第80話
「魔力を減らす必要があるなぁ【風の針】」
ひゅんっと風を切る音がしたと、思った時には、眼鏡が何かにはじかれて飛んで行った。
「ユキ!」
生暖かいものが頬を伝う。
ネウス君が心配そうな顔で私を見てる。
『ああああっ!なんてことを、あいつ許さない!ユキの、ユキのかわいい顔に傷をつけるなんて!ぜったい、ぜったい、地獄の果てまで追いかけて始末してやるっ!』
いや、だから、地獄に行く気満々なのはなんだろうね。ディラ。できれば天国に行って頂戴。
そうか。頬を切ったのか。
「なんだ、可愛い顔してんじゃねーか。初めからその顔見せてれば……そうだな、脱げよ。脱いで買ってくださいってお願いすれば、何か恵んでやるよ」
スパンと、ディラが飛び出し、華麗におっさんの頭に回し蹴りをかました。
剣から3mも離れていたのに。すごい勢いで飛び出したからなのか。蹴りは、見事におっさんの頭を空振りした。
『くそうっ、許さない、許さないっ』
ディラが怒りに我を忘れている。
……ふふ。ありがとう。幽霊になってまで、人ために本気で怒ってくれるなんて。ディラはいい人……いや、幽霊だね。
ネウス君も、すぐに飛び出していきそうな表情をしているので、右手で制する。
「早く、飲んで本物だと確認して。本物の魔力回復薬なら買ってくれるんじゃないの?それとも、あなたはビビりなの?毒だったらどうしようと怖くて飲めないの?」
煽るような言葉を口にする。だって、このままじゃいつまでもおっさんは飲まないような気がしたから。
「はっ、誰が怖いものか!」
瓶のふたを開け、一口ごくりと魔力回復薬を飲んだとたんに、おっさんが目を見開く。
「ほ、ほ、ほ、本物の魔力回復薬っ!」
慌てて、ふたをもとに戻す。
「本物だと分かってら、買ってください。それなりに価値があるんでしょう?」
ふっとおっさんがにやりと笑った。
「それなりに価値が……か。何も知らない愚かな外民がっ!その辺で見つけたんだろう?運がよかったな。これ一つあれば、一生遊んで暮らせる価値がある」
え?
1本で一生遊んで暮らせる?
えーっと、大量にあるんだけど……。なんでそこまでの価値が?
「いいや、運がいいのは、俺か。これは、俺がもらってやる。消え失せろ外民」
え?
「ちょっと、買ってくれるんじゃないなら、返してください!別に一生遊んで暮らせるお金なんていらないけれど、取り上げられるのは」
「うるせー、さっさと立ち去れ!立ち去らないならどうなっても知らねーぞ【風の槍】」
また、呪文だ。
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