第61話

 1本の木から2樽分の実が収穫できたでしょ。多分実の半分くらいの量のワインもどきができると思うから、1本の木で樽1個分。

 つまり木の実は、マナナの木10本分くらいほしい。

 木の場所は覚えておけば私がいなくなった後も皆が覚えていれば利用できるから、教えてもらうのはあり。

「あんまり遠くだと取りにいけないので、ここから近い位置にあれば教えてください」

『うむ!任せておけ!そうじゃ、その辺みたいに土をならしておいてやろう』

 道を作ってくれるっていうこと?

 道なら残る。私がいなくなった後も誰もがずっと使える物だ。

「ありがとうございます」

 素直にお礼を言うと、ノームおじいちゃんは嬉しそうにはにかみながら帽子をかぶりなおした。

「ネウス君、じゃぁ、さっそく魔力回復薬を作るために村に戻ろう、収納」

 収納鞄に樽2つを収納する。

「誰と話してたんだ?」

 ネウス君は黙って私を見ていたけれどやはり気になっていたようだ。

「うん、土の精霊のノームさん。なんかこれで連絡が取れるんだって」

 と、茶色い石のはまった指輪を見せる。

 マナナの実を取りに行くのに道を作りながら移動したので、帰りは楽だった。

「みんなー、集まって!頼みがあるんだ!」

 村に戻って大きな声で子供たちを集める。

「どうしたんじゃ?」

 おばばも来てくれた。

「魔力回復薬を作ろうと思って」

 おばばが大きな口を開いてぱくぱくと言葉が出ない様子だ。

「な、何をいっておるんじゃ……魔力回復薬など、あっても……それに、薬師でもないのに作れるわけが……」

 収納鞄から一つ魔力回復薬を取り出す。

「おばば、これです。これが魔力回復薬。魔力なしの私たちが飲んでももちろん魔力は回復しませんが、飲み物としては役に立ちます。おいしく飲めます。魔力回復薬にすることで、1年中安定して飲むことができるようになるんです」

「な、なんと……」

 おばばが魔力回復薬の瓶を持ち揺らした。

「なんとも綺麗な……これを、作るというのか?」

「ねー、おいしいって本当?」

「つくりゅのてつだう」

「どうやって作るの?」

「飲んでみたい」

 と、子供たちは大興奮だ。

「じゃぁ、さっそく作りましょう」

 やっぱり、これはあれよね……。手でというわけにはいかない……よね。大量にあるし……。今回は魔石に頼るかな。

 川か湖を見つけたら……いや待てよ?さっきみたいなスコール、雨水をためておけば……。

『なんじゃぁ、水が欲しいんか?』

 へ?

『話は聞いておったぞ。大地の精霊ノーム様じゃ。水脈の位置くらいワシに聞けばすぐに教えてやるぞ』

「ちょ、ちょっと待って」

「え?待つの?」

「あ、違う、えっと、待たない。すぐに作りましょう。収納鞄から必要な物を出すからね」

 昔のワインの作り方を見たことがある。収穫したブドウを足で踏みつぶすのだ。てなわけで。

「まずは足を綺麗に洗うのよ。手も洗いましょうか。それから、このたらいに入ってね。足が汚れないように地面は踏まずにたらいから出るときはここで待機、じゃぁ、始めるよ。ネウス君、実をここに出して。みんなは踏みつぶして汁にするよ」

「ふ、踏むの?」

「せっかくおいしそうな実なのに?」

 そうか。そうだよね。私には必要な工程だと分かっているけれど、食べ物を足で踏みつけるのはそりゃ、抵抗あるよね……。

「もちろん、食べながらでいいよ。いっぱい汁を出して発酵させるともっとおいしいものになるんだよ」

 魔力回復薬を出して、子供たちに少しずつ味見をさせる。一応うっすらとアルコールが入っているのでアルコールがダメな子がいたら大変なので少しずつ。

「うわぁ!おいしい!これができるの?じゃぁ、頑張ってつぶす!」

「きゃはは、たのちーの。足がつめちゃい」

「それそれ」

 子供たちが元気にマナナの実をつぶし始めた。

 その様子を確認してから、皆から少し距離を取る。

「ノームさん、話は聞いていたって、私、話してないわよね?」

『うむ、指輪を通じて考えていることが伝わるんじゃ』

 え?私の心は筒抜けってこと?

 ちょ、やだ、やっぱり指輪いらない!

 ああ、取れないっ。

『いらない……ま、待つのじゃ、筒抜けじゃないのじゃ。ワシが何やってるかなーとユキの指輪に向かって意識を飛ばさなければ伝わってこないのじゃ』

 ……。でも、逆に言えば四六時中何やってるのかなぁって考えたら筒抜けじゃない。

『うっ、いや、ワシもそんなに暇じゃないからな?なんといってもこの世に唯一。大地のすべてを統べる精霊ノーム様じゃ。まぁ別名地の妖精王ノームじゃ』

 妖精王?え?妖精王が精霊?む?なんかまたわけのわからない話をし始めてますよ。

『訳が分からないとはなんじゃ』

 っていうか、いちいち心を読まないでください!

