If you know the enemy and know yourself
結局買い物を完了した後に響のところに警察官が来て事情聴取が行われた。
響は怪物のことは伏せて説明したためか、怪しまれて何度も説明するはめとなり、最終的に開放されたのは夕暮れ時であった。
何度も事情を話すはめになった響はくたくたに疲れながらも家に帰ると、家にはリビングで一服している琴乃がいた。
「ただいまー」
「おかえりー、遅かったねっと」
「痛ぁぁぁ!」
疲れ気味の響を琴乃は喝を入れるために元気よく背中を叩く。しかし背中にはアラクネーとの一戦で打ち身をしていたために、響は背中に走った痛みに大きく悲鳴をあげた。
「ちょっと! 大丈夫兄貴?」
「大丈夫大丈夫。ちょっと痛かっただけだから、これ買ってきた野菜ね」
「ちょっとほんとに大丈夫?」
琴乃からしたら遅くなって帰ってきた兄にじゃれつく程度のことだと思っていたが、返ってきたのは想像以上の反応だったために心配してしまう。
しかし響は琴乃を心配させまいと気丈に振る舞い、買ってきた野菜を手渡す。琴乃は兄の様子を心配しながらも野菜を入れるために冷蔵庫に向かう。
「ハハッ。可愛らしい子だね」
「そうだろ。自慢の妹だ」
響をからかうようにキマリスは笑うが、そんなことも気にせず響は琴乃を自慢気に褒める。響は部屋に戻ると、琴乃に伝えて自室に戻る。
「さて、説明してもらおうかキマリス」
「フフフ。まずはお互いに名を名乗ろう、まだ名前も名乗ってないだろう少年?」
「響、加藤響だ」
「キマリス、それが僕の名だ」
自室の椅子に座った響はキマリスを呼ぶ、呼ばれたキマリスは響の前についにその姿を現す。その姿は軽騎士の装いをまとい、男女構わず魅了するような、響と同年代の華麗な少女であった。
キマリスの姿に一瞬見惚れてしまう響だが、すぐさま正気に戻りキマリスによろしくと手をのばす。
キマリスは響の手をサワサワと触り、感触を味わい、そして手を握り返す。手に感じる柔らかな感触に響はドキリと顔を赤く染めてしまう。そんな響の様子をみてキマリスは獲物を見つけた猫のように小さく笑みを浮かべるのであった。
「さて、まずは僕たちのことを話そう、僕たちはソロモンの悪魔と呼ばれていて全部で七十二体いるんだ。つい最近まではイヴィルキーごと封印されていたんだけど、誰かが封印を解いたみたいでね。あっちこっちにイヴィルキーをばら撒かれてしまったわけさ」
「お前みたいなのが後七十一人もいるのか。それに誰だよそんな真似をするやつは」
「まあろくでもないと思うよ、悪魔を解放するんだから」
キマリスの紹介に嫌な顔をする響、彼からすれば体を乗っ取ろうとした存在が後七十一体も存在していて、さらには全て解放されたという話だから。
「まあいいさ、次だよ次。君が昼間に変身した姿ついてだけどね、人と人外が融合した存在その名は、E・V・I・E・l・D・O・E・Rでイヴィルダー」
「イヴィルダーそれがあの時の姿、キマリスは一人であの姿になれるのか?」
「んー基本的に難しいかな人を触媒にして僕らの力をまとわせるからね、でも僕より強いやつはできるだろうし、精神世界とか夢なら僕単体でも変身できるよ」
響の質問を聞いて少し悩み、人差し指を口元にあて答えるキマリス。何気ない動作だが響の視線を捉えるほど華麗なものだった。
「ああそれであの蜘蛛の怪物についてだけど、その前に説明しないといけないことがあってね」
「説明?」
「そそ。君と僕そしてあの蜘蛛の怪物が住む世界についてね」
響の質問にキマリスは細長い指を一つ立て、響の前で指を降る。
「まずは君たち人間が住む物質界、わかりやすく例えると地球そのものだね。本来人ならざるモノは存在しない世界だ」
「もしかして専門的な講義になったりするのか? 俺そんなに頭は良くないぞ」
キマリスは両手を使って丸を作り、響に地球をイメージさせる。話を聞いている響だがキマリスの説明を聞いて少し弱音を吐いてしまう。キマリスは笑顔で「そこまで難しくないよ」と返答する。
キマリスは一呼吸置くと両手の指を二本立てる。
「次は人ならざるモノが住む世界アストラル界だ。物質界と違っていわゆる精霊や妖精それに妖怪などが存在していてね、マヨヒガだのニライカナイなんて言われてるらしいよ」
「なんだよ言われてるらしいよって、詳しく知らないのか?」
「そりゃあ僕は人間に知識を与える悪魔じゃないからね、そうゆうのは専門家に聞いてくれたまえ」
響の指摘にキマリスは苦笑する。彼女の本質は闘争であって知識ではないのだ。
キマリスは部屋を歩きベットの上に座り込むと、指を三本立てる。
「そして最後は僕たちが存在する世界、
「神様とかの場合はどうなるんだ?」
「いい質問だ。神話に出る連中は
キマリスは響の質問を聞いてニッコリと笑う。その笑みに響は不覚にも可愛いと思ってしまう。
「本題に入るけど蜘蛛の怪物あれはアストラル界の住人でね、本来はめったに物質界に現れないはずだ」
