第35話

 魔王だとかモンスターだとか、アーティファクトがどうとか、よくわからないけれど……。

 おばばさん、確かに「子供のころ本で読んだ」と言ったよね……?

 本を……読む……ってことは、文字が読めた。

 文字を習ったってことだ。

 魔力ゼロじゃないの?おばばさんは……。魔力ゼロの人間を低級民と呼び、酷い扱いをする街で、おばばさんは教育を受けられる環境にあったの?

 そういえば、火が消えた時に、とても焦っていたよね?っていうことま魔力ゼロってことで間違いないと思うんだけれど。

 どういうことだろう。おばばさんが子供のころは、魔力ゼロでも王都から追い出されるようなことはなかったということだろうか?それとも、親がかくまって守っていた?

「ポーションといい、その鞄といい……殿上民でも手に入れるのが難しいような品を……ユキはどうしてもっておるのじゃ?」

 おばばさんがいぶかしむ目を私に向けた。

 いや、相変わらず開いているのかどうか分からないような細い目なんだけれど。緊張した空気が流れている。

「えーっと、荒野に、落ちてたのを拾いました」

 嘘じゃないよ。ディラに教えてもらって掘ったら出てきたんだし。拾ったのには間違いない。

「そうじゃったか……。探せば、まだお宝が眠っておるということじゃな……。聞いたか、ネウス、ミーニャ」

 ネウス君とミーニャちゃんがおばばさんに頷いた。

 えっと、宝探しでもするつもりかな?

「よく見ておくのじゃ。一見ただの小さな入れ物じゃが。あんな大きなものが入ったり出たりするんじゃ。アーティファクトの一つ……収納鞄と言うものじゃろう。それに、精霊様にお供えした小瓶、あれはポーションじゃ。見つけたら王都の連中にも高く売れるじゃろう」

 売る?

 あのベールの向こうに住む人たちにってことだよね?人は行き来できないけど、物は行き来させることはできるってことかな?

 そういえばネウス君は薬を買いに街に向かっていたし、おばばは火を買うお金がないとも言っていた。

「すごいです、収納鞄……。本当に、こんな小さなものに、あんなに大きなものが入っていたんですか……」

 ミーニャちゃんがじっと収納鞄を見た。

「もう一回出すとこ見せてくれよ!」

 ドンタ君の興味は樽から収納鞄に移ったようだ。

 出すのはいいけれど、何を出そうか。そもそも、何が入っているのかよく知らないんだよね。

 ふと、子供たちの顔を見る。……真っ黒だよね。

 樽風呂にはいったら、すぐにお湯が真っ黒だよね?洗ってから入るにしても……いったんお湯に浸かって垢を和ら無くしないと落ちなさそうなんだけれども……。そうすると、浸かる、出て体洗う、綺麗なお湯に浸かると……。

「酒樽、あと5つ出てこい……って、そんなに入ってないか……」

 と思ったら、ドスンドスンと、酒樽が次々に出てきた。

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