『す、すまん……いや、本当に大丈夫じゃ。ワシ忙しいから、ユキがどうしてるかなんていつも考えてるわけじゃないぞ?』

 ……まぁ、私には興味はないかもしれませんが……。もう魔力回復薬はできたかな。今どれくらい作ってるのかな。マナナの実が足りなきゃもっと持って行った方がいいかもしれないな。魔力回復薬まだできないかな。早く飲みたいな……とか、四六時中私の様子をチェックしたりしませんよね?

『ギクッ』

 いま、ギクッって言いましたよね?

『い、言っておらんぞ。図星だとか思っとらんぞ』

 ……図星ですか。っていうか、こんな心筒抜けになる指輪本当に要らない。抜けないし……石鹸があれば抜けるのかな?どうしよう、ずっとこんなの嫌だよぉ。

『そ、そこまで嫌がらんでも……ワシ、精霊なんじゃがの……』

 精霊だか何だか知らないけど、私は喪女とはいえ、女だよ。独身の若い……いや、まだ若い部類に何とか入る、女だよ。男性に心読まれて平気なはずないじゃないっ!

『あ、うん、そうじゃな、確かにそうかもしれんの。すまんかった。ワシの配慮が足りんかった……』

 じゃぁ!指輪はずしてくれるんですね!

『いや、それは無理じゃ。契約しちゃったからの。ユキが死ぬまで一緒じゃ』

 ……。

 ……。そういういろんな契約における大切なことを説明せずに契約するのって、日本じゃ違法。クーリングオフできるどころか、詐欺だよ、詐欺。

『よくわからない単語がいっぱいじゃが、なんか、ワシ、悪者にされてる気がするんじゃ。おかしい、太古の昔から、人間は精霊の力を欲し、精霊との契約を夢見、精霊と契約し力を得たものは望むものはすべて手に入れることができ、国を興すも滅ぼすも思いのまま、喜びこそすれ、嫌がるなど……聞いたことも……』

 望むものはすべて手に入れることができ……ねぇ。じゃぁ、指輪をはずすことを望んだら叶うんじゃないの?

『ぐっ、そ、それは、手に入れるんじゃなくて、て、手放すというんじゃ……』

 最悪、指を落とすしか……。

『ま、待て、待つんじゃ、早まるんじゃない、ある、あるんじゃ、指輪の力を封じる方法が、指輪の石に手を当てて【封】と言えばよいのじゃ。解放するときは【開】じゃ」

 なんだ。そんな簡単にできるならもっと早く教えてくれたっていいじゃない。

『いや、これは、精霊も契約した人間によほどのことがない限り教えたりせんのじゃ。なぜなら、他の精霊と契約している人間の指輪の力も封じることができてしまうからの……』

 めったに契約する人間がいないのに、何人も精霊の指輪してる人がいる可能性はない気がする。まぁいいや。皆が頑張っているのに私だけこんなところで無駄話してる場合じゃないよね。

『む、無駄話じゃないじゃろ!』

「封」

『……』

 よし。静かになった。

 みんなのところに戻る。

「たらいに入れたのはつぶれたよ、どうするんだ?」

「うん、じゃぁ、こっちの空の樽に入れてくれる?汁だけじゃなくて、実や皮全部ね。ワインと同じならば、皮に酵母が付いていて、それで発酵するから。液体部分だけだとダメなんだよね。で、樽がいっぱいになるまで繰り返すの。いっぱいになったら、蓋をして放置。1日2~3回かき混ぜて2週間くらいかな?様子を見ながら完成を待つだけよ」

 ……たしか白ワインは気温が15度を超えないように、赤ワインは30度近くでもオッケーだったはず。どっちかな、これ……。色から判断すると、赤ワイン系。……っていうか、よく考えたら15度を超えないようにしようと思うと、この場所じゃ難しいよね。日陰においても20度は超えそう。あの洞窟の中の、ちょっと奥に持って行けば大丈夫かな?

「分かった!」

 子供たちが元気に返事をして、作業を続けていく。

 ただ踏みつぶすだけとはいっても、細くて軽い体の子供たちじゃぁかなりの重労働だろう。

 それに、あれ?この作業を全員でしてたら、ご飯の準備ができないんじゃ……?

 食べられる木の実を取ってきたから、それを食べれば水分も補給できるとして。

 それだけじゃさすがに……。

 子供たちと一緒にマナナの実を踏みつぶしながら小さくため息をつく。


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皆が望む精霊との契約……ノームおじいちゃん……

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