第41話

『あれ?ユキ、どうしたの?怒ってる?』

 喪女のくせに、おしゃれしようとも思わない癖に、それでも女扱いしてもらいたいとか思う自分にも腹が立つ。

 でも、もしおしゃれしても女として見てもらえなかったらって、怖くて、怖くて……おしゃれしないことで保険をかけてたんだ。

 自分が変わることで隆の態度も変わるのが怖かった。怖くて、何も行動できなくて……。

 隆の女の座は手に入らなかった。けれど、幼馴染の座は失わずに済んだ。うん、だからいいんだ。いいんだ……。

『ねー、ぎゅーってしてもいい?』

 は?

 イケメンが私の顔を間近で見ている。眼鏡をはずしていても、霊の姿だけはなぜかよく見えるんだよね。

 半透明だけど、しっかりと表情は見える。なんだか、ちょっとドキドキして返事を待っている表情が。

 ぎゅーってなんだ?抱き枕にでもしたいのかと思ったけれど、そもそも幽霊って、人も物も触れないじゃん。通り抜けるじゃん。それくらいわかってて、何がぎゅー?

『こ、こんな気持ち……初めてなんだ……。ユキを見てると、無性に、だ、抱きしめたくて……』

「!!」

 まさか、金縛りに合わせる気なの?

 ニコニコ嬉しそうに、いい人ぶって、金縛りに……!

 いや、これはもしかしなくてもディラが悪いんじゃなくて、幽霊の本能的なものなのかもしれない。

 こんな気持ち初めてっていうし。幽霊になってから周りに人がいなくて今まで経験したことがない、本能的な衝動……?!

 けれど、ごめんこうむる!

『え?ちょっと、ユキ、なんで寝ないの?立ち上がって、僕を持つの?どこに行くの?』

 すでに外では地面の上にコロンとネウス君が丸まって寝ていた。

 金縛りにすんなよと、ディラを睨み付けつつ、ネウス君から少し距離を置いて剣を置く。

「じゃぁ、お休み~」

 ひらひらと手を振ってミーニャちゃんの隣に戻る。

 目をつむって、現状をいろいろ考える。

 荒野は、初夏のような感じだったかな。25度前後?日がじりじりと照り付けると暑かった。夜は15度よりは下がってないと思う。

 この場所は森の入り口で木々が適度に日差しを遮ってくれるから、昼間でもさほど暑くは感じ。屋根がかろうじてあるだけの建物しかないということは、1年中温暖なのだろう。雨も少なさそうだけれど、森があるからには適度に雨も降ってるのかな。荒野は水をため込むことができずに水が流れて行ってしまって木がはえないのかな。サボテンは生えてたし、砂ネズミなどの動物もいたので、雨も時々はふる?地下水はある?どっかにオアシスみたいなとこもある?うーん、よくわからないなぁ。

 でも、少なくとも……森の入り口は下草も生えてたし、乾燥に強い特殊な木々じゃなければ生育できないみたいな感じには思えなかった。

 探せば川や湖なんかもあるのかもしれない。

 水が手に入るといいのに。でも、森は危険だって言ってた。どこまで危険なんだろう。幼児もいるし……、。迷子になって帰ってこられない可能性もあるか。確かに、危険だから入っちゃ駄目としっかり教え込まないと。森の中に行けば食べるものがあるよ、木の実もあるよなんて知っちゃったら、気がついたら森から出られなくなりそうだ。

 明日おばばにいろいろ聞いてみよう。

 明日からも頑張らなくちゃ。魔力ゼロでも幸せになれるんだよって……えーっと、畑、その前に水、えーっと、ああ、だめ、もう瞼が……おやすみなさ……い。


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