第52話
「ユキっ!」
ふらついて、転びそうになった私を、ネウスが抱き留めた。
ぎゅっと後ろから抱きしめられるような形になる。
「大丈夫?」
「あ、うん……」
心臓がどきどき言ってる。べ、別にきれいな男の子に抱き留められたからじゃないんだからね!十も離れた少年にときめくなんてないんだからね!いくら喪女だって、こじらせたりなんてしてない……。た、ただ、転びそうになてびっくりしただけで。このどきどきは。
「よかった。ユキに何かあったら、俺……」
ネウス君が何か言おうとして、すぐに顔を背けてそっぽを向く。
……奴隷になろうとしたりしたくらいだし、ネウスはまだ私をご主人様みたいに思ってたりしないよね?私にけがをさせるようなことがあれば責任を取ってみたいな変なこと考えてないよね?
「ネウス君に何かあっても、私は悲しいからね?」
ネウス君がびっくりした顔をする。
「うれしい……」
それから、ぼそりとつぶやいた。
大切に思われていることは……そうね。私もうれしい。
「あら?」
ぽつりとほほに水滴が当たり、上を見上げる。
木々の間から見える空は青いけれど、その向こう側はずいぶん薄暗い。
「スコールが来る」
ネウス君がハッと声を上げる。
大雨が降るのか。んー、ぬれても問題ない気温ではあるけれど、ぬれたくはないなぁ。着替えもないし、タオルすらない……。
「どこか雨宿りできそうなところはないかしら?」
進んできた道にはなかった。ちょこっと先に進むべきか。
ポーションの瓶の目印は忘れずに設置。
「探してみよう?大きな木の下なら少しは……」
きょろきょろと見回し、大きな木がないか探しながら進んでいく。
あ、そろそろ次のポーション瓶をと、カバンから取り出して木の枝に刺そうとしたら、慌てすぎたのか、するりと瓶が手から落ちた。
ころころと転がる瓶に手を伸ばし、届くと思うと、さらにころころ。
何で逃げるのよっ!
まぁ、ちょこっと傾斜になってるし、瓶は丸いし、転がるか。って、でこぼこしてるところで引っかかって止まってよ。
と、期待してさらに遠くへ行った瓶へと手を伸ばす。
視界に入っているのは、瓶。と伸ばした私の手だけ。
「しまった!」
傾斜になってるその先がどうなっているかとか、まったく見えてなかった。
瓶しか見てなくて、しかもこのあたりに至るまで雨宿りできそうな大きな木を探すため遠くに視線を向けていた。
つ、ま、り。
「きゃぁっ!」
足元とかすぐ先の場所とか、全然見てなくて。気が付いたら足が滑ってステーン。そのまま斜面を……。
「ユキっ」!
私の手を取ったネウスとともに、滑り落ちてしまった。
……3mほどの高さだったのが幸いだったか。あくまでも斜面なので。滑り台のように滑り落ちただけで。……
「びっくりしたぁ」
しりもちをついて呆けている私の前で、ネウス君が心配そうな顔をしている。
「大丈夫、ユキ?どこか痛くないか?」
■
体の感覚を確認する。うん、ちょこっとぶつけたお尻が痛いくらいか。しりもちついて痛いとかその程度だ。
「大丈夫だよ。ごめんね驚かせて。ネウス君は大丈夫?」
立ち上がって、おしりについたゴミや土を払いながら訪ねる。
「大丈夫。ごめん、支えきれなかった……」
ネウス君が悔しそうな顔を見せる。
ぐっとこぶしを握り締めた。
ふっ。ふふっ。がりがりな年下少年が、いっちょ前なこと言うのがかわいくて、思わず笑ってしまった。いけない。ちょっとしたことで傷つけちゃうかも。ぐっと表情引き締めてネウス君から視線を外す。
「あ、見て!ネウス君!こういうの故郷じゃ怪我の功名とか棚から牡丹餅とかいうんだよ!」
「え?」
ネウス君の後ろ、私たちがずり落ちた場所から少し右側を指さした。
そこにはぽっかりと洞窟の入り口があった。
「雨宿りにちょうどいいね」
にこっと笑って洞窟へと足を踏み入れた。
ん?なんか踏んだような感触があった。一瞬ちょっと光ったような気がするけれど気のせい?
私の後ろからネウス君も洞窟に入ってくる。そのとたんに、外ではまるでバケツをひっくり返したかのような大雨になった。
「ほら、運がよかったね。雨が止むまで少しここで待とうか」
スコールと言っていたし、夕立みたいに短時間で止むんだよね。
洞窟の入り口の方が地面から高くなっているから、水が流れ込んでくる心配はなさそうだけれど、斜面にあったから、山肌を流れてきた水が入り口をまるで滝のように流れ落ち、跳ね返った水が……。
「少しだけ奥に行こうか」
プチン。
ん?
また何かを踏んだような気が。あれ?足元で光った?
「なんだ、これ?」
ネウス君が何かを発見したようだ。しゃがみこんで足元を見ている。
しゃがんでネウス君の視線の先を見る。
ぷるんっ。
そう、ぷるんっとしたという形容詞がぴったりとする半透明の物体があった。
「……水まんじゅう?」
もう少しよく見ようと手を伸ばしたら、勢いよく水まんじゅうのような、いやゼリーのような、それがぷるんっと飛び上がって、私の顔にぷよんっと当たって、消えた。
「え?ええ?え?あれ?」
ピロローン。
へ?電子音みたいなのが聞こえた気が?いや、この世界で電子音なんてあるわけはないよね?空耳?
「あ、こっちにも」
ネウス君が水まんじゅうもどきに手を伸ばすと、ぽよんと跳ねてネウス君の手にぶつかって水まんじゅうが消えた。
……。
もしかして、これ、ディラの言っていたスライム?すごく弱いって言ってた……。
「消えちゃった。なんだろう?魔法かな?」
ネウス君が首をかしげる。
なんと、ネウス君はスライムを始めてみるし、スライムというもののことを聞いたこともなかったのか。
■
「あっちにもたくさんある」
あるんじゃなくて、いるが正しいと思うけれど。スライムって生き物だよね?ぷるんぷるんで水まんじゅうみたいだけど……。
たくさんいる水まんじゅう……100か、200の目がこちらに向いた。目かどうかわからないけれど、動きが「あ、発見!」みたいな感じだった。
そして、一斉にカエルのようにピョンコピョンコと跳ねてこちらに向かってきた。
「ネウス君、あれ、モンスターだよ。弱くても……」
いくら弱いからって100も200も一斉にとびかかられたらヤバイんじゃない?
逃げないと。洞窟の入り口を振り返ると、外は大雨。一瞬躊躇したら、次々に私とネウス君に水まんじゅうが体当たりしてきた。
顔にへばりつかれたら窒息して死ぬかもなんて思ってたけれど、カエルのようなジャンプ力の水まんじゅうは、私とネウス君の膝下にぽよんぽよんとぶつかり、消えて行った。時々光って消える。
「あれ、今、光って、これ」
ネウス君が何かを拾い上げた。
「ローポーション?」
ネウス君の手の中には、ローポーションがあった。
「そういえば……ディラが……」
ローポーションは踏んづけただけで死ぬスライムから取れると言っていたような。それで、なんか収納鞄に自動回収機能があるからとか言ってたような。
ってことは、私にぶつかってきたスライムが出したローポーションはそのまま鞄に収納されるわけね。
「あ、また出た。ユキ、光ると出てくる」
そうか。光ると何かドロップするのか。
「それから、なんか音がするんだけど……」
ピロローンっていう電子音のことだよね。
さっきから私も何回か聞こえてるんだよね。
「あ、雨やんだ!」
ネウス君の声に洞窟の入り口に視線を向けると、外から光が差し込んできた。
「あ、変なのが洞窟の奥に戻っていく」
スライム(仮)たちが、光を避けるように洞窟の奥へと逃げていった。
水まんじゅうみたいな見た目だし。水分多そうな感じだし。光に当たると干からびちゃうのかな?
「そうか、日が当たらないところがあいつらの住処なんだ。だから今まで見たことなかったんだ。すげーよ、ユキ、見てくれ、これ」
ディラが足元にたまったローポーションを拾い集め始めた。
「確かに、なんかすごいね……」
ほんの5分か10分か。ただ、ぴょこぴょこ体当たりしてくるスライムを見てただけなのに、ローポーションがごっそり。20本近くある。
「今収納した分のローポーションよ出てこい」
試しに自動収納されたローポーションを出してみた。やっぱり、20本近くある。
つまり、全部で40本近く。
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洞窟じゃなくて、どうやらダンジョンみたいですね。( ̄ー ̄)ニヤリ
ダンジョンがあって、モンスターを倒すとドロップ品が……
今回はまともです。ハズレポーションも出てこないし、ハズレドロップ品も出てこないよ。味噌も醤油もないよっ!wwww
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