少し借りるぞ」
椿の提案にグッと親指を立てて承諾する響。そんな響の制服の襟を掴んで達也は椿から少し距離の離れた場所に移動すると、内緒話のように顔を近づけて話し始める。
「昨日はよくも帰り際の時間に、あんなメールを送ってきたね響くーん」
「いやー見ちゃったからね、報告しないといけないと思いまして」
「ああ、メールを見てすぐに生徒会全員に報告のメールを飛ばして、対策と解決の方法も考えさせられたよ俺は!」
響の襟を力強く握りしめながら問いただす達也、そんな達也をどこ吹く風と響は答える。響の言葉にイラッとしたのか達也は素早い動きで体をホールドすると卍固めの体型に移す。
「痛い痛い痛い!」
「お前が、昨日、大学生が弓道場で、過激な指導を、しているって報告したからだろうが!」
響の悲鳴なぞ聞こえても無視しつつ達也は技を決めながら愚痴を吐く、わざわざ離れている椿には聞こえないように声は抑えながら。
「それで入出記録を調べてみたら、大学部の人間が弓道部に、指導目的で来てるし。そもそもお前がそんな、嘘をつくとも、思えんし!」
そのまま技を掛けつつ、達也は真面目な顔して響に顔を近づけささやく。響も達也の真面目な表情とささやかれた内容を聞いて真面目な顔になる。
「あの下屋って子が被害者だろ」
「ああそうだよ」
「だろうな。お前にいきなりあんな可愛い子が訪ねてくるとかありえん、自慢もしなかったから俺の知らない友好関係という線もない」
「お前なあそんな言い方はないだろ」
達也の言葉に文句を言う響だが、続けて達也の「だがあの子を見て考え直したよ」という言葉を聞いて言い留まる。
「どうゆうことだ?」
「おかしいよな、もう冬は終わって梅雨が近づいてるこの時期に手首、足首それに首元も肌を隠してるのはなぁ」
「確かに首元まで隠してるのはもキッチリしすぎだ、ここの制服の校則は厳しくないはず」
「だろ俺たちのクラスの女子生徒だとスカートは膝上ばかりだが、それでも膝下のスカートで一切肌を見せないのはな」
二人の視線は椿のキッチリと締められたネクタイから下がっていき、手首まで袖口、そして膝下の長いスカートとソックスに移っていく。そしてそのまま教室内にいる女子生徒達のミニスカートと太ももに目が移る。
「いい眺めだな達也」
「ああいい眺め、じゃないつまり彼女は打撲痕などを制服で隠しているかもしれない話ということだ」
「椿君が過激な指導の証拠になると?」
「かもしれんという話だ。そろそろ行ってやれ、後は俺たち生徒会の仕事だ」
達也は技のロックを外して響の背中を押す。響が振り向き、達也の顔を見るとその表情は怒りや恨みはなくヤレヤレといったものだった。
教室の外で天井を見ながら待っていた椿を見つけた響は片手を上げ、「お待たせ」と椿に声をかける。声を掛けられた椿は響の顔を見ると、飼い主を見つけた大型犬のように嬉しそうに響の下に近づいていく。
「先輩! クラスメイトの方とのお話は終わったのですか?」
「ああちょっと男同士の会話だったけど無事に終わったよ。じゃあどこで食べようか」
「えっとその、昨日と同じ中庭で食べませんか?」
「決まりだね、じゃあ行こうか」
響の答えを聞いて椿は「はい!」と元気よく返事をする、そして二人は並んで中庭までの道を歩いていく。
中庭に着いた二人が見たものはベンチに座って昼食をとっている生徒がチラホラといる景色だった、二人は空いているベンチがないか中庭全体を眺める。
「ちょっとだけ人がいますね先輩」
「ああでもまばらだから空いている所も、あそことかどうだ日陰だし」
空いているベンチを探す椿に、響は空いているベンチを指差すそこは木陰になっており一見すると見つけづらい場所にあった。
二人はベンチに並んで座ると膝に弁当を広げ始める。椿の弁当は小さく中身は色とりどりの弁当であった、対して響の弁当は大きめの入れ物にはふりかけが混ざったオニギリが半分以上を占めており、残りは肉と野菜炒めであった。
「先輩、あの先輩のお弁当はその……が作ったのですか?」
「ああ。野菜炒めは俺が昨日作った残りで、今日の弁当は妹が作ったんだ」
笑顔で話す響の返答を聞いて椿は恥ずかしくて耳まで真っ赤になりながら顔をうつむかせる、本人は彼女でもいるのかと思い質問したのだが答えは妹との共同作業だがらだ。
うつむいた椿を見て響は何か話題は無いかと思案する、そして一つの話題を思いつく。