「本来はって今はどうなんだよ」
「物質界とアストラル界、
キマリスの告白を聞いた響は襟元を掴み上げる。本来は現れないはずの怪物が現れた原因が、目の前にいると聞いた響の表情は鬼気迫るものだった。
響をよそにキマリスは「冷静になりたまえ」と落ち着いた表情で響の腕を下ろす。
「専門的な知識のない君が僕を責めても物質界外の連中はどんどん現れるだけさ。それより今後のことを考えたまえ」
「今後のこと?」
「そう。連中が現れるのは止められないけど、倒すことはできる。僕の力を使えばね」
そう告げるとキマリスは両手を組みニッコリと笑う。対称的に響はキマリスの言葉を聞いて悩み、迷ってしまう。
「僕の力を使う使わないは自由だ、でも目の前で暴れている奴らを見ても君はそのままでいられるかな。例えば妹君が襲われていてもさ」
「……っく」
キマリスの出す例えに響は苦悩して両手を頭で抱える。妹が襲われる可能性、もし襲われても守れる力があるならば欲しいと願ってしまう。
「ん? 僕の力を使う代償が怖いのかね、大丈夫さ君の死後や魂なんていらない、僅かな生気と君が戦えばそれだけでいい。それが契約だ」
キマリスは悩んでる響を見て、優しく頭を胸元に抱き寄せ耳元でささやく。知らぬ人から見ればキマリスが聖母に見えるだろう、しかし詳しく知れば一転して悪魔のささやきと人は言うだろう。それほどまでにキマリスの外見は美しく、その言葉は優しいものだった。
「本当に俺に力をくれるのか?」
「ああ本当だとも。だが気をつけたまえ、君は身内を守るために力を振るうけど、他の契約者たちは何をするのかわからないからね」
「わかった、契約成立だ。力を貸してくれキマリス」
響の決断を聞いてキマリスは優しく微笑み、自身のイヴィルキーを差し出す。響がゆっくりと受け取るとイヴィルキーに描かれた紋章が輝き、右手の甲に描かれ、そして一瞬で消える。
「契約は成立だよ。これからよろしくね響」
「ああよろしく」
キマリスは契約成立を宣言するとゆっくり立ち上がり、響から少し離れると一瞬で姿を消していった。
響はキマリスが消えて一人になった部屋を見渡す、部屋にキマリスがいたことを証明する痕跡はイヴィルキーのみ、響はさっきまでのことは夢だったのかもしれないと思うほど部屋は静かだった。
夜、就寝した響が目を覚ますと自室ではなく見たことのない白い空間に一人で立っていた。見渡すと真っ白い空間が広がっていて明らかに自室より広いことがわかる。
状況がわからずに響が呆然と立ち尽くしていると、目の前にキマリスが現れる。
「キマリス、どこだここは?」
「やあ響、就寝中に呼び出してすまないね、ここは夢の中みたいなものだと思ってくれればいい。そして呼び出した理由だけど」
響の質問に答えるキマリス、そのままゆっくりと右手にあるキマリスのイヴィルキーを見せつける。
〈Demon Gurtel !〉
キマリスの細い腰にベルトが巻き付く、そしてキマリスは犬歯を見せつけるように笑いながら水平に右手を伸ばしイヴィルキーを起動させる。
〈Kimaris!〉
「君と一度手合わせしたくてここに呼んだんだよ。憑着」
〈Corruption!〉
キマリスのベルトからケンタウルスの騎士が現れ、一瞬でパーツ単位に分解し、そしてキマリスの肉体と一体化する。その姿は日中に響が纏ったイヴィルダーと同じものだった。
「響、僕と戦ってくれるかい?」
問いかけるキマリスの言葉に真剣さを感じた響はキマリスのイヴィルキーを取り出し、起動させる。
〈Kimaris!〉
「どうやら本気みたいだな、わかった戦おうキマリス。憑着」
〈Corruption!〉
響のベルトからもケンタウルスが現れ、肉体と一体化する。鎧を纏った響の姿を見てキマリスは「ククク」と小さく笑い声を上げる。
「ありがとう。響、戦ってくれて」
「礼が必要なことか? こんなこと」
キマリスの礼を聞いて響は何だそんなことかと左手を左右に振る。そして二人は近づき距離を詰めていく。
二人の同じ姿をした騎士が向かい合うと、同じ武器――キマリススラッシャーを取り出し構えを取る。響はキマリススラッシャーを両手で持ちそのまま頭の高さまで持ち上げ、キマリスは片手でキマリススラッシャーを持つが切っ先を前に向け、空いた手は頭を守るように上げる。
戦いはすぐに始まらなかった。二人とも間合いをとり、円状に歩いていく。
数十秒たった後キマリスが先に動き出す。一気に間合いを詰め一撃、二撃、と連続で突きを放つ。響も攻撃を防いでいくが、攻撃が激しく攻勢に転じることができずにいた。
「ハッハッハ。どうしたんだい守るだけじゃ僕には勝てないよ」
「うるさい、今すぐにでも逆転してやるよ」
キマリスの言葉に響はムキになって返事をする。だが攻撃は激しく、鋭く、重い、そのため防戦一方であった。しかし防御の最中でも響はキマリスへの視線は外さず攻撃への糸口を探していた。
(見えた、逆転への一手が!)
