第36話
「うわーすげー!すげー!」
ドンタ君は大はしゃぎだ。
モモちゃんも樽を見慣れたのか、ドンタ君にくっついて樽を触り始めた。
……と、いうか……。
「ディラ、なんでこんな酒樽がたくさん入ってるの?」
『あー、ドワーフの村に行くときにはいつも酒の詰まった酒樽をいっぱい持って行くんだけれど、帰りには空になった酒樽を持って行くことになるからな。まだまだ大量に入ってると思う』
ドワーフも、いるんだ。酒好きのイメージは確かにあるけれど……。
まぁいいや。
ディラにやり方を聞きながら、6つの酒樽になみなみとお湯をためる。
「あの、それもアーティファクトですか?」
ミーニャちゃんが、水の魔石と火の魔石を不思議そうに見た。
うーんと、ネウス君も魔石のことは知らなかった。ミーニャちゃんも知らないんだ。おばばさんは知ってるのかな?
「なぁ、何してるんだ?見せてくれ」
酒樽の高さは私の胸元くらいまである。ミーニャちゃんは中を見ることはできるが、ドンタ君は中が見えない。
酒樽の縁に手をかけてよじ登ろうとし始めた。
「危ないっ!」
慌ててドンタ君を止める。まだお湯がたまりきっていない酒樽は軽く、ドンタ君がぶら下がったことで倒れそうになる。
「ユキっ!」
ドンタ君を抱えたまではよかったけれど、そのままバランスを崩した酒樽が倒れてきそうになった。
トンッと、私の背中が何かに当たる。
二本の腕が伸びて、倒れそうになった樽を支えた。
「大丈夫か、ユキ」
耳元でネウス君の声が聞こえる。
「ああ、ネウス君……ありがとう」
「ユキが無事でよかった……」
ネウス君がそのまま樽を押してもとに戻す。
樽、ドンタ君、私、ネウス君という配置。背中にネウス君がぴったりとくっついている。
『ああー、ネウス、ユキに変なことするな、ユキを助けてくれたことには礼を言うけど、僕のユキにいつまでも引っ付いてるんじゃないっ。かわいいユキの近くに行きたいのは分かるけど、かわいすぎて思わずぎゅってしたくなるのも分かるけど、僕の許可なくユキをぎゅっとするのは僕の目が黒いうちは許さないぞっ』
ディラが何かおかしなことをわめいている。
……いや、突っ込みどころが満載過ぎて、どこから突っ込んでいいのか。かわいくないし、ディラのでもないし、ぎゅっともされてないし……。
そもそも、目は黒くないよね。死んだからとかでなくて、そもそも、黒目じゃないよね……。
ネウス君が樽を起こして離れると、ディラはぐっとこぶしを握り締めた。
『どうして、僕は僕の手でユキを助けられないんだろう……』
いやぁ、幽霊ですからね?……ずいぶん落ち込んだ表情をしている。
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