「そういえば椿君はどうやって俺のクラスを知ったんだい?」
「あ、それはですねまず朝に生徒会に行って昨日書類を配っていた方について聞いたんです。そしたら先輩のクラス含めて四クラス教えてもらったので休み時間を使って回りました!」
「おう、すごいね椿君は」
「あ、ありがとうございます」
頬を赤らめる椿から聞いた内容に響は若干戸惑ってしまう。用事も無いのに生徒会に行ける勇気、そして違う学年の生徒会員に響のことを聞ける交渉力、俺にはできないなと思いながらも響は椿の行動力を感心していた。
二人は雑談を交えながら昼食をとっていた。そして二人の弁当の中身は空になり、ごちそうさまと手を合わせていた瞬間、風が吹き荒れて響の箸が地面に転がっていく。
「「あ……」」
「先輩、私が」
「いいよ、俺が取るから」
響は転がった箸を取ろうと椿の近くまで移動して膝を付き箸を取ろうとした瞬間、ドスリっという音と共に響の太ももに一本の矢が刺さる。矢が刺さった部分からは血が滲み出し、制服を赤く染め始める。
「がぁぁぁ! 痛ぅぅぅ!」
「先輩! 大丈夫ですか」
唐突に響を襲う痛みに、響は倒れ伏し痛みに抵抗するために地面を指で掻きむしっていた。そんな響の叫び声を聞いて響達の周囲で昼食をとっていた生徒たちは悲鳴を上げて逃げていく。椿は響を心配して駆け寄るがどうすればいいかわからずオロオロしていた。
『響狙われているのは君じゃない、彼女だ!』
『なん……だと』
『撃ってきた方向は今の君から見て左の校舎の屋上だ! まだ撃ってくるかもしれない』
「先輩救急車を呼び……っきゃぁ」
キマリスの声を聞いて響は痛みに堪えつつも近づいてくる椿をかばうように立ち上がる、しかし痛みに負けて椿の上に倒れてしまう。結果的に響が椿を押し倒したような構図になり、椿は顔を赤らめる。が次の瞬間、再びドスリと音と共に響の肩に一本の矢が突き刺さる。
『響、これ以上かばったら君が死んでしまう!』
『悪いが椿君を置いて逃げろなんてできない相談だぜ、キマリス』
『わかったせめてイヴィルダーになりたまえ、あの矢も他のイヴィルダーのものだからね』
『サンキューキマリス』
キマリスの提案と一つの事実を聞いて響は安心して一息つく、そして立ち上がり椿の手を取り立たせる。そして椿の体を校舎へ向けるように動かし背中を押す。
「椿君今すぐに校舎の中に逃げてくれ」
「でも先輩はどうするんですか」
「大丈夫大丈夫俺は撃ってきたやつをなんとかするから。でも一つだけこれから見ることは内緒にしてくれ」
校舎へと走っていく椿は心配そうに響の方へ向く、しかし響は心配ないと椿には笑顔を見せて校舎の屋上をにらみつける。
響はポケットからイヴィルキーを取り出す、それと同時にベルトが腰に生成され響はイヴィルキーの起動スイッチを押す。
〈Demon Gurtel!〉
〈Kimaris!〉
「スゥーハァー、憑着!」
〈Corruption!〉
全身を襲う痛みに耐えるため響は深呼吸をする。左手を右に伸ばし、そして右手に持ったイヴィルキーをベルトに挿入する。起動音と共に鎧が響の周囲に生成されて、肉体を覆い響をキマリスイヴィルダーへと変身させる。
キマリスイヴィルダーとなった響は肩を回し屋上をにらみつける。それと同時に校舎の屋上から風を裂くように矢が響を襲うが、人以上のスペックをもつイヴィルダーとなった響の目には、目視できるほどの速さで映り片手で掴み取る。
「ふん! 宣戦布告というわけか、さてどうやって屋上の奴の所までいくか?」
「フフフ困ったときに僕がいる、なんとかなるよ響」
「どうするんだよキマリス」
「ベルトに刺さったイヴィルキーを一回押し込むだけさ、後は君が走るだけ」
影から出てきたキマリスは任せろと言わんばかりに両手を組んでいた。そんなキマリスを響は無下にせずに解決策を聞き、ベルトのイヴィルキーを一度押す。
〈Unique Arts!〉
ベルトから音声が響くと共に響の足が四足に変わる。普段の二本足とは違う感覚に戸惑う響だが、すぐに慣れて中庭を駆け回る。そのまま勢いを付けて校舎の壁を走り出す、自分のところに来ることを危惧したのか無数の矢が響を襲うが、響は左右に動きながら走り続け遂に屋上に到達する。
「さあお前の面を拝めさせてもらうぜ!」
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