響の視線はキマリスの大きく開かれた両足に着目した、そして脳内に逆転への方程式が生み出される。
「行くぞ、キマリス!」
「来たまえ響、どんな方法で返してくるのかな。ってえ!?」
キマリスは響のとった手段に驚きを上げる。まず響は一歩前に出てすぐさま股の間にむけてスライディングを仕掛けて、そのまま後ろを取り背後から斬り付ける。
キマリスも慌てず攻撃を防ぐが、連続で繰り出される攻撃に防御一辺倒になってしまう。一歩、二歩と後ろに下がりつつも攻撃えを捌くキマリス、奥の手を使うか一瞬悩むがすぐに使うことを決意する。
攻撃を防ぎながらも空いている片手をベルトに近づけイヴィルキーを抜き取り、キマリススラッシャーの鍔にキーを差し込む。
〈Slash Break!〉
音声がキマリススラッシャーから発せられると同時に、刀身をまとうほどのエネルギーが発せられる。響はそれを見て一度距離を取るが、すぐさま距離を詰めて攻撃を仕掛ける。
疾走する響に向けてキマリスはキマリススラッシャーを振り下ろす、ヒュンと風を切る高音と共に空を舞う斬撃が響に向かって襲いかかる。
飛来する斬撃を響は回避するが、続けてエネルギー刃が響を狙って飛翔する。左右に動いて攻撃を回避する響だが連続して放たれる攻撃に距離を詰めれず、回避に専念してしまう。
「何だよそそれは! 知らねぇぞ」
「そりゃそうだよ、だって言ってないものさ」
戦況を一辺させた斬撃に文句を言う響、それを聞いたキマリスは平然と聞き流していく。
遠距離から放たれる攻撃に、このままだとジリ貧になることを予期した響は覚悟する。キマリススラッシャーを逆手に持ち直し、響はキマリスの行動を真似てベルトからイヴィルキーを抜き鍔に差し込む。
〈Slash Break!〉
「へぇ、そんな手段を取るんだ」
音声が響くと共に刃を振るい斬撃を飛ばす響。キマリスは響の行動を興味深そうに観察しながら、キマリススラッシャーを振るい迎撃する。
両者が斬撃を飛ばすなか、響はキマリススラッシャーを振るいながら少しずつ距離を詰めていく。一歩、一歩と進んでいくなか、飛翔する斬撃同士がぶつかり合い、消滅する。同じ技である以上結果は互角になることは必然だった。故に戦況を変えるのは使い手の判断。
「これが俺の戦い方だ!」
「来い、響!」
走りに走り遂に五メートルまで近づくことで視線を交わす二人。一歩でも進めば間合いの範囲内に入る距離まで近づかれたキマリスは、次の一撃を外せば一瞬生まれる隙に反撃を食らうであろうと判断する。ならば外さない距離まで近づき、一撃を持って勝利する、そのために前進を開始する。
近づくキマリスに響はイヴィルキーをキマリススラッシャーから抜き取り、ベルトに指し直し全力で走る。そしてキマリスに向けて力の限りキマリススラッシャーを投擲する。
「!?」
響の予期せぬ行動に、一瞬動きを止めるキマリス。生まれた隙に疾走する響はイヴィルキーを二度押し込み、必殺技を放つシークエンスを進める。
〈Finish Arts!〉
右腕にエネルギーをまとい必殺の一撃を放つ響、エネルギーをまとうキマリススラッシャーを首元めがけて斬りかかるキマリス、刹那両者が交差する。
「うう……」
「俺の勝ちだな」
クロスカウンターで放たれた拳をくらいうずくまるキマリスと、それを見下ろす響、決着は彼の勝利であった。勝因は素早く密着するほどの距離を詰めることによって、キマリススラッシャーを振るえなくしたことである。
キマリスは数秒ほどうずくまっていたが「イテテテ」と言いつつもすぐに立ち上がり、呼吸を整えている響に声をかける。
「女の子に顔面とかひどいと思わないのか君は」
「そうしないと勝てないからだろ」
「まあ、そのとおりだ。そうゆうのは好感が持てるよ」
ほほを撫でながら文句を言うキマリスとそれに対して言い返す響、両者は同時にイヴィルダー体を解除して人の姿に戻っていた。
「ああそうそう、君を帰さなきゃいけないね」
「どうやってここから帰るんだ?」
「こうやって君を帰すのっさ!」
勢い良く響を両手で押すキマリス、一瞬のことで響は何も反応できずに後ろに倒れてしまう。そんな彼の背後には、渦が生まれそのまま飲み込んでいく。
夢の世界から消えた響に向かってキマリスは笑顔で彼を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます