第72話

『最後じゃと?けちけちせずにもっとよこせ。ワシを誰だと思っているぅ。ひぃっく。三角帽子がおちゃめな土の精霊じゃぞぉ。よこさぬというのなら、どういう目に合うのか』

 ……。

「どういう目に合わせるんですか?私がお供えしなければ、二度と味わえませんけど、どういう目に合わせるつもりですか?私は、今日はこれでおしまいと言いましたよね?明日以降も、飲みすぎない程度にお供え続けようと思っていましたけど、そうですか、残念ですね」

 脅されたって怖くないよ。散々幽霊にひどい目にあわされてきたからね。10日くらい寝込んだこともあった。あの時は……そうだ。なんかぶつぶつと念仏を唱え続けてなんとか助かったんだっけ。……死ぬかと思ったよ。それからは、何かあったら除霊できる人を呼んでほしいと……隆にお願いしたんだっけ。

 ……うん。親は不気味がるだけで、霊のことも半信半疑だった。寝込んでいるときも、病気だろうと。病院には連れて行ってくれた。……ただし、ぶつぶつと念仏を唱え続ける私を見たきららの「叔母様、精神病院に連れて行った方がいいんじゃないですか?」という言葉で。もう少し続いたら入院させられるところだった。

『う、ぐぐ、ぐぐ、ワ、ワシは三角帽子がぷりちぃな土の精霊。土の妖精たちの王じゃ。……人に無理強いをさせるような悪い精霊じゃないぞ、いい精霊じゃ。な、ユキ、信じておくれ、ワシ、ひどい目に合わせたりしないからの?』

 ノームおじいちゃんがウルウルと目を潤ませている。

 ……あれ?おかしいな。なんだか、私がとても意地悪なことをしているようになってません?

 まぁ、なんだか、うまくできていることは確かなので。

 ローポーションの入っていた空瓶を取り出し、出来上がった魔力回復薬を詰めていく。

 これで劣化せずに保てるんだったよね。んー、これ、なかなか手間がかかる作業だ。

 2週間の間に、とりあえず売りに行く分……あと、今日みんなで飲む分と。あとはみんなで作業しよう。あ、あとノームおじいちゃんの分。

 1日1瓶でいいよね。……あ、そうだ。

「ノームおじ……ノームさん、なんか少し大きめで綺麗な石とか一つ用意してもらえますか?」

『ん?なんじゃ?人間が宝石と読んでいる石でも欲しいのか?よし、飛び切りのを用意してやるぞ。ののーん』

「あ、いや、宝石じゃなくていいです。ってか、宝石興味ないんで」

 私の言葉とほぼ同時に、どーんと、人の頭くらいの大きさの透明で透き通った石が出てきた。

 ……うん、これは水晶、水晶ということにしておこう。ダイヤモンドなわけないよね……。あはは。

 全部まとめて収納袋に入れて、戻る。

「ネウス君、えーっと、一緒に来てほしいんだ」

 作業中のネウス君に声をかける。

「ユキとならどこでも行くよ」

 ニコニコと返事が返ってきた。

「ユキお姉さんどこへ行くの?」

 ミーニャちゃんがちょっと寂しそうな顔をするので、さっき入れ替えた魔力回復薬の瓶を取り出す。

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