第65話
と、言う感じであっという間に2週間が過ぎた。
道を作りながら森に入り、マナナの実を採取し、皆でワインもどき……えーっと、魔力回復薬を作る日々。
モモちゃんはさすがにちょっと飽きちゃったみたいだけれど、ドンタくんはいまだに実をつぶす作業は大喜びでやっている。……まぁ、時々つまみ食いするのが好きといえば、そうなのかも。
ミーニャちゃんも頑張ってくれてるし、おばばさんも疲れない程度に手伝ってくれている。
初めに見つけたマナナの木の近くにあった6本の木からの収穫が終わった後は私とネウス君も実の加工作業に加わる。
で、ディラの仕事はモモちゃんの見張り。
モモちゃんが一人で森の中に入ろうとしたり、何か危険なことをしようとしてたら私に教えるのがディラの役割。
……うん、いや、私たちみんなで頑張ってマナナつぶしたり、つぶした液体を樽に詰めたりと働いているでしょう。
『僕にも手伝わせてくれ!僕一人が何もしないなんて……』
と、申し訳なさそうな顔をしてるから。
「手伝う?どうやって?」
……と、尋ねると、うーんと少し考えて、ひらめいたとばかりににこっと笑った。
『僕を踏みつけてくれ!』
……言っている意味がわからない。
『ほ、ほら、小さな足で踏むよりも、剣を実の上に置いて踏んでいった方が、面積が大きくなる分、いっぱいつぶれる?』
……なんていうかさ。
とっても残念な気持ちになった私を、皆は理解してくれるだろうか。黙っていると、ディラが続ける。
『僕は、ユキに踏まれるのは構わないよ……いくらだって踏んでいいよ。いや、むしろ踏んでくれ!』
……ヤバイ幽霊だ。
こいつ、今までイケメンで騙されそうになってたけど、残念イケメンじゃない。
変態イケメン幽霊だ!
剣を手に持ち、歩き出す。
『え?ちょっと、ユキ?樽はあっちだよ、僕をどこに連れていくつもり?ねぇ、そっち荒野だよ、ユキ、ユキっ』
ディラが慌てて私の前に回り込んで両手を振り回す。
「ディラ、人に踏まれたいという人のことを、私の住んでいた世界ではMというの。私はね、Mと相性の良いSにはなれそうにないから。きっといつか、ディラとお似合いのSと出会えるわ……」
と、分かりやすくお別れの言葉を口にする。
『ま、まって、違うよ、踏まれたいなんて思ってないよ、ユキ、踏まれるのは剣だから、僕は踏めないでしょ?』
ん?
『そりゃ、ユキとか子供たちに踏まれたら、背中のマッサージになって気持ちいいかもとか少しは思うけれど、踏まれるのが好きなんて、そんな気持ちがあったら、アイラに叱られてもご褒美だったじゃないか!』
ん?
前にも出てきたアイラさん。ディラを叱るときに踏んだりしてたの?
っていうか、何をしたらいい大人が踏まれるまで叱られるの?それとも、子供の時の話?
そうか。踏んでもいいというのは剣の話。確かに……ディラを踏もうと思ったって、幽霊は踏めない。
勘違いしてたことを反省して、剣を持って戻った……なんて、一幕もありつつ。
結局、ディラに物理的な作業を何か手伝ってもらうのは無理という、当たり前の話なんだけれど.
いつまでも手伝えない自分は情けないだの。恥ずかしすぎて穴があったら入りたいだの。(……墓穴くらいしかディラが入れる穴はないと思うけど)
いつまでも、うじうじちょっとうっとおs……げふげふ。
なので、まぁ、ちょうど作業に飽きたモモちゃんの見張りをお願いしたというわけだ。
結局剣を持ち上げたり降ろしたりした方がよほど重労働ということで、剣はもちろん使わず。
でも、何かつぶす道具を使うという案はいいかもと、収納鞄からなんかつぶすのに便利な道具を取り出した。
両手で突き出た木の棒みたいなところを持って、穴の開いた木の板みたいなやつを実の上から押してつぶす道具。
腕の力がいるんだけれど……。
「ネウス君、日に日にたくましくなっていくね」
ネウス君は信じられないくらいその道具を軽々と扱っている。
「ポーションのおかげかな」
にこりと、精悍な顔つきでネウス君が笑った。
うぐ。
イケメンに、あっという間に成長したもんだ。
ローポーションを飲み始めて2週間。骨と皮の状態だったみんなはとても健康的になった。
モモちゃんは2歳児らしいふっくらぷにぷにな体になった。
ミーニャちゃんの美少女っぷりはすさまじいほどだし、ドンタ君は子供らしい体力無限大とばかりに無駄な動作をたくさん入れながら動き回っている。
マナナの実をつぶすのも、足踏みでいいんだけれど、ジャンプジャンプジャンプとか。
おばばさんも、肉がついて、10歳は若返ったように見える。
……皆の変わりようもすごいんだけれど、一番変化したのはネウス君だ。
「ポーションのおかげにしては……」
筋トレでもしなきゃ、いくら何でもそこまで筋肉はつかないんじゃないんだろうか?
私も同じようにローポーションを飲んでいるけれど、体の不調はなくなって健康だなぁとは思うけれど、筋肉つかないし。
食事が質素極まりないから、ぜい肉は落ちたけれど、筋肉はつかないし。
がしょがしょと道具を上下に持ち上げ降ろす動作を繰り返すネウス君の腕を見る。
なんとか筋とかなんたら上腕筋だとか名前はさっぱり分からないけれど、粗末な衣類は袖もなくて、見えている両腕は……。
力こぶとかもりっと作れるよね。
胸板も厚くなってるよね。
「んー、この作業で鍛えられたなら、もっと頑張る。男らしくなってユキを守る」
と、言っていることはね、2週間前とそんなに変わらないんだ。
奴隷にしてくれと、恩義を感じている私を守ると、役に立ちたいと……言っていた時と、変わってないんだけど。
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