第48話

「ディラ、私は怖くないの?」

 ディラがきょとんとした表情を見せる。

『なんで?顔に変なのしてても怖くないよ?』

 顔に変なのって、眼鏡のことですかね?

 いや、眼鏡のことを聞いているんじゃなくて。

『ユキ大好きだよ。怖いわけないじゃない。とういうか、こんなに好きな気持ちをどうしたら伝わるんだろう』

 ……キラキラと、女性の心を一瞬でとらえるような笑顔を見せてディラが笑う。

 ……好きだと言われてもねぇ。

 女は怖い。私のことは怖くない。

 そこから導き出せる答えは1つ!

 まったく、女として見られてない……。

 はい。出た!答え、出た!地味に、傷つく答え、出た。いや、まぁいいんだけど。

 っていうか、それで大好きって……インプリンティング、刷りこみ現象、なんていうか、300年ぶりにはじめて会話した人間に懐いたてきな、あれですかねぇ……。

 そ、それとも、幽霊らしく執着系なの?……ぶるるっ。

『ユキは?』

 ディラが不安そうな顔をして私を見る。

 は?私は?ディラを男として見てるかってこと?……なんて聞くわけないか。

 幽霊だし。

 ……ちょっとぶるぶるってしちゃったから、怖がってるか心配したのかな?

「怖くないよ」

 幽霊だけど、ディラは怖くない。怖い幽霊を散々見てきたんだから、幽霊っていうだけで無条件に怖がるようなことはしない。

『そ、そうじゃなくて、ユキは……』

 ディラが何か言おうとしたところで、呼ぶ声が聞こえてきた。

「ユキィー!朝ごはんだって!」

 ネウスが駆け寄ってきた。

 ああ、よかった。ネウス君、起きられたんだね。

「大丈夫?いつもより起きるのが遅いらしいけれど……」

 ネウス君が息も乱さず私の目の前まで来ると、私の手から剣を何も言わずに受け取る。

「うん、大丈夫だ。なんか、ちょっと体中が痛いけど……」

 って、全然大丈夫じゃないっ。体中が痛いって……!

 ディラがしまったって顔してる。やっぱりディラ、あんたのせいねっ。

「俺、寝相が悪いからたぶんあちこちにぶつけたんだと思う」

 にこっと笑って恥ずかしそうに頭を書くネウス君。……う、ごめん。本当はうちのディラが原因……って、うちのじゃない。

 ディラはうちの子じゃないからっ。うちの幽霊がご迷惑を……とか聞いたことないからっ!

『いや、たぶん筋肉痛……』

 ぼそりとディラがつぶやく。

 は?やっぱり金縛りにでも合わせたのね!抵抗して全身で体を動かそうと頑張った結果、全身筋肉痛……ってことか……?

 申し訳ない……。

「ユキは、俺の心配してくれるんだ。俺が、ユキのものだから?」

 ネウス君が嬉しそうな表情を見せる。うっ。まだ、奴隷になんてしないって言ったのに、どうして……私のものとか言うのか!

「だから、ネウス君は私のものじゃないよ。昨日、決めたの。ネウス君はモモちゃんやドンタ君やミーニャちゃんを妹や弟だと言ったでしょう?この村はみんな家族みたいなものなんでしょう?だから、私も入れてほしい。私を、ネウス君のお姉ちゃんにしてもらえないかな?」

 ネウス君が言葉を失っている。

「弟のことを心配するのは当たり前だし、弟や妹を助けるのも当たり前でしょ?だから、えーっとそういうことね?」

 ネウス君が下を向いた。

「……俺……ユキのものでいたい」

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