第66話
そんでもって、2週間たって、びっくりしたって、なにがびっくりって
ネウス君、少年じゃないんだよ。
青年なんだよ。
肉がついて、体つきがしっかりしたらさ、20歳前後でなくて、20代半ばで、少年とは呼べない見た目に変わってしまったの!
まぁ、まだ私の方がお姉さんであることは間違いないんだけれど。
ちょっと年下の男の子くらいになってしまった。
しかも、すこぶるイケメン。なんていうか、ロマンス小説とかに出てくる、シーク的な。ディラが西洋の王子的イケメンなわけだけど、それとは方向性の違うイケメン。
……濃い茶色の瞳で守るとか言われるとさ……。なんか、映画を見てるみたいなんだよ。
うっかり、こう、画面の向こう側を見ている気持ちになって、ちょっと反応が遅れちゃう。
『うんうん、なかなかいい感じに鍛えられてきたよね。まぁ、まだまだと言えばまだまだなんだけれど、素振り10000回行けるようになったし』
へ?素振り?
ディラの言葉に首をかしげる。
もしかしてネウス君は何か秘密の特訓でもしてる?ディラはそれをこっそり見てたりする?
まぁいいや。男の子の秘密を暴くものではないよね。
ちょいとディラの顔を見ると、ディラと目があった。
『できるの楽しみだな~』
『うむ。本当に楽しみじゃ』
へ?
ディラがついに、退屈しすぎて腹話術を始めた?
『ん?何、今の声?』
『ワシじゃ』
って、まって、ディラの腹話術じゃない。ディラが声と会話してる。
この声、聞き覚えが……あるような……。
『うわぁーーっ、誰?何?どうして?僕と一緒?いや、違う、もしや、まさか……えーっと、は、初めましてディラと言います……えーっと、あなたは?』
ディラがしゃがみこんで、剣に腰掛けている小さな人間に話しかけた。
『ワシはノームじゃ』
『あああ、やっぱり、えっと、そのとんがり帽子に、ノームというお名前……あなたは、地の精霊でいらっしゃいますね!』
やっぱり。ノームさんだ。
というか、ディラはノームの姿が見えるの?
見られる人は、まれだって言ってたよね?
もしかして、幽霊だから、精霊が見える?霊体同士なら見放題?
……にしては、なんか、ノームおじいちゃん、人との会話もあんまりしてない感じだったよね。幽霊ならあちこちにいるのに。
『おお、お主には分かるのか?なかなか見どころのありそうな青年じゃ』
『ああ、やっぱり地の精霊ノーム様でしたか!お噂はかねがね伺っております』
『噂じゃと?とんがり帽子が似合うおちゃめな精霊だとでも噂されておるのかの?』
……ノームおじいちゃん、とんがり帽子大好きなんですね。
そういえば、鳥に奪われそうになって木に引っかかって大変な目にあってたくらいだもの。
『古臭い帽子をいつまでもかぶっているが、禿隠しだろうと』
ディラがニコニコ笑顔で、噂をノームおじいちゃんに話している。
……あほの子ですか、ディラ……。
300年の間に人との会話というものの作法だとか空気を読むとか忘れちゃったのか、もともと備わっていなかったのか……。
ぐらりと、小さく地面が揺れた。
うひーぃ!
今のでディラも失言に気が付いたのか、慌てて言い訳を口にし始めた。
『あ、あの、僕はそう聞いただけで、全然古臭いと思いませんし、お似合いです、あの、えーっと』
『その噂は誰が流した噂じゃ』
『……えーっと』
ディラが目をそらして、こっちを見た。
助けを求める目をされても、困るんだけど!
誰が噂してたって怒りの矛先を自分からそらすために友達を売るような真似はできないと思って困っているのかもしれないけれど、300年前の人だから、大丈夫……でしょとは思ったけれど。
『シ、シーマから、その、聞いただけで、誰がもともと言っていたかは……し、知らないというか……』
ディラの目が泳いでる。
『ん?シーマ?どこかで聞いたことがある名じゃな……どこだったかの。最近聞いたような気が……』
ディラの目が泳いでいるのには気が付かず、ノームおじいちゃんが首を傾げた。
よかったね、ちょっと怒りの矛先がそれたみたいだよ。
『最近?シーマは魔族との最終決戦からそのあとどうなったか知らないけれど、ノーム様はご存じで?』
『むむ、そうじゃ!最終決戦じゃ!最近の話なはずじゃ。シーマとは、魔族との最終決戦のときにサラマンダーと契約していた人間の名じゃないのか……ってことは、ワシの帽子が古臭いと言ったのは、サラマンダーのやつか……』
うわー、うわー、突っ込みどころが多すぎて、ちょっと待って。
まず、ディラ、せっかくのノームおじいちゃんの怒りの矛先回避を蒸し返すようなことしてどうする!
それから、最近が、魔族との最終決戦の時?ディラが言うには300年前……それも怪しいけど、とにかくすごく昔なんだけど!精霊時間だと最近なの?
それからサラマンダーって何?私の認識だと、火のトカゲだよね。トカゲ。
トカゲと契約って何?
『ぐぬぬ、あいつは今どこで何をしておるんじゃ、ずいぶん長いこと会っていないが……。会ったらお前の真っ赤なマントの趣味の悪さは古臭いよりずっと最悪だと言ってやるんじゃっ』
……。精霊……って、えーっと。妖精王だとも言ってなかった?
仮にも王様と名の付く人が、お前の帽子は古臭い、お前のマントこそ趣味が悪い……みたいな子供の喧嘩みたいなこと……あー、うー。
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