第53話

「これだけ取れるなら……」

 ディラからもらった収納鞄に頼らなくても、子供たちはローポーションを飲むことができる。

「持って帰りましょう」

 いくら収納鞄の中に何万本もあるといったって、使うだけならいつかなくなる。

 だから、体力がついて食べ物をしっかり食べられるようになったら、もう飲ますつもりはなかった。……入手方法がない物に頼っては……頼りきりになるのは駄目だから。

 スライムを倒せば手に入るというなら、話が違ってくる。

 だけれど、スライムはどれくらいいるのだろう。全部やっつけちゃったらいなくなるんなら、すぐになくなってしまうものなら駄目だ。

 数に限りがあるのなら、乱獲しないように数を絞る必要がある。……本来ならいろいろ試して確認するべきかもしれないけれど、とりあえず”スライム博士”に聞いてみようか。

 ローポーション40本を抱えるのは流石に分けても大変だった。重たいとかでなく、バラバラなので落とす落とす。

 というわけで、収納鞄に入れて運ぶ。

「運搬系の魔法が使えないから……」

 収納鞄にローポーションを入れるのを見てネウス君がつぶやいた。

 また、魔法が使えないからか!

 運搬系の魔法って何?……ふと、王都で私を乗せた板っ切れを思い出した。

 魔法の絨毯みたいだと少し喜んでしまったけれど……。

 ぜんっぜんすごくなんかないんだからね!トラックや貨物列車や船や飛行機でもっと早くたくさん魔法なんてなくたって運べるんだからっ!

「籠を作りましょう。背負い籠。そうすれば森の中も両手を開けて歩き回ることができるわ」

 遠くに運ぶなら馬車。そういえば王都には馬車を見なかったのは魔法で運搬できるからだろうか。荷車さえなかった気もする。

 だったら、作ればいい。トラックとかはむつかしいけれど、荷車や馬車は……頑張れば作れるかもしれない。問題は車輪だよね。そこをクリアすれば

 最悪、丸太を切っただけのタイヤ。それでも小さな荷車……一輪車くらいなら作れるかもしれない。重たくなるとダメだよね。竹かごみたなのと組み合わせる?

「籠?」

 布は貴重そうだから鞄を作るのはむつかしい。動物の皮で鞄を作ることはできるか。森で蔦や木の皮なんかがあるから、籠が一番材料に困らない気がする。

「ユキはいろいろなことを知っていてすごい」

 ネウス君が尊敬のまなざしを私に向ける。違う、私はすごくないよ。運よく日本で暮らしていただけ。それを自分の能力だなんて勘違いなんてしないよ。

「ネウス君もすごいよ。ミーニャちゃんを助けるために一人で荒野を歩いていくの。自分を犠牲にしても薬を手に入れようとするの。こんな状況なのに、ちゃんと人のことを思いやれるの。本当にすごいことだからね」

 ネウス君がびっくりした顔をして私を見る。

 それから、恥ずかしそうに下を向いて、小さな声でつぶやいた。

「あ……りがと……」

 ふふ。

「さぁ、ついた!」

 目印の空瓶をたどって無事に戻ってこられた。

『ああー、ユキ、ユキ、ユキ!よかった!無事に戻ってきた!」

 ディラが森の入り口でくるくると回っている。

 そしてねじれた体が逆向きに高速に回ってもとに戻った。……うん、剣とつながってるから、面白い動きができるね。ゴムゴムの実でも食べたのか?って動きしてる。

 ああ、目が回ったみたいだ。幽霊でも目が回るんだ。ふらふらとなりながらディラが私を見て笑った。

『よかった。心配で、心配で、生きた心地がしなかったよ』

 それで、正解ですよ。

 生きた心地がする方がおかしい。死んでるからね。

 とはいえ。

「心配してくれてありがとう。ディラにいくつか教えてほしいことがあるんだけれど」

 と、収穫した実を収納袋から取り出した。

「これ、知ってる?」

『ああ、ヤムヤムの実と、レモと、マナナだね』

 知ってた。ありがたい。

「ディラはいろいろ知っていてすごいね」

 と、口にしてハッとする。あらら、ネウスと同じことを私は口にしてるね。ディラが物知りなのか、単にディラの生きていたもしくは生活していた場所では常識的な知識なだけかもしれないけれど。やっぱり知らないことを教えてもらえるのはありがたいな。うん。

「食べられるの?」

 ディラがうんと頷く。

『ヤムヤムの実はおいしいよ。レモは、混乱状態から回復するのにかじって使うことが多い。すごくすっぱいから好んで食べる人はいないよ』

 すごくすっぱい?レモンみたいなものかな?とすると、ビタミンが豊富そう。

『マナナは、魔力回復薬の材料になるものだよ。そのまま食べても少しは魔力は回復するけれど、薬にすると薬師の腕にもよるけれど効果は何倍にもなる』

「そのまま食べられるんだ。魔力回復とか関係ないから、そのまま食べればいいよね」

 と、言ったら、ディラが残念そうな顔を見せた。

 ん?

「ディラ、魔力回復したいの?っていうか、魔法使えないんじゃない?その体じゃ?」

 幽霊が魔法使えたらすごく厄介だと思う。

 だって、火魔法とか、攻撃的なものが使えたらさ、恨んでる相手に復習し放題じゃん。

 ディラがへらりとだらしない顔をする。

『魔力回復薬はおいしい』

 あら、飲みたそうな顔。

「収納鞄に入ってる?」

『うんっ!入ってるよ!ちょっと高価だけれど、いっぱい買って入れてあるよ!』

 高価なんだ。高価だけどいっぱい買ったんだ。

 ディラは生前ぼんぼん?

「魔力回復薬」

 一つ取り出す。

 マナナは紫色のスモモみたいな実。魔力回復薬は紫色。

「ん?これ……」

 まさか?と思って蓋を開けて匂いを嗅ぐ。それからごくりと一口。

『うわーん、ユキ、お供えお願いしますっ』

「ワインっぽい?喉が焼け付くような感じもないし、アルコール度数は高くなさそう」

『何言ってんの?ユキ、お供えお供え』

 ディラがじたばたと地面を踏み鳴らしている。

 ……。

 ディラの様子を見て心配になってきたぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る